面影ラッキーホール、狂うクルー、ECD(イーシーディー)、ドカカ、加護亜依 @ 渋谷オーイースト (12th Oct. '09)
秋だ! 面影祭りだ!
面影ラッキーホール主催のライヴのゲストを見たら、何じゃこりゃぁ〜という感じのメンツだった。プログレッシヴ・ノイズ・ハードコアバンドの狂うクルーと、日本のヒップホップ黎明期から活動しているECD(イーシーディー)と、音声多重のヒューマンビートボックス芸人のDOKAKA(ドカカ)、そして、元モーニング娘。の加護亜依である。どんぶりご飯の上に、キムチとうなぎとカレーとチョコレートケーキが乗っかったような食い合わせ。はっきり言ってめちゃめちゃである。
こんなの観にいくの相当モノ好きだろうなと思ったけど、まあ、やっぱり相当なモノ好きたちが集まっていた。世間的にはマイノリティには違いないが……。自分も朝霧JAMから帰ってきたその日に渋谷に行くのだから相当なもんであるわけだ。まず一番手に登場したのは、狂うクルー。「なんだかよくわからないけど、呼ばれたんで来ました」というMCをしてなんか戸惑った様子。ところが演奏が始まると、傍若無人で確信に満ちたノイズの洪水で圧倒した。お客さんたちは固まって観ていただけど。
狂うクルーはギター、ベース、ドラム、サックス&カオスパッドの4人組。彼らを以前、渚音楽祭という野外イベントで観たことがあるけど、そのときは小説家でありノイズ音楽家の中原昌也と一緒に演奏していて、まさにカオスでノイジーな音楽を繰り広げていたのだった。今回は、そのときほどカオスとか狂気を感じさせることはなかったけど、音が整理されたおかげで非常にスタイリッシュになって格好よさを感じた。ドラムとベースがしっかりと演奏されリズムが疾走していき、その上でギターとサックス&カオスパッドが自由に暴れまくる。
次に登場したのはECD。自分は初めて観た。ECDと組んだDJがワイルドに暴れて、レコードの針をディスクに叩きつけて、その音にリヴァーブをかけるという、そこまで「音楽にするのか!」という新鮮な驚きがあった。そんな音とECDを声が組み合わさって、グイグイと押してくる迫力があった。
DOKAKAはサブステージに登場。声で楽器を奏でるヒューマンビートボックスを実演し、それをその場で多重録音していくというもので、演奏されるのはゲーム音楽やドラマ主題歌、Jポップ、プログレッシッヴ・ロック、スラッシュ・メタルなどなど。会場は爆笑の渦。何だって「ギターを弾きながら野球をやるサンタナ」なんて誰が思いつく? でてきたネタを列挙すると、ゼルダの伝説、渡る世間は鬼ばかり、スーパーマリオ、サザンオールスターズ、ミーシャ、プリンセス・プリンセス、キューピー3分間クッキング、ドリームシアター、スレイヤー、スペースマウンテン。実際観てみるとすごい。このネタをこうやって遊ぶのかって笑い、驚く。
そして加護亜依。セクシーなバスガイドみたいな衣装で登場する。モーニング娘。時代に大きなステージには何度も立っているので、いくらソロで緊張しているといっても堂々としたもの。まあ、いろいろあって芸能界を干されかけたけど、こうしてステージに立てるのは腹が据わっているのだなと感じる。2曲カラオケで歌った。
トリで主催の面影ラッキーホール。インフルエンザ騒動を揶揄してメンバー全員マスク着用で現れる。ホーン隊もマスクをつけてどうやって吹くんだよ!? と思ったけど、口のところにしっかり穴を開けていた。そして、交通事故で下半身麻痺になって性生活ができなくなったので、離婚ができないかと画策するひどい男を歌う"私が車椅子になっても"から始まる。コーラス嬢たちの振付をまねるお客さんも多い。
老人に恋する少女(しかも宇能鴻一郎的な官能描写あり)を歌う"今夜,巣鴨で"。お馴染みのコール&レスポンスで加護ちゃんをいじり、そこから"必ず同じところで"、"好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた"、"あんなに反対していたお義父さんにビールをつがれて"、と面影流ヒップホップを続ける。どれも場末でうごめく人々を描いている曲だ。
後半は、ファンキーな曲で固めたのだけど、その前に"あたしゆうべHしないで寝ちゃってごめんね"というバラードの曲を挟んだ。胸が大きいことしか取り柄のない女の子が、暴力男に「捨てないで」と訴える歌詞なんだけども、サビでのアッキーの絶唱は、一人になることを恐れ、どんなにくだらないものでも人と触れ合っていることが切実なんだという普遍的な叫びに昇華されていくのだ。そしてダンスナンバーを畳みかけるのだけど、アニメの主題歌にもなった"あたしだけにかけて"は、松田聖子(夏の扉)、中森明菜(スローモーション)、原田知世(時をかける少女)あたりの80年代アイドルの引用をしつつ、内容はかなりお下劣という素晴らしいもの。"パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた...夏"、"俺のせいで甲子園に行けなかった"と会場も一斉に踊りまくり盛り上がり本編が終了。
去り際に「絶対アンコールって言うなよ!」とアッキーは叫ぶも、その直後からアンコールの声がかかる。そして、恋人の妊娠を機にまっとうな生活を誓う人、恋人の逮捕を機に夜の仕事の道に入る人、それぞれの人間模様を描く"コレがコレなもんで"、最後は"東京(じゃ)ナイトクラブ(は)"で、フロアのお客さんも飛びまくった。やっぱり面影ラッキーホールのライヴは楽しい。笑えるし、それでいながら愚かでどうしようもない人たちの姿を歌うのだ。そこから今の社会のことを考えてしまう。
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