モグワイ @ リキッドルーム恵比寿(10th Jan. '09)
老舗の味わい
ステージに目を遣ると、まずドラムセットで視線が止まる。おそらくセルティックのものと思われるマフラーが掛けられている(セルティックはモグワイの地元であるスコットランドの都市、グラスゴーのサッカーチームで、中村俊輔がいることで日本でもお馴染みなはず)。さらに、バスドラムのフロント・ヘッドにはモグワイのロゴが描かれている。その「MOGWAI」の「A」は女の子の足にあたり、その女の子は腕を拡げているので、歓喜しているように見えるのだ。ちょうどモグワイの轟音を全身に浴びて気持ちよくなっているポーズでもある。
前座がいたので、20時を回る頃から始まったライヴの終了が22時前くらいである。身動き取れないほどではないけど、ほぼ満員となったフロアは、ライヴが終わったとき、モグワイの放つ轟音に、まさに歓喜の声を上げていたのだ。最後の曲だった"BATCAT(バットキャット)"は波のように掻き鳴らされたギターから発せられる会場を覆うくらい大きな音量のノイズが押しては返す。メロディもハーモニーも無くなるような消失点に向けられた音。その音は確かな存在感をもって会場に存在するものすべてを震わせる。これはもはや音楽を鑑賞するのではなく、現代アートを体験するのに近いものになっていた。
自分が初めてモグワイを観た2001年頃は、ライヴの間、終始轟音が続いていたけど、それから徐々にライヴでもCDでも静かでアンビエントなパートが増えていった。静謐な美しさを湛えた導入から凶暴なノイズ攻撃という展開は、ライヴに起伏をつけて深みを増しドラマティックになった。それはそれで素晴らしいのだけど、体を包むような轟音を期待する者とすると、少し物足りない気もしたのだ。
この日も基本的にここ数年のライヴのように、静と動の繰り返しで起伏をつけたものであったけれども、轟音が解き放たれたときの体が受ける衝撃は、以前のものを取り戻したように感じた。やっぱり進化したいというバンドの想いと、以前の衝撃を求めるお客さんとに上手く折り合いをつけたライヴだったのだ。それは、老舗の味を守るお菓子屋のようで、ずっと同じ味だけども、それを維持する努力は大変なものだし、少しずつ新製品をラインナップに加えて新しいお客さんも捕まえなくてはいけないし常連さんも飽きさせないようにするのだ。モグワイからそうした老舗ならではの深い味わいが漂ってくる。この日は新譜中心の選曲であるけれども、『クリスマス・ステップス』や『2ライツ・メイク1ロング』と要所にキラーチューンを配置していた。
モグワイは、ファンカデリックからスレイヤーまで様々な音楽を好むことを公言している。にも関わらず、そうしたスタイルをそのまま反映したような曲は自分が聴く限り、今まで作られた形跡がない。どれを切ってもモグワイ印の音楽が出てくる。その多種多様な音楽的な土壌をそのまま放出するのではなく、一旦自分たちの中に貯めに貯めてモグワイとして演奏されると、このような爆発力をもって会場をノイズで覆うのである。どれも同じようにスローなテンポのリズムでミニマルなフレーズを繰り返し、アンビエントとノイズが交互にくるような曲展開であるけれども、その中には、ファンカデリックからスレイヤーまで音に込められた豊かなバックグランドがあるのだ。
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mag files : Mogwai
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