Smashing Mag / Justin Nozuka (ジャスティン・ノヅカ) @ Harajuku Astro Hall (27th Oct. '08)

　シ～ンと静まりかえった会場で、どんなかすかな声や音でも聞き逃すまいとすがりつくようにジャスティンを見つめる目があった。あるいは、目を閉じることで全神経を彼の歌やギターに注ぎ込んでいる人もいる。撮影のためにその場にいというのに、わずかなシャッター音さえもが演奏を台無しにしてしまうようなオーディエンスの静かなエネルギーに抗えなかったといってもいいかもしれない。あまり多くを撮影はできなかったように思う。そんな空気が会場を包み込んでいた。

　言うまでもなく、その空気を作り出していたのは、たぐいまれな表現力を持つジャスティンの声だった。華奢な身体のどこから出てくるんだろうと思えるほどに、魂を感じさせるのがそのヴォーカル。静かにささやくように歌うときでさえ、言葉のひとつひとつに胸が締め付けられ、動くことさえもができないように歌の世界に吸い込まれるのだ。特に、強烈だったのはアンコールの最後にひとりでステージに残って演奏した"Oh Momma（オー・ママ)"。マイクから遙かに離れた位置で、静かにギターを奏でながら、祈るような表情で彼が歌ったときではなかったかと思う。その圧倒的な迫力に一度もカメラのシャッターを押すことができなかった。

「アコースティック・ソウルだね」

　ライヴが終わった後、ジャスティンの傍らで素晴らしいキーボードとギターを聴かせてくれたミュージシャン（申し訳ないが、名前を確認できていません）に声をかけると、満面に笑みを浮かべて、こんな言葉が返ってきた。

「そう、その通りなんだよ。僕らがやりたいのはソウルなんだ」

　しかも、ありきたりで薄っぺらなR&Bもどきではなく、クラシックな、文字通り、魂のこもったソウルに通じる世界こそがジャスティンを支えていると感じたのはこのときが初めてだった。すでに、数え切れないほど聞き込んでいたのが、まだ彼が17歳の時に録音したというデビュー・アルバム、『ホーリー』。これが素晴らしい作品であることは疑う余地がないんだが、初めてのライヴで見る彼の表情はそれを遙かに凌駕していた。

　ステージに姿を見せたのは前述のミュージシャンとジャスティンの二人のみ。ギター2本とキーボードだけの、実にシンプルな構成だ。が、ジャスティンの歌の魅力が翳むことは全くなかった。というよりは、逆に、ヴォーカリストとしての彼の魅力を思い知らされたと言ってもいいだろう。その典型がビル・ウィザースの名曲、"Ain't No Sunshine (エイント・ノー・サンシャイン)"を歌ったときではなかったかと思う。1971年に発表されたウィザースのデビュー・アルバム、"Just As I Am (ジャスト・アズ・アイ・アム)"に収録されて大ヒットを記録した曲を、ジャスティンはマイクを両手で握りしめるようにして歌っているのだが、ファインダー越しに見る彼の表情と声に背筋がゾッとするほどの感動を覚えていた。

　また、アンコールの1曲目で歌われたのは"Dock of The Bay (ドック・オヴ・ザ・ベイ)"。言うまでもないだろう、ソウル・ファンでなくとも一度は聴いたことがある名曲中の名曲だ。おそらく、誰しも越えることのできないソウル界の巨人、オーティス・レディングが不幸な飛行機事故でこの世を去る3日前に録音し、彼の死後に記録的な大ヒットとなった曲。26歳ですでにソウル界の頂上に立つほどの成功をしていたときに、どうやってこの曲が生まれたのは、想像することさえ難しいんだが、人生に絶望し、疲れ果てて海を眺めているというこの曲をジャスティンが歌ったときには涙腺がゆるんでしまった。

　さて、このライヴの帰り道、このときの様子が幾度も幾度も頭の中に甦り、彼の歌が聞こえてきてしまった。それは、もうマジックにかかったようなもので、友人と話していてもどこかで上の空になっている自分がおかしかったほど。おそらく、彼の親父さんにも近い年齢の自分がまだ20歳になったばかりの若造にここまで惚れ込んでしまうことになろうとは思いもよらなかった。