在日ファンク、neco眠る(ねこねむる)、面影ラッキーホール @ リキッドルーム恵比寿 (11th Apr. '10)
「裏」屋内ロックフェスティバル
雨の予報があったけど、なんとか天気も持ちこたえた日曜日、桜の花も散り際、麗らかな陽気に誘われ、東京の音楽ファンは、KAIKOOとか渚音楽祭とか野外イベントに出かけたことだろう。一方、その夜の恵比寿リキッドルームにはえもいわれぬ空気が漂う。正直、この空気を体験できたことは、ある意味誇るべきことではないだろうか。正統派の音楽ファンが、おそらく今年初めての野外フェスティバルを謳歌している裏で(まさに「裏で」)、敢えて、在日ファンクとneco眠ると面影ラッキーホールを観るために足を運び、暗い屋根の下で踊るというのだ。その場にいた人たちは胸を張っていい。
この日、最初に登場したのは在日ファンクである。サケロックのハマケン率いるこのバンドは、徹頭徹尾ジェームス・ブラウン(JB)への敬意、そして愛に貫かれている。メンバーはホーン隊3人とギター、ベース、ドラム、そしてヴォーカルのハマケンから成る。お揃いの出で立ちのバックバンドと、スーツでキメたハマケンは、迫力十分の高速ファンクをぶちかます。ハマケンの切れ味あるアクションは完全にJBのそれであり、掛け声もJBのマナーで貫かれている。それでいて歌詞が「段ボール肉まん」とか「環八って魚のことかと思った」というものなのだ。音やアクションはJBのコピーなんであるけど、オリジナルすぎる歌詞のおかげで、世界のどこにもない独特なのものになっている。
次は、neco眠るである。ひとつひとつの楽器から放たれる音は、非常にざらついていて、鋭くロックしているものなのだけど、全体としては牧歌的な感触がある。それはピアニカが中華ぽいメロディを奏でたり、リズムが和太鼓みたいからなのだ。ベーシストがなぜかパンツ一丁、サンバイザーとサングラスという姿でプレイするなど、見た目も音も不思議な世界を作り出す。集中して聴けばエッジの効いたロックとして楽しめるし、踊ることができるのだけど、会場を満たす音に体を委ねるようにすると眠気を誘うほど心地よくもある。
最後に、この日のホストである面影ラッキーホール。いつものように大所帯のバンドから繰り出されるファンクは迫力がある。珍しく、激しいファンクナンバー「温度、人肌が欲しい」から始まる。もしかしたら在日ファンクとのステージに触発された選曲なのだろうか。そして、老人と少女の宇能鴻一郎的な官能の交歓を描く「今夜、巣鴨で」とノリのいい曲を続ける。
ヴォーカルのアッキーがMCで「こんばんわー、○ら○ら帝国でーす」と、いつものように、そのとき話題になっているバンドを名乗るというボケをかまし、「○ラ○ラなう、ってツィッターでつぶやいているやついるだろ」と自虐的になり、その原因と思われる「KAIKOO(カイコー)ピーポー」とか「渚音楽祭」という言葉をコール&レスポンスさせ、さらに「○西君脱退」とか「○子様不登校」と時事ネタを叫ばせる。この娑婆でおこなわれる雑事を丁寧に救い上げ、タイムリーな話題に対して敏感に反応するのが面影ラッキーホールの面目躍如である。だからこそのあのエグいタイトルを持つ曲の数々なのだ。
面影流の人力ヒップホップであり、ダメな女とダメな男が堕ちていく様を描いた「必ず同じところで」、そして哀しい女の独白「好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた」、再び人力ヒップホップ「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」。
そしてパフュームとか相対性理論や神聖かまってちゃんにチクリと触れてから、後半はノリのいい曲を畳みかける。交通事故を起こして性生活が送れなくなっても愛を誓っ たよね、と妻が切実に訴える一方で夫は離婚を画策する「私が車椅子になっても」、アニメの主題歌になり、80年代アイドル歌謡曲へのオマージュに満ちた「あたしだけにかけて」、タイトル通りのファンクナンバー「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた……夏」、不祥事を起こした高校球児「俺のせいで甲子園に行けなかった」と続いた曲は、それぞれに振り付けがあり、ステージではアッキーとコーラス嬢やホーン隊の人たちが踊るのだけど、フロアも合わせて踊るお客さんが多い。
アンコールは、何かをきっかけに夜の世界から足を洗う人、夜の街に入っていく人、それぞれの人間模様を描く「コレがコレなもんで」、そして、アッキーがパンツ一丁になり、ラストは「東京(じゃ)ナイトクラブ(は)」。典型的なディスコナンバーで、バブル崩壊後の東京のクラブシーンを描く。失われたものは失われたまんまで、どうすることもできず踊るしかないという現実が、この曲の底に流れているようだ。もちろん、表面的には楽しく踊れる曲なのであるけれども、面影ラッキーホールの曲には常にそういう二面性を抱えるのだ。
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report by nob and photos by naoaki
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