Glen Scott @ Shibuya Quattro (19th May, '99)
歌心と魂のこもった感激のライヴ、グレン・スコット
「この人、なんてジャンルなんでしょうね」
5月19日、渋谷クアトロで演奏するグレン・スコットのライヴを見ながら、そんなことを尋ねる人がいた。
「さぁて、なになんでしょうね..」
実際のところ、彼の音楽をどういったところに位置付けすればいいのか、まともな解答を与えられる人はいないだろう。基本的にはシンガー&ソングライター。でも、それは音楽のジャンルなんてものではなくて、単に自分で曲を作り、演奏し、歌う人... それだけのことだ。
ではなになんだろう。例えば、この日、最初の曲で彼が演奏するピアノにかなりジャズっぽいものを感じたのも確かだし、ウッド・ベースをフィーチュアするなど、どこかで彼がジャズを意識しているのは間違いないだろう。でも、彼の音楽は明らかにジャズではない。
誰かが「フュージョン」という言葉を口にしていたけど、音楽のジャンルとしてのフュージョンとなると、そのイメージからはほど遠い。もちろん、彼の音楽に様々なものが融合(フュージョン)されているのは間違いないし、それが大きな魅力を持っているのも確かだ。そこにはジャズからR&Bから70年代の良質なポップスのエッセンスも垣間見ることができるのだ。
が、彼の音楽をそういったジャンルでくくるには無理があるし、なによりも重要なのは、彼がこの時代に数少ない「歌」を感じさせるアーティストであるということじゃないだろうか。しかも、その歌がひしひしと伝わってくるのだ。
実を言えば、すでに彼のライヴを経験していたのが筆者。今年の1月24日、ロンドンのジャズ・カフェでのことだった。とりわけ彼の名前を知っていたわけでもなく、たまたま仕事で彼のライヴに接したのだ。
「悪いけど、ビデオの撮影を手伝ってくれないか? 彼の来日に向けたプロモーションのためにライヴの撮影をするんだよ...」
と、スマッシュ・ロンドンのスタッフに頼まれ、かつてビデオ・ジャーナリズム的なことをしていた体験から、この仕事を引き受けたのだ。が、その時点ではアーティストが誰でどんな音楽をやっているのか全く知らなかったというのが本当のところだ。
さて、そのライヴはなんと日曜日のお昼に開かれるというもの。そのせいか、会場についても人影はまばらで、おそらく、この時、地元のロンドンでさえも、彼のことはまだ広く知られていなかったのだろう。そんなこともあって、実をいうと、それほど彼のライヴには期待していなかったのだ。
ところが、演奏が始まって、しばらくすると、このアーティストの持つとてつもない才能に大きな衝撃を受けることになるのだ。
ステージに立っているのは今回の来日メンバーと同じ面々。さらに、ストリングス・セクションが加わっている。まだ、それほどライヴの経験がないのだろう、演奏が始まってしばらくの間、グレンに堅さが見られたのだが、それも徐々にほぐれていくのがファインダー越しに伝わってくる。この時、アルバムも聴いたことがなく、セットリストも手元にはなかった。が、あれ以降彼のアルバムを聴いて覚えてしまった「Heaven」や「The Way I Feel」あたりのインパクトは強力だった。
時にはピアノ、そしてピアニカあたりを操りながら、歌うグレンの表情が、卓越したミュージシャンたちの演奏と絡まって輝き始めるのが手に取るようにわかるのだ。まるでなにかが彼にとりついているような... 後半になると、そんな姿に背筋がゾクゾクとするような感覚におそわれたものだ。
あれからわずか4ヶ月で東京公演を経験することになるのだが、なによりも驚かされたのは、まるであれから彼らが何年もライヴ体験してきたかのようにグレンとその仲間たちの演奏がタイトになり、迫力を増していることだった。かなりジャズっぽい幕開けに関しても、演奏の端々から情念のようなものがほとばしっている。前回のロンドンでのライヴが「徐々にオーディエンスに火をつけていった」ものだとしたら、今回は初っ端からとてつもないパワーを全開したような演奏でオーディエンスをぐいぐいと引き込んでいるのだ。
「あの時のライヴを比べられたら... だって、あれから何度も何度もライヴを繰り返してきたんだよ。今は、もうバンドとして完全にひとつになっているし...」
と、そう語っていたのがグレン。実にあの1月のライヴはバンドを作って間もないときのものだったというのだ。さらに彼はこうも付け加えている。
「それに、日本のオーディエンスはすばらしいよ。彼らの反応が僕らに火をつつけたんだ」
やはり曲の良さがあるんだろうが、この日も圧倒的な印象を残してくれたのは「Heaven」と「The Way I Feel」の2曲。特に、後者の演奏で、グレンがピアノを離れ、マイクを手にステージ中央で歌い出したときの強力なこと。まるでなにかにとりつかれたかのように歌う彼の姿に、誰もが興奮していたに違いない。
そして、アンコールで登場したあとに歌った「A Piece Of My Heart」... 言葉のひとつひとつまでもが心の奥底にまで伝わってくるようなヴィヴィッドな表現力にまた圧倒されてしまうのだ。
この日演奏されたのは全14曲。
Delusions Of Grandeur
Valentine Malloy
Tuesday Afternoon
Without Vertigo
It's Alright
Wet Supermodel
I Cried
Cold Fame
My World
Heaven
The Way I Feel
------アンコール-------
A Piece Of My Heart
Easy
Superstar
1時間20分の演奏で、確実に日本のオーディエンスのハートをつかみ、熱狂で幕を閉じたのがこの日のライヴ。聞くところによると、昨日彼のアルバムがアメリカで発表され、全米を回ってのライヴを考えているとのこと。おそらく、それが実現した頃には一段とスケールアップして日本に戻ってきてくれるだろう。それを確信できたのが今回の初来日だったような気がするのだ。
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report and photos by hanasan
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