ザ・エックス・エックス @ 代官山ユニット (14th May. '10)
恐るべき、すき間たち
ライヴ中であるのに、お客さんが傾けるコップの中の氷が「カラン、コロン」と鳴る音が、あちこちで聞こえてくる。ギター、ベース、サンプラーなどの機材という最小限の編成で、ひとつの音と音とにすき間があるのだ。ドリンクを飲む以外には、不用意な音を出すこともためらわれる。アコースティックなライヴではないのに関わらずだ。
普通のバンドなら、ディストーションやリヴァーブなどのエフェクターやシンセサイザで音のすき間を埋めてしまおうとするのだけど、このバンドは、すき間を埋めることはしない。簡素な編成、ペラペラなギター、つぶやくようなヴォーカル、まるでヤング・マーブル・ジャイアンツが2010年代によみがえったような、このザ・エックス・エックスは、お客さんを踊らせず、癒しもせず、熱狂させず、でも何かとんでもないものを観てしまった思いにさせられた。
代官山ユニット。ソールドアウトが伝えられたフロアは、場所によってはラッシュ時の電車内のように身動きとれないくらい。お客さんは外国人も多いし、普通の会社帰りの男女、バンドをやってそうな人、ゴスっぽい格好の人などバラエティに富んでいた。いろんな人から注目されていることがわかる。19:10ころライヴが始まる。ステージ背後にはシンプルに大きな「X」が飾られていた。そして、ギターの紅一点、ロミー、ベースのオリヴァー、機材を操作するジェイミーが登場する。ほとんどの曲でロミーとオリヴァーが掛け合ったり、ユニゾンしたりして歌う。その歌は、上手いわけでも、力強く歌うことも、叫ぶこともないし、つぶやくようなものなんだけど、先入観なく聴けば、ネオ・アコースティックのバンドにも通じるようなメロディがあるし、例えばアコースティックギターで弾き語りのスタイルであっても、けっこういけるのではないだろうかと思える。
そうした歌を際立たせているのは、何度もいっているようにすき間の多いバンドサウンドである。生音に近いエレキギターと、深く沈むようなベース、そして、打ち込みに任せず、リアルタイムでサンプラーのパッドを叩いて生み出されるドラムが今まで体験したことないような空間を作り上げる。驚くのは彼らはまだ20歳くらいだというのに、こうした素がみえてしまう音を確信的に出してしまうことだ。日本の若いバンドなら、不安を埋めるように、自分たちの音をすき間なく塗りたくってしまうのだけど、彼らは一歩間違えば、「眠くなる」「楽器が下手なのがわかる」というリスクを冒しながら、すき間だらけの音を出しながら見事なライヴを作り上げたのだ。ライヴの後半は多少リズムに合わせて体を揺らしている人もいたけど、踊らせるというほどのビートでもない。聴く側に集中力と緊張感を強いる。
途中、Kyla(カイラ:フィリピンの若手女性R&Bシンガー)のカヴァーがあっただけで、淡々とデビューアルバムの曲を演奏していった。本編最後の「インフィニティー」では、ジェイミーの機材の前に一枚だけあるシンバルがようやく鳴らされる。そして、そのシンバルをジェイミーに代わってオリヴァーが連打したときの高揚感がすさまじかった。そこだけが熱くなったところだったし、彼らがその効果を計算しているようだった。恐れ入った。アンコールも含めて1時間くらいのライヴだったけど、これで十分満足だった。
-- setlist --
Intoro / Crystalised / Islands / Heart Skipped a Beat / Fantasy / Shelter / VCR / Kyla("DO YOU MIND?") / Basic Space / Night Time / Infinity
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report by nob and photos by terumi
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mag files : The XX
恐るべき、すき間たち : (10/05/14 @ Daikanyama Unit) : review by nob, photos by terumi
photo report : (10/05/14 @ Daikanyama Unit) : photos by terumi
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