Smashing Mag / Liam Ó Maonlaí (リアム・オ・メンリィ) @ Shibuya Duo Music Exchange (19th May '09)

　なんでも、ずいぶんと久しぶりの日本だったらしい。ある人に言わせるとホットハウス・フラワーズとして来日したフジロック以来というんだが、だとしたら8年ぶりになる。確かあのとき、演奏を終えてステージを降りてきたリアムが「もっと歌いたいんだ」と口にして...　普段ならあり得ないフェスティヴァルでのアンコールにつながったのを間近で見ていたのを思い出す。本人曰く、「過去15年で最高のライヴだった」とのことなんだが、それじゃ、ほとんど結成以来最高ってことじゃないか...　と、そんなこと思ったものだ。もちろん、それほどまでに素晴らしかったのはいうまでもない。今も語りぐさになっている彼らのベスト・ライヴがあれだろう。

　それから、グラストンバリーでチラッと彼らを見てからというもの、ほとんど噂を聞くことはなかった。とはいっても、2004年かに発表されたアルバム、『Into Your Heart（イントゥ・ユア・ハート)』も発売と同時に購入していたし、ときおり思い出したように棚から引っ張り出しては聞いていたのが、自分にとっての名盤、『Songs from the Rain（ソングス・フロム・ザ・レイン)』。発売当時のライナーにも書いたように、「もしも、人生に疲れて生きるのが苦しくなったら、ホットハウス・フラワーズのカセットでもウォークマンに入れて旅に出よう」という思いは今も変わらない。それほど惚れ込んでいる彼らと、ずいぶんとご無沙汰だったが、どこかで自分は彼らの音楽はずっと一緒にいたように思う。

　すでに40代になっているリアムと話したときに、互いのずんぐりとした体型を見ながら、年を重ねたことを認めつつ、同時に、なにも変わっていないことも話し合っていた。この日のライヴに感じたのは、それじゃなかったかと思う。

　ライヴの始まりはリアムと長く交友関係を持つ山口洋だった。なにやら、「先輩のライヴへのウォームアップ...　」と言いながら登場して演奏したのはわずか3曲。「なんか、冷えちゃったような...」と謙遜しながら、最後に「満月の夕べ」を歌っているのだが、いつも耳にするソウル・フラワー・ユニオンのヴァージョンとはひと味もふた味も違う存在感に圧倒されることになる。充分に持って行かれたあのインパクトは強力だった。

　しんと静まりかえったステージに登場したリアムがマイクの前に立ち、ティンウイッスルを吹き始める。あまりに静かな始まりに、なかなかシャッターを切れない状態が続いていたんだが、それでもオーディエンスにコーラスを誘って静かな、どこかで同窓会のような雰囲気が漂うライヴが始まっていた。

　今回のライヴの中心は「ずっと昔から作りたかったのはピアノだけをバックにしたパーソナルなアルバムで...」と話してくれた、『To Be Touched（トゥー・ビー・タッチト）』が中心。とは言いながら、最も盛り上がったのは、前述の『Songs from the Rain（ソングス・フロム・ザ・レイン)』に収録されている「ワン・タング」といった曲や、今では入手が難しくなったアルバム、『Bringing It All Back Home （アイリッシュ・ソウルを求めて）』に収められている名曲、Lakes Of Ponchartrain（ポンチャートレインの湖）が登場したときではなかったかと思う。それに、『Into Your Heart（イントゥ・ユア・ハート)』に収録されている「Feel Like Living（フィール・ライク・リヴィング）」も歌ってくれたように記憶しているのだが、結局、どこかでファンは求めていたのはホットハウス・フラワーズだったように思えてならない。

　その一方で、後半のセットの最後の方で、なんにも打ち合わせなしにやったという山口洋とのデュオも面白かった。なにが飛び出すかわからないというインプロヴァイぜーションが中心でスリリングなこれも充分に楽しめたのは言うまでもない。

　リアムによると、ホットハウス・フラワーズは、もちろん、健在でこの8月27日からアメリカ・ツアーが始まるとのこと。残念ながら、始まったときからずっと一緒だったピーターがいなくなったことが、どこかで引っかかっているんだが、いつかまた彼らが一緒にステージに立ってくれることがあるのではないかとどこかで期待している自分がいるのは、言うまでもないだろう。

　蛇足かもしれないが、もうひとりのオリジナル・メンバー、フィアクナもPrenup（プレナップ）というバンドで活動しているとのことで、『Hell To Pay（ヘル・トゥ・ペイ)』という秀作を発表しているので、チェックしていただけると幸い。