アイシス @ 渋谷オーイースト (6th Mar. '10)
次元を超えて轟くロック
五感を、いや第六感をも震わす格別の体験だった。この感覚は今まで味わってきた中でも過去最高と呼べるものかもしれない。それぐらいの凄まじかったアイシスの日本ツアー最終日の東京公演。2日前に行われた名古屋でのライヴを完璧に葬り去ってしまうぐらいのパフォーマンスに心底酔いしれることができた。そして、予想したラインをはるかに上回る本当に凄まじい夜であった。
今宵のライヴが壮絶を極めることは、名古屋で体感したことを踏まえれば当然であり、必然であったのは間違いないのだが、ここまでいってしまうのか!! と驚きを隠せないほど、今日のライヴは群を抜いていた。膨張し続ける異様な緊張感、重苦しく漂う独特の空気、さきどまでのバロネスの熱波すらをもオープニングナンバーの"ホール・オブ・ザ・デッド"であっさりと振り払ってからは、ひたすらアイシスの世界に没頭。鉄壁のアンサンブルによって造形されゆく孤高の音世界、ある種の神々しさすらも覚えてしまう深遠な音の渦によって、"期待は確信へ"と完璧に塗りかわる。圧倒的な説得力と情報量が込められたその音を前に、自分は畏怖の念すら覚えてしまっていた。まだ序盤だというのに何度、鳥肌が立ったことか。代表曲"ホーリー・ティア−ズ"では、クライマックスに訪れるマグマが弾けたかのような爆発によって自然と意識も乖離。歓喜と狂気が入り浸れた昂ぶりに全身を襲われたのだった。
2日前の名古屋と比べて、さらに東京の方が格段に凄いと感じられたのは、バンドのアンサンブルが力強さと迫力を遥かに増したことで、静と動のコントラストがより雄弁に、より美しいものなっていたからだと思う。心身を揺さぶるどころか、蹴散らすかの如しダイナミズムは半端なものではなかったし、奏でられる音の粒子のひとつひとつが有機的に密接し、強固に結びついて巨大な音塊になっていくさまは、ロックの究極形を垣間見ているかのような感覚にも陥る。また、あえてアイシスのためにちょっと無理をして渋谷オーイーストのように広めの会場を選択したとのことだが、それによって彼等の立体的で有機的なサウンドスケープは広がりと奥行きを増してさらに深化。三次元をも飲み込まんとする轟音と叙情の波動に全感覚を揺さぶられ続けた。
脅威的なヘヴィネスを独特の浮遊感へと繋げていく"20ミニッツ/40イヤーズ"、そして、うっとりとしてしまうようなプログレの幽玄美すらも内包した"ゴースト・キー"と続いたライヴは、孤高の色をさらに濃くしていく。それぞれの曲が1年間かけてじっくりと磨き上げてきた新作『ウェイヴァリング・レイディアント』の力を物語っていたのは言うまでもないが、10年以上かけて鍛え上げてきたバンド力を存分に示してくれる内容でもあった。極限まで磨がれた美と暴虐の奏でる異質なロマンチシズムに吸い寄せられ、あらゆるジャンルを包括しながらもあくまでロックとしての波動とダイナミズムを破格の音塊に乗せて叩きつける。とりわけ、本編ラストに演奏された"スレッショルド・オブ・トランスフォーメイション"では、尋常ではない気迫と集中力が漲る五人の男たちのエネルギーによって体中に戦慄が走った。奈落からあらゆる感情を拾い上げて剥き出しの轟音として噴出する前半から、トリプルギターのアンサンブルが峻厳な美しさを現す後半まで、独自の美学が凝縮された締めくくりは、"これがアイシスだ"という威厳と誇りを存分に感じさせるものだった。
アンコールという形で披露された(名古屋では9曲を一気に続けて演奏した)、"キャリー"、"セレッシャル"の初期の2曲では、ハードコアの出自らしい激情が深紅の炎が燃え上がる。特に"セレッシャル"における盛り上がりは尋常ではなく、スラッジの禍々しくも強烈なうねりがヘッドバンキングを誘発していた。もはや壮絶すぎて、言葉も出てこない。
ラストのラストでアーロン・ターナーがギターを観客に委ねてノイズを噴出していたのは名古屋でも目撃したが、ライヴ終了後にドラムのアーロン・ハリスがスティックとドラム・ヘッドを客席に投げ入れていたのは今まで見たことの無い光景で、とても驚いた。その行為もこのライヴにおいて完璧にやりきったという満足感と達成感の両方がメンバーの心に溢れていたからだと思う。それほどこの日本最終公演は感慨深いものだったのだと。
あまりにも重厚、あまりにも壮大、あまりにも荘厳なステージであった。覚醒と恍惚の連続、深く深く広がっていく感動と余韻。今宵のアイシスはまさに"次元を越えて轟くロック"と呼べるものであった。作品を出すごとに自分達のレベルを更新し続けていく彼等が、次はどんな地平を切り開き、未だかつてない世界を見せてくれるのか。早くも大きな期待が胸に膨らむとともに、再びの勇姿を目撃できることを楽しみにしている。
ちなみに翌日には、アイシスの頭脳であるアーロン・ターナーによるソロプロジェクトのハウス・オブ・ロウ・カルチャーと秋田昌美のメルツバウの共演ライヴを開催(他にもマミファー、メルトバナナ・ライトが出演)。こちらは時には冷徹に、時には猛り狂うノイズを自在に操りながら、彼等の音が深い次元で共鳴し、サン O)))ばりの極北を目指したかのような鮮烈なライヴで、観客の度肝を抜いていた。それはそれは、毛が逆立つような恐ろしさを覚えるほど。そんな彼等の先鋭性を否応なしに脳髄に叩き込む、貴重かつ非情な一夜であった。
-- Set List --
1. Hall Of The Dead / 2. Hand Of The Host / 3. Holy Tears / 4. 20 Minutes / 40 Years / 5. Ghost Key / 06. Wills Dissolve / 07. Threshold Of Transformation
-- encore --
8. Carry / 9. Celestial
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report by takuya and photos by naoaki
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