面影ラッキーホール & The冠(かんむり)
@ 渋谷クラブクアトロ (9th Jan. '10)
不景気時代のフォークロア
会場に着いたときには、オープニングアクトのThe冠(かんむり)が演奏をしていた。見た目も演奏も完璧にヘヴィメタルなんだけど、歌詞とヴォーカルの人の物腰がメタルらしくないのだ。挨拶の言葉は「すいませーん、ヘヴィメタルでーす」。そして「ボン・ジョヴィはヘヴィメタルじゃない」とか「キャバクラのカラオケでジューダス・プリーストの"ペインキラー"を歌ったら、キャバクラ嬢に引かれた」とか、"浪花恋しぐれ"のメタル版みたいな歌とか、要するにメタルは笑いであるというのをそのまんま演じる。ヴォーカルの人は完全にお笑い芸人のようで、どの曲が終わっても最後はヴォーカルだけにスポットライトが当たって終わる。顔にはコミカルな表情を浮かべている。面影ラッキーホールと共演できたことを素直に喜び、終始低姿勢。面影の歌の世界に通じるような歌詞なので、面影ラッキーホールのお客さんの心も掴んだようだ。
セットチェンジ中は、大橋裕之という漫画家兼役者の人が紙芝居をおこなう。脳だけが生きている中学生を描いた『転校生は脳』、漫画家志望の殺し屋と同じく漫画家志望のヤクザの関係を描いた『マンガヤクザ』の2編。脱力系の絵柄と話し手のおかげで、ストーリーと関係なくほのぼのした空気が流れる。
そして、面影ラッキーホール。小林旭の"昔の名前で出ています"が流れて、2コーラス目の「面影〜」という箇所がループして「面影、面影、面影……」とハウスぽいアレンジになって歓声が上がり、メンバーが登場する。交通事故に遭い、下半身が麻痺した妻と性生活を送れない知るや、離婚を画策する男のストーリーと、サビのコーラスで一生一緒にいてほしいと妻の訴えが交錯する"私が車椅子になっても"から始まる。アニメの主題歌になり、80年代アイドルのタイトルが散りばめられた"あたしだけにかけて"と続く。「こんばんわーフジファブリックです」「ライヴハウス、ブックオフへようこそ」(渋谷クアトロの階下にブックオフがある)とか、恒例のコール&レスポンスは「say蓮舫!」「say子供店長!」「say赤坂君!」などのネタ。いつものホーン嬢3人は、キンキ・キッズのライヴの仕事があるようで、この日は参加できず、代わりに男2、女1のサポートを受けていた。そのうちサックスの女の子はかわいかった。
コール&レスポンスのあとは、ダメな女とダメな男の先の見えない暮らしを描く"必ず同じところで"。日陰で暮らす男女のどうしようもない日常は、おそらく90年代後半であれば、まだファンタジーであると捉えられたのだろうけど、年を重ねていくうちにリアルなものになってきたというか、シャレにならなくなってきた。これは日本の経済が地盤沈下を起こしていたからだろう。90年代に出た曲を聴いていくうちに自分のことに重ね合わせて暗い気持ちになってくることもある。西日が差す安アパートの部屋の中で何もすることもなく、ぼんやりとした不安だけが胸の中に去来し、逃れられない孤独感がのしかかってくる、そんな日々を想い起させる。
もちろん、面影ラッキーホールの音楽は拭いがたい暗いところと、ヴォーカルのアッキーが持つキャラクターやさまざまなパロディで構成される曲によってコミカルなところとの両面がある。それは、都市の片隅で生きる人たちに虚実入り混じったフォークロア=都市伝説なんである。例えば、好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいたなんて、そんなのあるわけねぇよ、どっか大映ドラマかなんかの話じゃないの? なんて思っていたのだけど、本当にそういうやつが中学の同級生にいたという人の話を聞いた。「あの子、本当にコンパスで書いちゃったんだって」というスキャンダラスなニュース性と真実味がアッキーが書く面影ラッキーホールの詞にあるのだ。
明らかにオリジナル・ラヴのパロディである"中に出していいよ、中に出してもいいよ"は、自分のものではない女との関係の切なさがソウルフルな絶唱により笑いを突き抜けてどこか崇高さまで感じさせるのだ。シングル、『あたしだけにかけて』に収められている"SO-SO-I-DE(そ-そ-い-で)"もおそらく初披露。明るく夏っぽい曲で、曲中の振り付けが印象的である。
後半は、アース・ウインド&ファイヤー調でありながら、極めて日本の地方社会の現状を描く"パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた……夏"、そしていろんなきっかけで、夜の世界から足を洗う人、夜の世界に入る人、それぞれの人生を勢いよく歌う"コレがコレなもんで"、そして不祥事を起こした高校球児、"俺のせいで甲子園に行けなかった"、と怒涛のファンキー3連発。会場も盛り上がり、振付もバンドとお客さんの呼吸が合い、一体感を作り出していた。ヴォーカルのアッキーは服を脱ぎ、ぶよぶよの体を惜しげもなく披露する。バンドが去ると、会場からは「アッキー、アッキー」の大合唱だった。アンコールを求める声が大きい。
そして、アンコールでは目の粗い網のセーター?を着ているが、目が粗すぎてほとんど上半身裸だった。まずは"あの男(ひと)は量が多かった"。CDでは「あそこ」と曖昧にしていたところをライヴでははっきり歌う。「○ん○は何も言わないけれど〜」と並木路子の"リンゴの唄"のパロディなんだが、○に入るのは「り」と「ご」ではなく、「ち」と「こ」である。そして最後は"東京(じゃ)ナイトクラブ(は)"。最後はついにズボンも脱ぎ、ブリーフ一丁になって絶唱。ブックオフで立ち読みしている人が集中できなくなるんじゃないくらい、お客さんたちも飛び跳ねてライヴを締めくくったのだ。
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