Smashing Mag / Travis (トラヴィス) @ Olympic Hall, Seoul (1st Mar. '09)

　大盛況だった日本ツアー最終日から2日後、トラヴィスは韓国のソウルにいた。このところ、多くのバンドが日本の後、ソウルに向かい、さらに台湾から東南アジアといった流れでツアーする傾向にある。日本ではソールドアウトで見られなかったアーティストも、少し踏ん張れば、全く違った環境で見ることができるというのも時代の流れなんだろう。この日も、かなりの日本人ファンがやってきてように伺えた。なにせ、今やウォンの暴落に加えて、フライトの燃料チャージも安くなりつつあり、比較的容易にこんな楽しみ方もできるのだ。実際のところ、地方に住んでいる人たちにすれば、安価なパッケージ・ツアーでソウルを目指した方が、東京や大阪に出てくるよりは遙かに安上がりになるのだ。しかも、余談になることを承知でお知らせすれば、今回、このライヴ取材の翌日、ソウルでiPod Touchの32GBを購入したんだが、日本で買うより1.5万円ほど安かったのには驚かされた。ショッピング中毒なんぞ、あまりかっこいいとは思わないんだが、この値段の格差を有効に使えば、いろいろなメリットもあるはずだ。

　と、そんな下世話な話はともかく、韓国は面白いとつくづくと思わせたのがこの日のライヴだった。なにせ、客の盛り上がりが異様なのだ。なんでも昨年のペンタポート・フェスティヴァルで大好評を博したのが中日のヘッドライナー、トラヴィス。その余勢を駆っての来韓らしく、この日もほぼソールドアウトとなっている。

　おそらく、これはステージに登場した本人達をも認めざるを得ないと思うのだが、この日の主役は、バンドの力を遙かに超えたオーディエンスだった。なにせ、あまりの観客の反応に、メンバーの笑みが絶えることがなかったほど。しかも、曲ごとに起こる大合唱や熱狂の渦に、MCでフランが語った台詞が笑わせた。

「誰か、この様子をビデオで撮っていないかなぁ。見たいのは、僕らじゃなくて、みんな。ビューティフルなんだもの」

　皮肉な話なんだが、今回のライヴでも撮影を許されたのは頭3曲。しかも、フォト・ピットからのみで、会場全体が盛り上がっている様子など、お伝えしようもない。特に、圧巻だったのは紙吹雪。日本でのライヴを見ていないので、同じことが起きていたかもしれないが....　（おそらく、あり得ないとは思いますが）どの曲だったか、オーディエンスが用意した紙吹雪が一斉に会場のなかで広がったあの光景は、忘れようとしても忘れられないだろう。演奏している本人達でさえ、驚きを隠せない様子で、一瞬だが、演奏がひるんでしまったようにも見えたものだ。

「国に帰ったら、みんなに、韓国のことを話して回るから。あなたたちは本当に素晴らしい」

　と、彼らが韓国のオーディエンスに惚れ込んでしまった様子で、ライヴが終わることになる。その間、幾度となくこんな言葉を口にしていた。

「絶対に戻ってくるから。絶対！」

　おそらく、その程度のことは日本でも言っていたんだろうと思う。が、彼らの表情からは、それが通り一遍のフレーズには思えなかった。だからなんだろう、決まり切った「あらかじめ予定された」アンコールではなく、なんと4度目のアンコールに彼らがステージに飛び出して来ることになるのだ。この日のセットリストはここでみつけたんだが、「長い間演奏してない曲なんだけど...」と、この日のライヴを象徴するように「Happy（ハッピー）」という歌で締めくくっていったのも十分に頷けるのだ。それほどまでに、彼らがハッピーだった。それにつきるだろう。

「すぐに戻ってくる...」という言葉が、日本のフジロックやペンタポートを示しているという噂にもなっているんだが、おそらく、それはないだろう。が、こんなショーを見せられたら、正直言ってしまうと、日本より韓国でライヴを見てしまいたくなる。それほどに韓国のオーディエンスの「ライヴの楽しみ方」は半端ではない。そんな熱気がひしひしと伝わり、それに応えるようにバンドが素晴らしい演奏を見せてくれる。もし、チャンスがあれば、そんな体験をしてみるのは如何でしょう？　ちなみに、韓国で開催される次のUKロックといえば、4月1日のオアシス。直接自分でチケットを入手するのであれば、招聘元、イエロー9にコンタクトをとるのもいいし、面倒であれば、グラストンバリー他のライヴを中心にツアーを組み立ててくれるオアシス・ツアーにコンタクトをとってみればどうでしょ。