今日も渋谷でロックンロール!?(sex&drugs&rock'n'roll)
5月24日、月曜日。午後6時。
"全くこんな雨の月曜日だっていうのに、相変わらずスゴイ人だなー、渋谷は。"
約10年前の僕は、ほとんど毎日のように渋谷に遊びに来ていた。しかし、最近は滅多に来ない。それこそ今日のように、QUATTROにライブを見に行く時くらいだ。

Rokkets  今日はWILKO JOHNSON VS Sheena & The Rokketsを見に行く。 開演は7時なので、まだ時間がある。少しぶらつこう。しかしこれからライブを見に行くって言うのに、この傘が邪魔だ。でも傘は、絡まれ た時に強力な武器になる。傘があれば3人くらいに絡まれても、確実に逃げられる。これは10年前に実証済みだ。うまく行けばひとりくらいなら倒せるかも知れない。そうだ、ここは渋谷なんだ。昔、何度絡まれたことか…。

 センター街、公演通り、道玄坂をぶらぶら…。空も薄暗くなってきた。雨に滲んでネオンが眩しい。
"あの頃のオレは、毎日のようにここで何をしていたんだろう?"
 そんなことを考えていたのは、道玄坂を上っていって、円山町(ラブ・ホテル街の 入口に差し掛かった頃だ。
"あ、あそこ入ったことある。まだあるんだー。あの時はあの娘と…"なんて。
 もちろんそんなにイイ思いばっかりしたわけじゃない。みんなと同じくらいの思い出が僕にもあるだけ。
 脇道に入ったりすると、風俗店の看板が目にはいる。裸同然のモデルの写真が目に入る。これがまた可愛かったりするんだ。立ち止まってじっくり見たいという気持を押さえて、そんな気は全くありませんという顔で通り過ぎる。結局立ち寄った店は、タワーレコードとHMV。10年前に聞いていたバンドやアルバムは、確かに最近ほとんど聞かなくなった。しかし、今でも僕は月に5枚位のCDを買い、貪るように聞いている。ライブも平均すれば月に3回位は行っている計算になるだろう。あの頃も今も僕はロックンロールに夢中だ。そうだ、何も変わっていないんだ。多分あの頃の僕も、ただ、気持ち良くなれることを探していたんだ。

Rokkets  午後7時半。
 シーナ&ザ・ロケッツ登場。
 鮎川誠って人は、もう存在がロックンロール。佇まいがロックンロールの格好良さの象徴。上下黒のタイトなスーツに、黒のシャツ、そしてお馴染みのサングラス。そしてギターは、これ又お馴染みのギブソン・ブラック・レスポール。参りました。もう、勘弁して下さい。

 ステージは、ロックンロールの古典「KING BEE」で幕を開け、カバー曲、新旧のオリジナル曲を織り交ぜて約1時間。ロックンロールが持つ、攻撃性が全面に出たステージだった。

 シーナ&ザ・ロケッツは、よく正統派ロックンロール・バンドと呼ばれている。 確かにそうなんだろう。21年ものキャリアで、そう呼ばれ続けてきたのだから。ただ僕は今日、ロックンロールを成熟させるという方向性とは正反対のベクトルを感 じた。 ロックンロール・フォーマットをしっかり踏まえながら、キャリアに付き物の伝統主 義や権威主義の罠を巧みにかわし、攻撃性、実験性を追求し、破壊衝動や肉体的快楽 主義に基づいた、あくまでも現在進行形のロックンロール。ストーンズよりもフーに近いもの、最近ではジョンスペに近いものを感じた。

Rokkets  僕には21年のキャリアは全く感じられなかった(もちろんイイ意味で)。現在のシーナ&ザ・ロケッツが、まるで二十歳そこそこの荒削りなガレージ・パンク・バンドようなテンションを発することが出来るっていうのは、やっぱりすごい事だと思う。 この辺が若い客層を増やしている原因だと思う。

 今日のステージで、そのテンションが爆発したのは、去年のフジ・ロックでも演奏さ れた"レモン・ティー"。アントニオーニ監督の66年の映画「ブロウ・アップ(欲望)」で、ヤードバーズが演奏する曲がこの曲。この時のジェフ・ベックが最高にかっこいい。僕の中では、映像に残っているロック・パフォーマンスの中で、5本の指に入る程のパフォーマンスだと思っている。実は昨日、NKホールにジェフ・ベックを見に行った。がっかりした。ホント。もちろん、ヤードバーズやジェフ・ベック・グループを期待してた訳じゃないけど…。ジェフ・ベックはロックンロールを退いてしまった。今日の鮎川誠は、昨日のジェフ・ベックの100倍カッコ良かった。

Wilko  午後8時30分
 ウィルコ・ジョンソン・バンド登場。
 ここから、アンコール2曲、シーナ&ザ・ロケッツと一緒にもう2曲。この間、自分はずっとロックンロールを愛してきたこと、そして今も愛し続けている ことを確認するような時間だった。
 大好きなロックンロールに“"愛してる!"って告白しているような時間だった。ロックンロールが大好きだ、と言うことに恥ずかしさを感じていた。だから、そんな自分を嘲笑って、"ロケンロー!イエー!"なんて言っていた。だってついこの間まで、ロックンロールって、なんか恥ずかしかったんだ。やっぱりロックンロールって照れくさい。 でもウィルコのギターを聞いていて、知らぬ間にステージに向かって告白していた自 分。
"実は僕、ロックン・ロールが大好きなんです。"
そしたらステージから真顔で"オレもだよ…"
 楽しい。うれしい。体が動く。汗をかく。気持いい。

Wilko  肉体的快楽原則に忠実なロック。
思考的観念型ロック。
僕はニルヴァーナを愛してる。
カート・コヴァーンを愛してる。
僕は同じ時間を生きたんだ。
あの時代の正義は、間違いなく思考性、観念性にあった。
フラストレーションの爆発は肉体性をも内包している。
ロックン・ロールの有効性。
同じようにウィルコ・ジョンソンを愛する自分を認めよう。
思考と肉体は決して切り離せない事実に跪こう。

 ウィルコ・ジョンソン・バンドは今も間違いなくパブ・ロックだ。僕は思いを馳せていた。ロック・パイル、デイブ・エドモンズ、ニック・ロウ、そしてイアン・デューリーに…。
Wilko  ローリング・ストーンズに夢中だったあの頃。確か僕は、高校生だった。さっき僕は、自分の宝箱をひっくり返してみた。残ってるはずのチケットが、残っていない。何年の何月何日だったんだろう?ボクシングかプロレスしかやらないはずの後楽園ホール。イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズの来日公演。その時の前座が、ウィルコ・ジョンソン・バンドだった。"sex&drugs&rock'n'roll"... あの時のあの感覚は正しかったんだ。清志郎が飛び入りしたあの日。気持Eことが全てだった。

 イアン・デューリーは今、癌と闘っているらしい。小児麻痺の足を引きずり、マイク・スタンドを杖代わりに、ステージ狭しとかけずり 回っていたイアン。歌っている途中に、バランスを崩して、倒れちゃうんだ。しかも直角に倒れちゃうんだ。倒れた後、思い通りに動かない足を、マイクでバンバン叩くんだ。
「ロックンロールの神様。堕落した神様。イアンを助けて下さい。イアンの削られた肉体が、僕にロックンロールの肉体的快楽を教えてくれたんです。」
もう一度、どうしてもイアン・デューリーのライブを見たい。

5.24.WILKO JOHNSON VS Sheena & The Rokkets at Shibuya CLUB QUATTRO
"あー、ホントに変わってないなー、この人達。そう、老け込んだら終わりでしょう?ロックンロールは!"
何も変わらないためには、肉体的快楽原則に忠実に、今を生きること。

 ライブ終了後、外に出ると雨は上がっていた。時計を見ると、もう10時過ぎ。 駅に向かって歩き出した。雨は上がっていたが、傘を手にしっかり握りしめて…。 何気なく出てきた鼻歌は、やっぱり"sex&drugs&rock'n'roll"だった。

Reported by Toyomane


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