まず、今まで僕が目(耳)にした、ステレオフォニックスを形容する言葉を列挙してみる。
誠実な
無骨な
実直な
律儀な
飾り気のない
などなど…。
ついには「本物のロックバンド」などと形容する輩までいる。
冗談じゃない。
「本物の」なんていう言葉ほど胡散臭い言葉はない。
僕は「本物」なんて望んじゃいない。
僕はもうそんなにナイーヴじゃない。
「本物」はいつも「偽物」だった。
「誠実さ」はいつも簡単に僕を裏切った。
僕はギミックが大好きで、スキャンダルが大好きだ。
なぜなら、すでに僕はギミックやスキャンダルにまみれた日常を生きているから。
ステレオフォニックスに最初に出会ったのが、昨年のフジロック・フェスティバル初日。
何の前情報もなく、いきなり彼らの生の音に出会えた僕は、本当にラッキーだった。
音を聞く前に、上記のような情報だけで彼らを判断していたら、僕はきっと彼らを“どうでもいいバンド”
として認識し、今日のすばらしいパフォーマンスを目撃する事もなかっただろう。
こう考えるとゾッとする。
“何の飾り気もない無骨な3人が、一見時代がかった「誠実ロック」を実直に演奏するだけのバンドが、
新世代のギターロックバンドとして、なぜこうも熱狂的に受け入れられるのか?”
これが僕の今日のテーマだった。
“どこかに必ず何か過剰なものがあふれ出てくるはずだ。”
それを確かめるため、会場に足を運んだ。
午後7時過ぎ、客電が落ちメンバーが登場。
1曲目“roll up and shine”の雷のような爆音SEが鳴り響く中、ぞろぞろとメンバー登場。
ケリーの肩には、ギブソン・レスポール・ゴールドトップ!
弾き出された音は、まさしく鍛え抜かれた鋼のようなグルーヴだった。
サウンドの中心は、重くずっしりと重心の下がったリズム隊。
そこに鋭利なヘヴィー・ディストーション・ギターが絡んでいく。
3人の音ひとつひとつはとにかくぶっといが、演奏はとってもタイト。
特にケリーのギターの音は特筆すべきだろう。
カッティング主体のギタースタイルながら、かなり歪ませているところに特徴がある。
重く中低音を中心に歪ませて音圧を出す、ヘヴィーロックやブリティッシュ・ギターロックバンドのギタリストたち
とは違い、金属音に近い音でリズムを立たせ、曲の輪郭を明確にすることに重きを置いた音づくりをしている。
ケリーは今日、レスポールの他にテレキャスター、SG(フジロックで使ってたやつ)、アコギ、と曲毎にギターを
変えていったが、それぞれ考え抜いた音作りがされていた。
そして、音圧の足りない部分は、サポートのキーボードで補うというやり方だ。
3人の音が独立して絡み合い、見事なアンサンブルを形成していくと、これが非常に暴力的なグルーヴを生み出す。
ここにケリーのどこまでも上っていくような歌が乗っかると、かなりのカタルシスを覚える。
鳥肌が立つ瞬間だ。
僕は“本物のロックかー”と、心の中でささやき、ニヤニヤしてしまった。
1曲目から、アンコールを含め20曲、約90分のステージだった。
フォニックスはこの間、正に突っ走って行った。アッと言う間だった。
そして僕は今夜、確実にフォニックスが発する“過剰なもの”に圧倒された。
フォニックスがステージから発するエネルギーは、無防備であまりにもストレートな感情だ。
僕は最初少し戸惑ってしまった。だけどその後少し、涙が出た。
他人の気持ちなんか分かるはずもないから、探って、誤解して、傷つけて、嫌われる。
自分の気持ちなんか分かってもらえるはずもないから、「お前なんかに分かってたまるか!」
って壁を作って、安心してる。
面と向かって感情をぶつけ合うことなんて、想像もできない。
分かっていれば、多分逃げ出す。
本当に面と向かってこんなコミュニケートされたら、ただただ狼狽えるだけ。
でもやっぱりうれしかった。
今夜コンサートの中盤(12曲目)で演奏された“プラスティック・カリフォルニア。”
11曲目の“サウザンド・トゥリーズ”で昨年のフジロックのダイナミズムを思い出してた時に、この曲が突き刺
さってきた。
現実に引き戻されたんだ。
フォニックスは、僕らと同じように虚無も絶望も知っている。当たり前のこと。
彼らもトウキョウと同じようにアディダスやナイキやマクドナルドに占領されたロンドンで、そして多分、故郷の
ウェールズで、何度も思考を停止し、感情を殺した夜を越えてきたんだ。
“プラスティック・カリフォルニア
俺たちには何も証明すべきものがないということを証明してくれ
いくつかの愛 いくつかの憎しみ
とにかく君に会えて良かった”
ステレオフォニックスを形容する言葉。
前述した言葉は全て当たっている。
こんな前時代的な言葉で形容されるロックバンドが現在進行形でリアルなのは、ひとつの小さな奇跡だと思う。
今夜のブリッツの入りは、正直寂しかった。
明日はぎゅうぎゅうのすし詰め状態を期待したい。
会場全体でダイブしてモッシュして合唱して、ほんの少し泣いてもらいたいと思う。
この小さな奇跡を、ひとりでも多くの人に目撃してもらいたいと心から思う。
- SET LIST at 6.11 TOKYO AKASAKA BLITZ
- 1. ROLL UP AND SHINE
- 2. MORE LIFE IN A TRAMPS VEST
- 3. THE BARTENDER AND THE THIEF
- 4. HURRY UP AND WAIT
- 5. PICK A PART THAT’S NEW
- 6. T-SHIRT SUNTAN
- 7. NOT UP TO YOU
- 8. TOO MANY SANDWITCHES
- 9. I WOULDN’T BELIEVE YOUR RADIO
- 10. SHE TAKES HER CLOTHES OFF
- 11. A THOUSAND TREES
- 12. PLASTIC CALIFORNIA
- 13. IS YESTERDAY TOMORROW TODAY
- 14. SAME SIZE FEET
- 15. TRAFFIC
- 16. LOCAL BOY IN THE PHOTOGRAPH
- 17. LAST OF THE BIG TIME DRINKERS
- 18. JUST LOOKING
- encore
- 19. LOOKS LIKE CHAPLIN
- 20. I STOPPED TO FILL MY CAR UP
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