button面影ラッキーホール
@ 渋谷クラブクアトロ (25th Jan. '09)

裏通りのソウル・レビュー


 仕事のため駆け足で1階にあるブックオフに着いてエレベーターの表示を見ると、一向に来る気配がないので、駆け足で階段を上がって会場のクアトロへ(エスカレーターを使えばよかった)。扉を開け中に入るとギリギリまでお客さんでいっぱい。どうやらまだ始まったばかりであった。新曲の、交通事故で下半身が麻痺になった妻との性生活を心配する夫を詰る、面影ラッキーホールらしくエグい歌詞の「私が車椅子になっても」からスタートしたライヴは、またしても、世間の片隅でひっそりと暮らす男と女のやる瀬ない日常を描くステージだった。ウィキペディアによると、「レビュー」という言葉は、フランス語で大衆の娯楽演芸を指すのだけど、元来は調査や批評という意味で(英語のレビューと同じ)、転じて、その年の出来事について風刺的に描く歌や踊りをレビューと呼ぶようになったとのこと。面影ラッキーホールのライヴはまさにそうした意味でレビューなのだ。

 老人と少女との官能世界を歌う怒濤のファンクナンバー「今夜、巣鴨で」、間奏に都はるみ&岡千秋の「浪花恋しぐれ」の危険なパロディ(どれくらい危険かといえば、さけくさやという言葉が出てくるのだ。NHKの収録が入っているらしいのに……)の語りが入った「必ず同じところで」、切ない社内不倫ソング「いっちまったら」、面影流の人力ヒップホップ「あんなに反対していたお義父さんにビールをつがれて」「ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった」などなど、日陰でうごめく人たちを歌っていくのだ。

 ヴォーカルのアッキーはMCも絶好調で時事ネタも満載。「こんばんわーユニコーンです!」「クアトロって、上京したときは小洒落たビルだったけど、今はブックオフじゃねーか!」「相対性理論に入りたい」「○○○○ー○イサービスの○○○○さんに気に入られてライヴに出ます」「ち○ぽ」「まん○」など場内の笑いを誘う。本当にNHKの収録が入っているのだろうか? って心配になるくらい放送できないこともたくさん。恒例のコール&レスポンスのコーナーでは「say! 小向美奈子!」と合唱させる。

 タイトルと歌詞とMCのおかげでお笑いバンドかと思われるだろうし、もちろんそうした面があるのは大いに認めるところなんだけど、ファンクやソウルに通じる緻密で、ときに迫力ある演奏をこなすバンドの力量もすごいし、独特な世界を作り出すアッキーのヴォーカリストとしても非常に素晴らしいのだ。オリジナル・ラヴのパロディと思われる「中に出していいよ、中に出してもいいよ」、だらしないけど心根は優しい女の子歌「あたしゆうべHしないで寝ちゃってごめんね」、ヒモ男との切ない生活を描いた「おみそしるあっためてのみなね」のアッキーによるサビの絶唱は、笑いを通り越し、孤独を恐れる人間の心の叫びにまで昇華され、その切ない心情が胸に迫ってくる。それはオーティス・レディングの『Try a Little Tenderness(トライ・ア・リトル・テンダネス)』に匹敵するものだと、この際断言しよう。

 そして、アース・ウインド&ファイアに通じるファンクナンバー「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた……夏」、あるきっかけで裏通りから足を洗うことを歌った、これも怒濤のファンク「コレがコレなもんで」で会場は大盛り上がり。お客さんたちも一斉にステージに合わせて踊る。熱烈なアンコールを受けて、ヒップホップな衣装に変えたアッキーが登場し「俺のせいで甲子園に行けなかった」、そして、もはやノスタルジーとなった東京のクラブ事情を歌った「東京(じゃ)ナイトクラブ(は)」で締める。中盤はバラードが多め、そして後半とアンコールで爆発する構成でお客さんたちも大満足だった。最後にアッキーがだらしないボディを披露していたのはどうかと思うが(笑)。

 面影ラッキーホールの歌詞に出てくる人たちは、賢さとか堅実さとは縁がなく、将来の展望もなく人生を迷っている人たちなのだ。以前、年越し派遣村に集う人たちを「自分のキャリアプランニングができない人を救済してどうするんだ」というようなことを言う人がいた。確かにおっしゃる通り、自分もそうした物言いは100%否定はしない、だけど、人間っていつもそんなに強く、賢く生きられるものなのだろうか? 人間のどうしようもない愚かで浅ましくて弱く薄汚い部分に対して、手を差し延べるところまではいかないかもしれないけど、視線を向けるくらいはできないのか? 人が生きる底辺に面影ラッキーホールは、そっと降りていくのだ。


 ここからは追伸。

 2008年1月26日23:08現在、amazonの面影ラッキーホール『Whydunit?』のkiyojiiなる人物の「リアルな”愛”の究極」というタイトルのレビュー(2008/11/15掲載)は、おれが2007年9月16日の面影ラッキーホールのライヴについてレビューした「下流社会のファンク・ミュージック」に酷似しています。微妙に細かいところを変えていますが、ほとんどコピー&ペーストです。なぜそんなことをするのだろうか? そんなことをしなくても自分の言葉でこのアルバムのすばらしさは伝えることができるでしょ?

report by nob
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button下流社会のファンク・ミュージック (07/09/16 @ Shibuya Duo) : review by nob
button格差社会のブルース (07/01/08 @ Eats and Meets Cay) : review by nob, photos by naoaki


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