ギャズズ・ロッキン・ブルース 30周年記念
feat. ザ・スカフレイムス、サウンド・ディメンション、ザ・スカタライツ
@ 新木場スタジオコースト (4th Apr. '10)
先生で兄貴で友達の30周年記念パーティ
ギャズ・メイオールという人は、ノイズだらけのドーナツ盤をスピンしたかと思えば、次の瞬間にはフロアへ飛び込んでステップやターンを披露し、たとえレコードの無音部分に針がさしかかろうともお構いなし。他の誰よりも酔っぱらいなんてことも、ままある。時には、フリスビーの要領でレコードをフロアに投げたりもする。スカ好きのルーディ(不良)にとってのギャズは、スカとリズム&ブルーズの先生であり、飲んだくれの兄貴であり、ずいぶんと歳の離れた友達であったりもする。それだけならまだしも、グダグダに酔っぱらった彼を見やり、「だらしねぇなぁ」とニヤニヤすることも珍しくない。そんなクセのある人物だけに一度ハマると抜けられず、回を重ねるごとに見知った顔が増え、同窓会の様相を呈してしまう。
ギャズィーズ・ロッキン・ブルーズ30周年の生音一発目は、スカ・フレイムスだった。彼らは各々が本職を持っているため、音を合わせる機会が少ない。しかし、彼らにブランクを感じたことはない。固く張ったスネアへのショットはどこまでも突き抜けて、宮崎のギターはしっかりと裏を捉えてリズムを刻んでいく。トランペット、サックス、トロンボーンの集合は煙となってフロアへと流れ込み、時折飛び込んでくる紫垣のギターは、「スカ」の名を冠するバンドにありながらも、ブルーズとしての芯は外さない。
オーディエンスがヒリヒリとした不良な色香を捉えれば、我先にと重心を低くしてはモンキーダンス(腕を上下左右に振る、スカ特有のダンス)に興じ、なびく旋律と伊勢の歌声を浴びれば、とろけてしまう。フレイムスのライヴは、いつも揺れて暴れてのアメとムチ状態となる。そこへ割り込んできたのが、浴衣に着替えてメロディカを持ったギャズ。となれば、ザ・トロージャンズでカバーした"りんご追分"だというのは誰の目にも明らかだ。メロディカのいくらか危ういイントロで歓声を引き出し、ヘロヘロなギャズのヴォーカルにフロアから立ちのぼる日本語詞が絡む。演歌とスカをひとつなぎにしてしまうギャズは、日本人よりも「粋」だった。
お次はギャズとベイビー・ソウルのDJを挟んでの、サウンド・ディメンション。当初はストレンジャー(・コール)&(クィーン・)パッツィの予定だったが、パッツィが体調を崩したため、「名義が変わった」。彼女を拝むことができなかったのは残念だったが、年齢を考えればいたしかたのないことだ。何も、今に始まったことではない。スカやロック・ステディは、音源の発表が個人名義であっても、モータウンのファンク・ブラザーズのようにバックバンドが同じということがある。
サウンド・ディメンションは、スキャタライツの影に隠れがちだが、スタディオ・ワン(レーベル)のお抱えバンドとして、"ロックフォート・ロック"など数々の名曲を録音してきた猛者たちで、その実力は折り紙付きだ。その中で、やたらと跳ねるトランペット奏者がしきりにオーディエンスを煽動してくるが、よくよく見てみれば、エディ・"タンタン"・ソーントンだった。彼は、クール・ワイズ・メンとの共演や、スカ・クバーノの一員としてたびたび来日していて、質実剛健のキャラクターを持っている。「ジャンプ! ジャンプ!」の言葉を投げ、自らも跳ねて、フロアに熱を注いでいく。そこに満を持して登場したのが、黒いYシャツに白いスーツでキメたストレンジャー・コール。華麗なステップと突き抜ける声はタンタンと同じく歳をまったく感じさせず、ジャマイカの歴史の1ページを飾るアクトは、熱さと老獪なテクニックを見せつけて、ギャズとベイビー・ソウルにバトンを返していた。
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景気よくシャンパンの栓を飛ばしたところで、いよいよレジェンド中のレジェンド、ザ・スキャタライツの登場だ。こちらもパッツィに続き、セドリック・"イム"・ブルックスが体調不良でメンバーから外れている。周りの年長者にしてみれば、ひとり減りふたり減り…という現実をリアルタイムで見てきているため、その無念さは相当なものだろう。だが、80年代に生まれた身にしてみれば、オリジナルのメンバーが元気に音を出しているのを体験することができるという嬉しさも混じり、いくらか複雑な気分だ。
そんなモヤモヤを一蹴するかのように、ステージからは、"ナヴァロンの銃"に"シマー・ダウン"、"ラテン・ゴーズ・スカ"など、コンピレーションを適当に手にとっても入っているであろう、スカの歴史そのものと言える名曲の数々が矢継ぎ早に繰り出される。バンドマンたちはどっしりと構えて叩き、あるいは吹き鳴らして、子や孫ほどの世代を踊らせていく。
サックスのレスター・"スキャ"・スターリング、ドラムスのロイド・ニブスの「オリジナル・スキャタライツ」はさすがといえるパフォーマンスで、スカが生まれ落ちた当 時の肌触りを今に伝え、紅一点のドリーン・シェイファーは、その潤いある歌声でハコを包み込む。"フリーダム・サウンズ"のカウントダウンで幕を開けたセッションでは、スカ・フレイムス、サウンド・ディメンション、ストレンジャー・コールにタンタン、そしてギャズとベイビー・ソウルまでもがステージに揃いぶみし、後にも先にも見られないであろう豪華なセッションとなった。フレイムスの面々はまるで子供に返ったかのようなはしゃぎっぷりを見せ、〆に持ってきたのがウエスタンのジャンゴとリンゴをかけた"リンゴ・ライド"だったのは日本仕様のご愛敬。ギネス級の継続年数を誇るギャズィーズ・ロッキン・ブルーズ30周年は、すべての顔に笑いという灯をともして弾けたのだ。
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report by taiki and photos by hanasan
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