ブレット・アンダーソン @ 渋谷AX (9th Dec.'08)
ただ、歌を「聴かせる」ということ
12月3日にニュー・アルバム、『ウィルダネス』の日本盤が発売されたのと時を同じくして、ブレット・アンダーソンの来日公演があった。『ウィルダネス』は、ピアノとチェロを中心としたシンプルなサウンドにブレットが歌う、という、およそスウェードとはかけ離れた作りになっている。シンプルが故に、そのタイトルの通り、荒野にたゆとう風のごとく澄んだ歌声を聞かせてくれる佳作である。
会場はお世辞にも満杯とは言えない状態だったが、昔ながらのスウェード・ファンと見られる年齢層がいるかと思えば、若い人達も客席前方を結構埋めている。ステージ上手にはチェロ、真ん中にはマイクスタンドとギター、下手にはグランドピアノ。この日のライブは、ソロ・アルバムからのナンバーを歌う第一部、スウェードからのナンバーを歌う第二部、という構成だった。
ライブ開始直前、中近東っぽいSEが流れ、ブレットとチェロ奏者のエイミーの二人がステージに現れる。彼はまずはピアノに座り、「ウィルダネス」と同じ曲順で「ア・ディファレント・プレース」、「ジ・エンプレス」を続けて歌う。その後も、歌い終わるとすぐさま次の曲のイントロを弾き始め、私達に拍手する間を与えさせまいとせんばかりに次から次へと、時に静かに、時にエモーショナルに歌い続ける。5曲目の「バック・トゥ・ユー」まで一気に歌いあげたところで、ほっと一息つくかのように「ハロウ!」とブレットは客席に向かって声を上げた。会場からも安心したかのように大きな拍手が響く。
ライブでの彼は決して愛想が悪いわけではない。むしろMCの時はにこやかにオーディエンスに話かけてくる。スウェードの時もそうだったのに、どうもオフィシャル・フォトがシリアスな顔のものが多いので、「ライブでもどーせカッコつけまくってるんだろう」とライブを見たことない人達に思われがちなのだが、ブレット・アンダーソンは決してそんなシンガーではないのだ。ただ、今回はライブの構成上、より歌を聞かせることに集中しているようで、その緊張感はひしひしと伝わってくる。
ピアノから離れたブレットは、ステージ中央の椅子に座りアコースティック・ギターを弾き始め、ファースト・ソロ・アルバム、『ブレット・アンダーソン』から「ラヴ・イズ・デッド」が始まる。そして再び、隙間なく2枚のソロ・アルバムからの曲を歌い続ける。非常に印象深い曲、「フューネラル・マントラ」はアルバムでは打ち込みとマントラのようなバックコーラスが入っているのだが、ライブではこれらの音は流れない。本当に二人っきり「だけ」の「歌声を聴かせる」ライブに徹したいのだなあ。
再びピアノに向かい、第一部の最後は『ブレット・アンダーソン』からの曲「トゥ・ザ・ウィンター」。この曲の序盤、ブレットはピアノにあるマイクからわざと口をずらせ、ほぼ肉声の状態で歌い、サビの部分はマイクで歌う、という、エフェクターを利用せずに自ら声でメリハリをつけて歌っていた。小さい会場や教会のような場所でコレをやれば、たいていのシンガーなら歌い方の効果が出せるだろう。でも、渋谷AXクラスの会場でやるとは、よっぽど自分の声量に自信があるのか、あえて自分を追い込んで挑戦したのか、どちらだろう? いずれにしても、肉声は広い場内に響きわたり、改めて彼の声量に感心させられた。
第一部は約40分程度。20分近くの休憩の後、第二部が始まった。第二部はもしやバンド編成となるのでは? と一瞬思ったのだがステージ上の楽器は何も変わることなく、アコースティック・セットであった。
今回のツアーでスウェードの曲をやる、という話は既に耳にしていた。チェロとピアノ、又はギターのシンプルな構成だったら、私はどの曲を聴いてみたいだろう、とライブ前にあれこれ考えていた。そしてブレットが弾き始めたギターのイントロは「ヨーロッパ・イズ・アワ・プレイグラウンド」! 私が最も聴いてみたいと思っていた曲が真っ先に始まった! これは初めてスウェードのメンバー全員が曲作りに参加した、という点で彼に思い入れがあったのかもしれない。その後は、ファースト・アルバム〜4枚目「ヘッド・ミュージック」の中から10曲を披露。私個人にとって「聴きたい」と思っていた全てを演奏してくれたので大満足だった。
最後に演奏した「アスファルト・ワールド」は非常に複雑な構成の曲にも関わらず、ピアノを打楽器の如く弾き、バンドとはまったく違う印象のものに歌い上げ、ピアノの蓋を叩きつけるように閉じてライブは終了。
第二部終了後は拍手が鳴り止まず、そして、アンコールには「ソー・ヤング」、「エヴリシング・ウィル・フロウ」、「トラッシュ」の3曲。バンドだと非常にドラマチックになるこの3曲がアコースティックで演奏されると、また一味違ってくる。そして、「良かったらみんなも一緒に歌ってよ」と言ってしまうところは、相変わらずのブレット・アンダーソンだ。でも、元々のキーが高いのと、アコースティック用にちょとアレンジ変えていたので、オーディエンスも上手くコーラスを乗せられない! 「トラッシュ」では曲の途中から手拍子が始まり、大合唱となり暖かな雰囲気の中ライブは終了となった。
かつて、「自分の中の悪魔を取り戻す為にバンド活動を休止する」と言ってスウェードを停止させた直後、ブレットは初期メンバーのバーナード・バトラーとザ・ティアーズを結成させた。その時私は、「悪魔を取り戻すパートナーはバーナードではないでしょうに。」と思った。案の定、とでもいうか、アルバムの曲の完成度は高かったものの、「それ以上」の物を生み出すほどの化学反応は起こらなかった。どちらかというと、同じ時期に作成していたソロ・アルバム「ブレット・アンダーソン」の方がよっぽどリラックスして取り組んでいたのではないか、と思えるほど良い作品だ。そして、余計なものをそぎ落とした今回のアルバムのような音こそ、むしろ、スウェード活動停止直後から彼がやりたかった音楽ではなかったのだろうか。すぐにでもこういう音をやるだろう、と思っていた私にとって、「遠回りしたもんだねェ、アンタ」と彼に言ってあげたくなる。だが、遠回りをしたからこそ、短期間で、地味ながら完成度の高いアルバムを作成し、今回のステキなライブを私達に披露することが出来たのだ、とも思う。
願わくば、次回は屋内ではなく、夏に星空の瞬く山の奥深くでしっとりと、チェロとギターとピアノと歌声に包まれてみたい。
-- set list --
-- 第一部 --
1.A Different Place 2.The Empress 3.Chinese Whisper 4.Blessed 5.Back to You 6.Love is Dead 7.Song for my Father 8.Clowns 9.Funeral Mantra 10.P.Marius 11.To the Winter
-- 第二部 --
1.Europe is our Playground 2.Living Dead 3.Pantmime Horse 4.Still Life 5.Wild Ones 6.Saturday Night 7.By the Sea 8.He' s Gone 9.2 of Us 10.Asphalt World
-- encore --
1.So Young 2.Everything will Flow 3.Trash
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2008
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