button ブリーチ
@ 渋谷エッグマン (26th Dec. '08)
& 幕張メッセ (28th Dec. '08)

彼女たちの底力

 年末にブリーチがツアーをおこない、さらにカウントダウン・ジャパン(幕張メッセ)にも出演するというので、12月26日の渋谷エッグマンと28日のカウントダウン・ジャパンに足を運んだ。スマッシング・マグでもお馴染みのデトロイト7と一緒に「でーじdb(デシベル)ツアー」と題して各地を廻り(名古屋の様子)、ツアー最終日が渋谷であった。

 この日は仕事のため、頭の2曲を見逃し、3曲目の"デス子"から観ることになった。いつものようにすごい演奏である。ベース&ヴォーカルであるミヤの「死ぬんじゃないよー簡単に」という叫びが刺さってくる。そして、"悪魔は隣"、"スケッチブック"、"踊る首"と演奏されて、やはりブリーチの出す音はカラダにずしっと届くのだと改めて感じた。この日のハイライトは"サンダンス"で、イントロで響くバスドラの、さらに重みを増した音がこの曲をさらに進化させたことを感じ取れたのだった。続いてかんなの新曲とミヤの新曲が披露される。かんなの新曲は中近東ぽいオリエンタルなメロディが印象的である。

 ブリーチのライヴはいつも高水準で、当然聴く側の要求するものが高くなる。そこいらのバンドと比べれば遙かにすさまじい音を聴かせてくれる。だけども、この日はちょっとバンドの中にズレがあって、完璧に対して何かが足りないという違和感を覚えていた。翌々日のカウントダウン・ジャパンでは、初めて観るお客さんに対して一発で心を掴む演奏をして、バンドの魅力をわかりやすく伝えなければならない。気迫十分で観る者を圧倒し「よし。この状態ならフェスに出てもオッケー」と思えるステージを観たかった。

 この日の演奏は、何度も何度も観ていた自分のような者からすると、いつものようにすごいと感じるのだけど、例えれば、プロ野球の速球派投手でいつも150キロの球速を出せる人が、140キロしか出ない状態のように思えた。140キロだって普通の人なら容易に打てるものではないけど(甲子園に出る高校生だってなかなか打てない)、その人の水準からすれば調子が今ひとつということになる。どうやら微妙にテンションがズレて、3人で立て直そうとしていたのだ。曲と曲の間も妙に間延びしてせっかくの勢いを削いでしまったのだ。だから、確かに演奏自体はすごい、すごいんだけど今ひとつという何とも2日後を思うと不安を抱かせるものになっていた。

 それは、次に登場したデトロイト7が素晴らしかったせいもあって、その対比が如実に表れてしまったということでもある。デトロイト7はテンション高く、疾走するガレージなロックンロールをぶちまけたのだった。メンバーががっちりと組み合って一丸となったときのすごさというのを痛感したのだ。まず耳に入ってきて「お、いいな」。次に「もっと近づいてみよう」とステージに引き寄せられる。そして、カラダが動き、踊り出す。こういったお客さんの心の動きに沿うようなライヴを展開したのだった。

-- set list --

ジョボビッチ/サムライジャングル/デス子/悪魔は隣/スケッチブック/踊る首/サンダンス/かんな新曲/ミヤ新曲/パステルカラーの自分を殺せ/サイコキャラバン/ロックに呼ばれている/げっちゅー人間/月蝕/トーチ



                                     ○

 そして、28日の幕張メッセである。ブリーチは、ムーンステージという4番目のステージで演奏する。フジロックでいえばオレンジコートというような位置づけで、1000人くらい収容できると思われる。会場自体が幕張メッセのなかにあるわけだから、ステージの外に漏れる音を聞きつけてお客さんが簡単に寄ってきたり、逆に気に入らなければすぐ別のステージに移ることができる。そんな環境の中で彼女たちは力を発揮できるのだろうか。2日前のこともあり、心配でたまらなかった。まるで発表会で子供がステージに立つ親のような気持ちでステージを見守っていた。

 入念なリハーサルもおこない、あとは天に任す。定刻になりメンバーが登場し、音が出始めたあたりからお客さんがフロアへ徐々に集まってきた。まず、ヘヴィでメタリックな"ジョボビッチ"から始まる。おおお、安心。このテンション、この迫力なら大丈夫だ。3人が一体となった重量感のある音、そしてスピード感、ヘヴィな音が好きな人なら絶対に食いつけるだろう。続く"サムライジャングル"も鋭く決まった。

 ところが中盤に差し掛かるとトラブルが発生した。ミヤが演奏の途中で右手をしきりに気にするようになった。それが後に爪が剥がれてしまったということがわかるのだけど(ベースは血まみれになったとのこと)、ステージの袖に引っ込んではスタッフにテーピングしてもらい、演奏中にそのテープが上手く馴染んでないようで、ミヤはテープを剥がして(外れた?)、またスタッフに巻いてもらうという繰り返しだった。ピックを使わずにベースを演奏する曲が多いミヤにとっては、非常につらい状況だった。何かマズいことになっているというのは、客席にいてもはっきりとわかった。

 特に"この頃ファンタジー"は、見ていられない感じで、親のような気持ちで観ている身としては心臓にも胃にも悪かった。「このフェスに勝負を賭けているんです」と渋谷のライヴの後に関係者の方がいっていて、その意気込みの強さはリハーサルや最初の数曲に現れていた。2日前の渋谷のライヴを反省して、カウントダウン・ジャパンに臨んでいたのだった。

 このバンドに出会って6年経った。いつもこのバンドはすごい、みんなに聴いてほしいと願い、ずっとレポートを続けていた。アメリカや日本の一部では高い評価を得ても、彼女たちの持つ可能性からすれば、まだまだ広がり方が足りない。カウントダウン・ジャパンというアウェーの場に出ることによって、たくさんの人に衝撃を与えるチャンスを作ることができた。そしてその場で、よい演奏をして新たなファンを獲得しなければ、そう何回もチャンスは与えられないだろう……。いろんな思いが去来して、祈るような気持ちになった。ここまで漕ぎつけたのだから、必ずインパクトを残して欲しい。しかも初めてブリーチを観る人がかなり多いようだったことだし。

 救いは、他の2人、ドラムのサユリとギター&ヴォーカルであるかんなが落ち着いていたことである。ミヤのトラブルに引きずられることなく、ステージの上で堂々としていたのだ。"サンダンス"では、ミヤも取り戻すべく縦横無尽にステージで暴れまくる。"踊る首"、"げっちゅー人間"をなんとか切り抜けて、ラストの"トーチ"はダークに疾走するヘヴィな音で、客席を覆うことができた。ハラハラしたけど、ギリギリセーフなライヴだった。お客さんたちの反応もよかったし、観ていた他の人の話しだと、好意的な声が周りから聞こえてきたようだ。数々のライヴをくぐり抜けているので経験がモノをいってトラブルに対処できた。これが彼女たちの底力だろう。やはり、ずっと応援してきた甲斐があったのだ。願わくばその歩みが報われんことを。

-- set list --

ジョボビッチ/サムライジャングル/デス子/悪魔は隣/この頃ファンタジー/サンダンス/踊る首/げっちゅー人間/トーチ

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