渋さ知らズ @ 渋谷クラブクアトロ (22nd Apr. '10)
やっぱり、渋さはライヴだった
一体、今年の東京に春はあるのかというくらい冷たい雨が降っていた渋谷・クラブクアトロ。渋さ知らズオーケストラがアルバム『渋夜旅』を発売したことを記念した東名阪ツアーの初日である。場内はいつものように飾りつけられ、お立ち台がいくつか備えられ、下手には大きなスクリーンがあった。それだけで渋さ知らズのライヴにきたという気分が高揚してくる。
19時10分ころ、突然ドリンクカウンターとスクリーンの間からホーン隊とダンサーたちが現れる。演奏しながらフロアを練り歩き、ステージに上がる。そして他のメンバーやダンサーたちが揃う。まずは、新譜から「ドラゴ」。『渋夜旅』は、緻密に作りこまれたアルバムという印象だったけど、やっぱりライヴは違う。何層にも重ねられたホーンが勢いよく鳴り響くというところで、まず家で聴いているのと違う。この迫力は、この場でないと体験できない。もちろん、渋さお馴染みのダンサーたち -- 気高く指の先まで神経が行き届いているような動きで、かつエロさを体現するペロとさやか、また、ずっとバナナのぬいぐるみを持ってゆらゆらしている女の子2人や、白塗りのダンサーたちなど、ステージだけでなくフロアに割って入ったりあちこちに現れる。そうした音と動きから得られる濃度が渋さのライヴにはある。
魂がこもる激しく演奏している傍らで、私語をして笑い合ったり、次の演奏に思いを巡らせて譜面をめくったり、目をつぶって他の人の演奏に浸っていたり、楽屋まで飲み物を調達しにいったり、たくさんのミュージシャンが、それぞれのテンションで渋さ知らズオーケストラの演奏に関わっている。そしてそれらがひとつの大きな表現としてライヴハウスの中を満たすのだ。それはフロアにいるお客さんたちをも巻き込み、一緒にライヴに参加することを促す。それが終盤の定番曲「本多工務店のテーマ」の盛り上がりにつながっていく。
この日、感じたのは「ロックじゃん、超ロックじゃん」ということだった。昔から、渋さ知らズオーケストラにはロックの面はあったし、ロックのカヴァーもやっているし、不破大輔がフジロッカーズorgのインタビューでボソっと「自分はロックだから」といったこともあったし、フジロックやいろんな野外フェスでの盛り上がりにジャズとかロックとかの区分けも関係ないというのは十分にわかっていたけど、でも、これはロックである。渋さ知らズオーケストラのメンバーの多くはジャズ界で食っている人であるのかもしれないけど、出てくる音はまさしくロックであった。特に「ア・デイ・イン・ザ・ライヴ」の狂ったようなギターソロは、70年代のハードロックギタリストのようだったし、「ナーダム」のダイナミックな音の構築ぶりにロックを感じたのだった。新譜は素晴らしい、だけどやはり、結局のところ「渋さはライヴだよな〜」ということなのだ。これは音楽を聴きにいくという行為でなく、渋さ知らズオーケストラを体験するということなのだ。
それからフィッシャーマン、渡部真一のMCが面白かった。ロシアでのレコーディングのこと、今度やる大阪の会場をずっとクアトロと勘違いしていたことなど、熱血な海の男なのであるが、どこか抜けている感じがとても笑えた。
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report by nob and photos by 山下恭弘
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