ジ・アルバム・リーフ @ 名古屋クラブクアトロ (3rd Apr. '10)
そこは桃源郷だった
今年1月に発表となった5thフルアルバム、『ア・コーラス・オブ・ストーリーテラーズ』を引っさげて行われた約2年ぶりとなるアルバム・リーフの来日ツアー。前日の東京では、Toe(トー)というこの上なく贅沢なゲストを迎え入れての日米ポストロック対決に注目が集まり、実際に素晴らしい公演を披露したそうだが、ここ名古屋ではゲストこそなけれど、その癒しの福音にうっとりと酔いしれてしまう良いライヴに立ち会うことができた。それもこれも音・光・映像が見事なまでにシンクロし、透徹とした美を表現するアルバム・リーフの音世界が予想以上に感動的なものだったからだと思う。
静かな緊張感に包まれた会場内に、ジミー・ラヴェル(主にキーボードと唄)とその御一行様(ギター、ベース、ドラム、ヴァイオリンの4人)はどこまでも透き通った透明感と切なく儚い情感を帯びた音色を優しく響かせる。と同時にメランコリックな空気感が会場を包み込んでいく。クリアでメロディアスなギター、厳かな躍動感をもたらすリズム隊、麗しき叙情を奏でるキーボード、感傷的なヴァイオリンが静謐に調和して普遍的でありながら幻想性をまとったサウンドを抽出。そこに曲によっては唄やブレイクビーツ、鉄琴などが絡んでくる(つけ加えると、トータスばりとは言わんまでも演奏する楽器が曲によって入れ替わっていく)。噂どおり、いやそれ以上の美しさ。懐かしい温もりも感じ取れる。漣のように広がっていくそのサウンドスケープに魅せられ、心を射抜かれてからは、ずっと彼等の世界の住人であった。
表面的にはポストロックであり、エレクトロニカといわれるものだが、配置されていく繊細な音色のひとつひとつに彼等ならではのこだわりと必然性を感じさせるし、有機的な温かさや包容力も備わっている。新作ではバンド編成による録音が話題となっていたが、ライヴだとさらなる躍動感と迫力がサウンドに生命力をもたらしていたのも印象深い。"ゼア・イズ・ア・ウインド"、"スタンド・スティル"辺りで顕著だったろうか。柔らかく優しい響きなのにダイナミズムが十分に感じられた。また、作品を発表するごとにシンガーとしても非凡な才能をみせつけるジミーにしても、淡い歌声がナチュラルに楽曲に溶け込み、滋味深い哀愁をもたらしている。バンドメンバーもコーラスで絡むことが多いので、そのステージの佇まいは一種のロック・オーケストラのようにも感じられた。
彼等のライヴでは、曲ごとに合わせた映像が流されていて脳内を強く喚起してくれるのも特徴だろう。バンドのトレード・マークである葉っぱの映像からスタートし、幸せそうに戯れる家族の姿や光が真ん中から拡散していくような感じのもの、楽譜や飛行機や車に加え、爪にマニキュアを塗るシーンまで様々なものがスクリーンに映し出されていった。自分の無い頭使って、その映像がどんな意図で流されていたかを考えてはみたが、明確な答えに辿り着けやしない。それでも愛・希望から光・闇のコントラストまでを表現していただろう視覚効果が、世界観に重みをもたらしていたのは事実。しかし、個人的には目を閉じて音だけに五感を傾けたいと思わせてしまうほどの贅沢なメロディに罪深さを覚えたりもしていた。
最新作『ア・コーラス・オブ・ストーリーテラーズ』からなんと10曲の披露を含めての全19曲約100分の至福。時に郷愁を、時に旅情を、時に慈愛をもたらす彼等の世界に浸れたことは何事にも変え難い悦びである。メランコリックな感傷と切ない歌心が琴線に触れた"ホエレバー・アイ・ゴー"、ポジティヴな躍動感とポップさが気持ちいい"オールウェイズ・フォー・ユー"といった愛聴した前作の『イントゥ・ザ・ブルー・アゲイン』からの曲に惹かれることが多かったけど、ラストに披露された"タイド・ノッツ"では、エンディングにも関わらずその音や映像から誕生を強く脳裏に焼き付けていたのが今でも印象深い。圧倒的に美しいサウンドスケープの真髄を知った一夜。帰宅するときには、日頃なかなか解放できない心の澱みは消え、温かな愛のようなものを感じられたことにささやかな幸福を覚えていたのであった。
-- setlist --
Perro / Blank Pages / There Is A Wind / Within Dreams / Falling From The Sun / Stand Still / 2214 / Outer Banks / Shine / Until the Last / We Are / Micro Melodies / Vermillion / Almost There / Wherever I Go
-- encore --
On Your Way / Always For You / Red Eye / Tied Knots
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*なお、写真は4月4日の大阪公演のものを使用しています。
report by takuya and photos by hiroshi
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