button犬式 (a.k.a.Doggystyle)
@ Shibuya O-East (08th Mar. '09)

うたは自由を目指す

Inushiki (a.k.a.Doggystyle) (犬式)

 2005年のフジ・ロック最終日@アヴァロン。ここは柵のかわりにヒマワリが置かれ、セキュリティもいないのどかなステージだ。犬式は、かつてドギースタイルという名でルーキー・ステージに出演し、めちゃくちゃやったらしい。英語圏で口に出そうものなら誰もがギョッとしてしまう、あまりにも生々しいその名前は、引き続き( )の中に息づいていたというのに。ひょっとすると、その事件を運営側は忘れていたのかもしれない。あるいは、全くの別の存在として捉えていたか?

 アヴァロンのライヴはまさに煮えたぎっていて、祭りの締めくくりとしてふさわしいものだった。いつもはステージ袖から眺めるだけのスタッフが、血相を変えてオーディエンスを押さえにいったほどだ。その時のレポートは、たしかに自分の作品で間違いない……が、読み返すと、なにか別の力がはたらいたような不思議な感覚にとらわれる。彼らによって、喰われたとさえ思えるようなものだった。

Turtle Island 思えば「最高傑作が出来た!」、「初ワンマンだ!」と、去年はかなり上り調子だった。マイ・スペースも整え、いよいよ世界進出か? とさえ思えたが、そこに飛び込んできたのは意外な一報だった。活動休止(もとい、三宅氏の言葉を借りるならば「細胞分裂」)は正直惜しい。何が起きて分裂に至ったかは知る由もないが、袂を分かつということは一大決心だ。その中にありながら、活動休止に向けてワンマンやツアーを組むという選択は、いくらか肥えた連中のやることだ。つまるところ、

「なんだ、まだまだやれるじゃないか……なんで終んの?」

 という思いしか生まれてこない。それなりに名が知れていれば、解散の周りに香ばしい匂いがまとわりついてくる。その点、そっけなくみえる犬式の選択は、ワンマンを用意するほど待ってはいられないけど、約束したライヴだけは守ろうというもの……なんのことはない、ごくごく当たり前なこと。どうしても潔さや嬉しさを感じてしまうのは、ブレたものばかり見ているからだ。「細胞分裂」という結論を出した今だからこそ、ふっきれた、最高のモチベーションでぶっかませる。その境地は引き返す道をはっきりと見せてくれるだろうが、それを選べば、元の木阿弥にしかならない。あの決断はいったい何だったのだろう、と。

 おそらく、バンドとしての危機は幾度かあったはずだ。各メンバーのブログがツアー中でもないのにピタリと更新が途絶え、しばらくして意味深な言葉が綴られたことがあったが、まさにその時ではなかったか。愚直なまでの正直さで立ち向かい四苦八苦している部分は、人間臭いというほかない。

 この日のイベントでも、先人たちへの変わらない尊敬に、反骨、叛逆といった精神が響いていた。犬式のライヴの先に透かし見るのは、いつもザ・クラッシュだ。権利と主張を音楽という武器にのせて叫び、がむしゃらに突っ込んでくる。弱さを知る中での強さだからこそ、犬式を音楽というジャンルの中でのみ存在する似非パンクではなく、生き方としてのパンクと捉えることができる。

Turtle Island セッションやジャムは、尊ぶべき「自然」や「自由」へと近づく手段なのだろうし、予想外の攻めから偶発的に生まれる音の塊によって引き出される恍惚は、思考のスイッチを入れたりと、何らかのきっかけとなるやもしれない。僕はいわゆる「ジャム系」と呼ばれる音楽にはずいぶんと疎く、その本質はわからないが、犬式色というものを感じるアンテナだけは持っている。

 犬式のライヴの場合には、にわかバックパッカーとして歩いたことや、グラストやバーニングマンでの体験を思い起こしてしまう。見ず知らずの土地をひとりで歩くと、必ず当たってくだけろな場面がある。ライヴも、瞬間ごとにきっかけを掴み、音をいかにして生成するかのひと勝負。PAを通してフロアへと投げ込み、ワッと騒げばまたそれを受け取って……という、駆け引きが絶えず起きるのだ。どのバンドにとってもライヴは挑戦だが、旅のような困難と喜びと解放が入り交じった歩みを、等身大のまま見せつけるバンドはなかなかいない。そればかりはエフェクターも効かないのだ。

 この日はひとつだけ、つじつまのあわない言葉があった。「手帳を見てみたら、あと2回ライヴが残っていた」……たしかそんな感じだったと思うが、これはおそらくジョークだろう。4/4 (土)に代々木公園で行なわれるフリーイベント『SPRING LOVE =春風=』のフライヤーには名前がなく、手書きで「犬式出まス!」と殴り書きされていただけだし、4/25(水)は吉祥寺ワープ、仲間がホームで試合を組むならば、断るわけにはいかない。スジを通しつつもひとたび気を許せば折れることができる。依然として繋がりの中にあり続けるこのバンドは、いつか再び、ひょこっと姿を現すだろう。分裂していようとも、勢いや表情や漂うリズムによって、はたまた酔いがまわることもあるだろう、気分の盛り上がりを押さえていられる人たちだとは微塵も思っていない。今後の野良犬たちに大いなる期待を持って、あと2回!
Inushiki (a.k.a.Doggystyle) (犬式)

report by taiki and photos by yusuke
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犬式 aka Doggystyle ライヴスケジュール

09/4/4(土) 『SPRING LOVE =春風=』@代々木公園
09/4/25(木)『DOGGGYSTYLE』@吉祥寺Warp



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"意識の新大陸 FLRESH"
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"Life is Beatful"国内盤)
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