レイド・ワールド・フェスティヴァル @ リキッドルーム恵比寿 (16th May. '09)
feat.モノ、 ペリカン、 ライト、 ワールズ・エンド・ガールフレンド
モノ
--慈愛と生命力に溢れた光--
最後を飾るのは、日本のインストゥルメンタルバンドの先駆けにして世界的にも揺ぎ無い地位を確立しているMono(モノ)。今年3月に発表した5枚目のフルアルバム『Hymn To The Immortal Wind(ヒム・トゥ・ジ・イモータル・ウィンド)』に伴った3月14日の東京公演を行ってから約2ヶ月ぶりとなる凱旋ライブである。その間にはヨーロッパ各地を精力的にまわるツアーやフェスティヴァルへの参戦。そして、バンド自身の集大成でもあり、新たな挑戦でもあるオーケストラを迎えての結成10周年記念ライブを先週5月8日、9日にニューヨークで開催している。そういった点からこの恵比寿の舞台がまた新たなスタートラインと捉えることができなくもないだろう。とはいえ、生と死、絶望と希望を隣り合わせで表現するモノのライブは壮絶以外の何物でもなかった。
言い知れぬ緊張感が会場を駆け巡る中、ゆっくりとステージに姿を現す4人。さしてそれに対して盛り上がりを見せることなく静かに出迎える人々。その雰囲気からして非常に独特で、モノの風格のようなものがじわりと伝わってくる。それは、これから始まる凄まじいライブの予兆であったのかもしれないと終わってみてから感じたことでもあった。
グロッケンシュピールの音色が会場に冷たく鳴り響き、物語の幕を開けていく。始まりは最新アルバムの1曲目"アッシズ・イン・ザ・スノウ"から。切なくも美しいアルペジオが意識の共鳴を呼び、ベースとドラムがそこに重なり合って深遠なる物語が綴られていく。そこから時間をかけてエネルギーを膨張させていき静から動へと一気に展開。極限を肌で感じるその轟音はモノだからこその力強さと圧倒的なリアリティを持って炸裂する。様々な感情を掻き立て、様々な情景を脳内に叩き込む壮麗なる音塊を前にして、自分はただ微動だにせず立ち尽くし、飲みこまれるほかなかった。緊迫とした空気、感情に訴えかける音の粒、生と死の螺旋を描く業の深い世界、どれもが心の闇を締め付けていく。そこに言葉の必要性は全くない。
とりわけ今日の出演者の中でもモノが抜きん出ていると感じたのが、表現の奥深さである。一音一音の丹念な音作り、そこから生まれゆく美しい静パートも凄まじいまでの轟音を叩きつける動パートも、心の中を容赦なく掻き乱し、どこか見果てぬ場所へ突き動かしていく。愛・希望・絶望・悲哀・虚無・憂鬱・歓喜・混沌などが渦巻く壮大な物語は、凡百のバンドには到底辿りつけないだろう境地のものである。
特に圧巻だったのは終盤。リリカルなアルペジオが孤独を呼び、その静寂の向こう側からはかつてないほどに凍てつく冷たい轟音が空間を圧するように埋め尽くす"イヤーニング"では、未が軋むような孤独感が体中に拡がっていく。だが、今宵の最後に演奏された"エヴァーラスティング・ライト"がその痛みや孤独といった負の全てを希望・恍惚へと昇華していってくれた。その天国と地獄のコントラストを壮絶に描いたラストの2曲は、本日のライブでも一番印象に残っている。歓喜という悦びに溢れたそのクライマックスは、絶対的な美しさと慈愛に満ちた光が聴き手の心に新たな希望を宿してくれたことだろう。生命力に溢れた『ヒム・トゥ・ジ・イモータル・ウィンド』の深い精神世界を一部ではあるが、肌で直接感じ取ることのできた貴重な時間に感謝したい。国境を越えて人々を魅了する彼等の雄弁なライブの凄さを改めて思い知されるのであった。
こうしてMono(モノ)の感動的な余韻を静かに残したまま、本日の4時間30分にも及んだインストゥルメンタルの奇跡的体験は幕を下ろした。『凄い』、ただその一言に尽きる。さすがに選りすぐった4つのバンドが集まっただけ合って、思慮深く雄弁な音の世界に身を置くことのできた時間であった。
先月の異次元超轟音イベント『リーヴ・ゼム・オール・ビハインド』もこの日のインストゥルメンタルの祭典『レイド・ワールド・フェスティヴァル』もそうなのだが、集まった者に確かな痕跡を残すこの手のイベントがソールドアウトを記録し、大成功を収めている。もしかしたら日本も何かが変わりだしているのかもしれない。そう実感せずにはいられない今日この頃である。
-- set list --
Ashes in the Snow / Burial at Sea / Pure as Snow (Trails of the Winter Storm) / Yearning / Everlasting Light
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