マグマ @ 渋谷オーイースト (28th May '09)
その熱さが音楽を進化させる
マグマのことを何も知らない人に、このライヴを観てもらったらどう思うだろうか? どんな反応するのか、すごく興味深い。フランスのバンドで40年近くも活動して、プログレッシヴ・ロックで……という情報もなくて、いきなりこのバンドを観たら「なんだかよくわからないけど、すごい! 何これ!」と思うのではないだろうか。
プログレというと、楽しむには知識を要求され、敷居が高いイメージがあるけど、前提とする知識がなくてもこのライヴは十分に楽しめるはずだ。何たってこの日演奏された曲にはCDやレコードとして音源をリリースしていない、タイトル未定や暫定タイトルの作品もあるし、既発表曲でもアレンジが変わり、新たなパートが追加されたようで、お客さんは誰ひとり「俺の知っている曲の完全再現を楽しむ」ということができないのだ。まさに、どこへどう転がるかわからないライヴなのであり、予備知識があっても、なくても新鮮な出会いがある。
音楽的にはクラシック、ジャズ、ロックのごった煮である。もうちょっと詳しくいうと、オペラぽくもある男女混声合唱、フリージャズの変拍子、ハードなロックなど、いろんな要素を見つけることができる。それをまとめ上げ重厚な建築のように細部は緻密に作り込まれているのだけど、その全体像を見ると大きさで我々を圧倒するのだ。この「何だかよくわからないけど、とんでもない」ものがマグマの音楽なのだ。
そのマグマの中心には、クリスチャン・ヴァンデというドラマーがいる。すでに老人といっていい風貌だけれど、彼の巨体が叩き出すドラムの迫力は年齢を忘れさせるのだ。一方、ラストの曲でリードヴォーカルを取るバラードがあったけど、実に味わい深い渋い声を響かせる。この怪人じみたクリスチャン・ヴァンデに導かれて、音楽による建築を作り上げるマグマのメンバーは、ステラ・ヴァンデ(ヴォーカル、パーカッション)、イザベル・フュイユボワ(ヴォーカル)、Herve Aknin(フランス人なので発音がワカリマセン……エーブ・アクニン? ヴォーカル)、Bruno Ruder(ブルーノ・ルダー? ピアノ、クラビア)、Benoit Alziary(ベノワ・アルジアリ? ヴィブラフォン、ピアノ)、ジェームス・マクガウ(ギター)、フィリップ・ビュソネ(ベース)という編成である。マグマはコバイア語という独自の言語を使って歌い、人類は地球を脱出してコバイア星に向かうというストーリーを展開している。そのわけのわからなさがむしろ多くの人を惹きつけるのだ。
イントロが鳴った瞬間に盛り上がったのはアンコール1回目の"コバイア"だけであった。あとはバンドが作り出す世界にお客さんも手探り状態で、すさまじいプレイをみせてくれたときや、クリスチャン・ヴァンデがヴォーカルを取ったときにフロアから盛大な拍手が沸き起こる。基本的には皆が椅子に座って各メンバーの超絶な演奏をじっと見つめるのだ。
なぜこのような複雑なプレイをこなせるのか、なぜ独自の言葉で歌うのか、なぜさまざまなジャンルを混ぜるのか、マグマが放つ壮麗な音の建築を前にして、巨大な謎が立ち上がる。ただ、クリスチャン・ヴァンデの怪物じみた表現欲求と、それを作品として提示する才能、またその表現を可能にするメンバーたちの精神の激しい運動を、何よりも熱いクリスチャン・ヴァンデの魂を、観ている我々も体験するのだ。
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report by nob and photos and by izumikuma
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mag files : Magma
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