それはまるでノスタルジックでエキゾチックな映画の世界に誘い込まれるような音楽だった。舞台は古き良きアメリカのようでもあり、ヨーロッパなのかもしれない。あるいは、さまざまな人種が小さな町を作るマンハッタンか？　そんな世界で繰り広げられる探偵映画のポスターがそのままジャケットになった作品が、クレア・アンド・ザ・リーズンズのデビュー・アルバム、『ザ・ムーヴィ』。文字通り、映画こそがこのアルバムのコンセプトであり、この架空の映画のサウンドトラックと呼んでもいいのがここに収められている音楽ではないかと思う。

　ちょいとジャズっぽく、華麗なストリングスにメロディが、どこかでフランスのエスプリを感じさせ、キュートでコケティッシュなクレアのヴォーカルが甘くささやいてくれる。といっても、この日のライヴでフランス語が飛び出したのは1曲ではなかったかと思うのだが、どこかでなにかが微妙にフランスなのだ。そのヴォーカルに感じるのはジャズ・ピアニストでヴォーカリストのブロッサム・ディアリー。『ブロッサム・ディアリー』とシンプルなタイトルが付けられた名作をご存知ならば、そんな意味もわかるだろう。あるいは、わずか1枚のアルバムを発表して姿を消すことになったフェアグランド・アトラクションズの『The First of a Million Kisses（ザ・ファースト・オヴ・ア・ミリオン・キッシーズ）』時代のヴォーカル、エディ・リーダーも近い線かもしれない。

　なにやら男心をくすぐるような甘い歌声をささやくように歌うヴォーカル、クレアのフルネームはクレア・マルダー・マンション。お気づきの方もいるだろう...　というか、これこそが日本で彼らを知るきっかけになるんだが、彼女はかのジェフ・マルダーの愛娘だ。しかも、この音楽性を体験すると、ひょっとすると、その奥さんだったマリア・マルダーとの間にできた娘なんだろうかと思うのも無理はないだろう。どこかで、彼女の名作、『Maria Muldaur（オールド・タイム・レイディ）』や『ドーナッツ・ショップのウェイトレス』のニュアンスも彼らの音楽に感じるのだ。が、なんでもジェフが離婚した後、再婚した相手との間に生まれた娘らしい。

　おそらく、そういったアルバムの数々をご存知ならば、このバンドの奏でる音楽のだいたいの雰囲気は察していただけるだろう。そのクレアの旦那さんが、このバンドでリコーダーからギター、ベース、のこぎり、ヴァイオリンにキーボードや『フェイク』ハープシコードなどを奏でるマルチなミュージシャン、フランス人のオリヴァー・マンション。おそらく、彼のセンスが微妙なフランス的エスプリを感じさせる理由なんだろうし、ユニークな「味」をこのバンドに与えているのではないかと思う。

　メンバー全員が真っ赤っかなコスチュームで登場し、アットホームな雰囲気で楽しませてくれたのがこの日のライヴ。おそらく、時差ボケや初めての日本でのショーということもあり、ちょっとした堅さもあったんだろうが、なかなかどうして「聞かせて」くれるのだ。そのささやくようなヴォーカルや繊細なバックの演奏に、なかなかシャッターを押すチャンスはなかったんだが、ある程度のイメージは伝えられるのではないかと思う。途中、照明を落としておもちゃのような明かりでステージを演出したり...　カメラマン泣かせのライヴは、じっくりと会場で演奏を目の当たりにしてこそ楽しめるというもの。もし、お時間があれば、足を伸ばしていただければと思う。

　蛇足ですが、ヴォーカルのクレア、先日、元トーキングヘッズのデヴィッド・・バーンの来日公演でバック・ヴォーカルとして来日していたんだとか...

tour schedule

5th Feb. @ Yokohama Thmb's Up
7th Feb. @ Kanazawa Mokkiriya
9th Feb. @ Shinsaibashi Club Quattro
10th Feb. @ Hiroshima Club Quattro
11th Feb. @ Kyoto Taku Taku
12th Feb. @ Nagoya Tokuzo
13th Feb. @ Shibuya Club Quattro

*The details can be checked here(JPN only).

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