踊ろうマチルダ
@ 下北沢 440 (29th April. '09)
旅はマチルダと共に
ライヴを控えてはしゃぐ友人に「踊ろう夢中だ? なに?」と訊き返したのが2日前。実際は、踊ろうマチルダ、と言っていた。それが「アーティストの名前である」ことすら知らなかったのだから、聞き間違えても仕方がない。ユー・チューブに動画があるとのことなので、探して再生してみたところ、その声とたたずまいに、あっさりと落ちた。
踊ろうマチルダことツルベノブヒロ氏のことを調べてみれば、かつてナンシー・ウィスキーというバンドを短期間ではあるが結成しており、かなりの反響を呼んでいたという。そういえば、シェイン(ザ・ポーグス)がカバーした昔の曲にそんな曲があったなぁ……と思いつつさらに調べてゆくと、今の踊ろうマチルダという奇妙な名前も、オーストラリアのトラディショナルソング、"ワルツィング・マチルダ"からきているという。「マチルダ」は荷物を指し「マチルダと踊る」とは「放浪をする」という意味らしい。
曲そのものは100年以上前のスコットランド民謡をアレンジしたものだそうで、歌詞は、羊泥棒を働いた放浪者が追いつめられて命を絶つというドラマチックなもの。一時は、国歌の候補にも挙がったという。だが、それよりも興味深いのが、精一杯の背伸びもあるんだろうが、放浪の寂しさと捨てきれない財産に女性の名前をつけ、困難な旅の歩みを踊りになぞらえる詩的感覚だ。全国津々浦々、尋常ではない数のライヴをこなしている踊ろうマチルダにとっては、楽器こそが旅の友、すなわち「マチルダ」なのだろう。
下北沢の440は、決して大きいハコではない。食もあわせて楽しむというスタイルで、椅子とテーブルが用意されているから、100人くらいが丁度いい。しかし、この日は前売りだけで120枚近いチケットが売れ、ダメもとで当日券を求める列まで生まれていた。ワンマンライブは、そんな身動きできない超満員の状況にあり、スタートはかなりおした。
ヒョコッとステージに出てきたツルベ氏は、伏し目がちにセッティングをしたあとで、ようやく人波を見やり、ギターを抱いた。山高帽も、そのたたずまいに合っていてまったく奇抜ではない。精神の支柱として旅ありきなんだろう、まるでジャック・ケルアックが彼の中に存在しているような気がする。といっても『路上』ほど激しく突き抜けるわけではなく、ゆっくり、一歩づつ踏みしめていく感じだ。そして、酔いどれ詩人、トム・ウェイツに通じる枯れた声で、優しく歌われる詩。あまりにも純粋すぎて「歌詞」というより「歌詩」といいたくなる。酔いどれ詩人の名曲"イノセント・ウェン・ユー・ドリーム"をカバーされちゃあ、こちらも酒を飲みつつ、煙草に火なぞつけたくもなる。下戸ならば酒の代わりにコーヒーという手もアリだ。ただし、その場合においては、やはりイギー・ポップも欲しくなる(※ジム・ジャームッシュ監督作品『コーヒー&シガレッツ』より)。
アイリッシュどころか、クレズマー、マヌーシュと、なかなか触れる機会のない音楽をさりげなく入れこんでくる。本人によれば「大人のための童謡」だそうだ。場末の酒場で、日々の鬱憤と我を忘れてはっちゃけるようなダメな大人相手のゴキゲンな音楽が、踊ろうマチルダの中で醸造されている。ツルベ氏の「マチルダ」は、枯れた声を浮かび上がらせ、時に唇を曲げさせる。それどころか、ウッドベース、サックス、パーカスを牽引し、対バンで意気投合したところから今回の参加が決まったクール・ワイズ・メンのトランペット、光風氏とのささやかなバトルを展開させる。「意気投合」という響きがまた、たまらないではないか。
この朴訥(ぼくとつ)で田舎訛りが抜けない男の魅力は何なのか……などと、深く掘り下げることはもちろん、思い入れを積み重ねる時間すらなかった。結果的に、まっさらな状態でライヴ体験できたことがなによりも嬉しい。とりあえずの駆けつけ一杯、実際に自分はそれをやってしまったのだから、知った瞬間からすでにベタ惚れだったということだ。ツルベ氏の声は、ありったけの感情を込めるではなく、吐き捨てるような感じ。これがかえって、染みたのだ。
踊ろうマチルダ・ツアースケジュール
09/05/06(水祝)@新宿 Red Cloth
09/05/08(金)@新宿 LOFT(bar space)
09/05/10(日)@千葉 流山 アンティグア
09/05/10(日)@神奈川 新百合ヶ丘 Bar Chit Chat
09/05/17(日)@東中野プリズントーキョー
09/05/19(火)@横浜 Thumbs Up
09/05/23(土)@大阪 南森町 Bar Shelter
09/05/24(日)@三重 菰野 Cafe COB
09/05/30(土)@渋谷 Wasted Time
09/06/13(土)@神奈川 逗子 Bar ランテルナロッサ
09/06/22(月)@沖縄 宜野湾 ロックジャミン
09/06/24(水)@沖縄 具志頭 虹亀商店
09/06/26(金)@沖縄 宜野湾 プチ☆カフェ
09/06/27(土)@沖縄 那覇曙 Royde
09/06/30(火)@沖縄 浦添 Bar Scarab
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(9th to 21st Jan. バスクにて)
CD Review :
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: リコ・ロドリゲス (8th Jan.)
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