2月5日の横浜サムズアップを皮切りに、金沢から大阪、広島など、全国7都市を旅したのが今回のツアーだった。その最終公演となるのがこの渋谷クラブクアトロ。おそらく、旅を通じて日本にも慣れたんだろう。加えて、素晴らしくハッピーな経験も積んできたんだろうと察する。初日とは打って変わって、リラックスした演奏を聴かせてくれたのがこの日。なにやらホーム・パーティにでもいるような、暖かい雰囲気が会場を包み込んでいた。

　初日のレポートでも、お知らせしたように、どこかノスタルジックで、ちょっとヨーロッパ的なニュアンスも感じさせる心地よさが彼らの音楽の魅力。しかも、弦の響きやちょっとコケティッシュでキュートでいながら、繊細なクレアのヴォーカルのせいか、ひとたび演奏が始まるとしんと静まりかえるのがオーディエンス。おそらく、まるでファンタジーのような彼らの音楽の世界に吸い込まれて、とっぷりとその世界に身を浸したいんだろう。少々ざわざわしたところで、本人達はそれほど気にはしていないようなんだが、さすがに雑音でしかない音が響くシャッターを頻繁には押せなかったというのが正直なところ。だから、いつもと比較すると、このフォト・レポートで全体像をお伝えできるとは思ってはいない。

　その一方で、「ギターが古くて...」と、1曲終わるごとにチューニングするクレアの隣で、旦那さんのオリヴァーが、旅で習った日本語でMCをやったり、リコーダーで「イパネマの娘」を演奏したり...　そのリコーダーで何度も繰り返される「イパネマの娘」に大笑いしながら、ライヴが進行していった。途中、まるで即興のような「オバマ」という曲が飛び出したり...　当然ながら、彼らもジョージ・ブッシュ時代の終わりを祝福しているんだろう。ただ、名前を連呼するだけの歌で、彼らの立っている場所がいとも簡単に理解できる。

　どこかで、彼らのアルバム、『ザ・ムーヴィ』がそのままライヴで演奏されただけ...　という声も耳にしたんだが、それでなにが悪い？　わずか1時間半ほどかもしれないが、なにもかも忘れて心地よくなる至福の時を過ごせたのがオーディエンス。ライヴが終わってしばらくして始まったサイン会に長蛇の列が生まれていたのは、もちろん、彼らがそれほどまでに幸せな時間を過ごせたことの証明に他ならない。

　会場にはミュージシャンの姿もちらほら目にすることができたんだが、どこかで、ミュージシャンズ・ミュージシャンなんだろう。これもジェフ・マルダーという親父さん譲りなのかもしれない。そういえば、この夜、細野晴臣氏が姿を見せいてたんだが、彼のエキゾチカ三部作（『トロピカル・ダンディー』、『泰安洋行』& 『はらいそ』）を長年愛聴しているファンとして、同じような世界にクレアとザ・リーズンズがいるんだというのがよくわかる。

　今回のライヴで唯一残念だったのは、お客さんの数が少なかったこと。こんなに素晴らしい音楽を生で体験するどころか、そんな音楽の世界にとっぷりと身を浸すことのできる時間なんぞそんなにはないと思うのだ。次回の来日には、絶対に見逃しては欲しくないし、彼らのアルバム、『ザ・ムーヴィ』もぜひ聞いていただきたいと思う。幸せな時間を過ごすことができるという点に関していえば、100％保証できる傑作なのです。

hanasan's works

mail to