ファンファーレ・チォカリーア @ 渋谷クラブクアトロ (16th Oct. '08) feat. クイーン・ハリシュ & オウレリア・サンデゥ
- 世界最速のジプシーブラスって一体? -
このライブに出向く1週間前まで、ファンファーレ・チォカリーアは特別興味を惹かれる対象ではなかった。CDも1枚だけしか聴いたことがなく、彼らが何人編成で、どのように活動をしているかといった知識も皆無だったのだ。だが東京公演の約1週間前になり、強烈に彼らに惹かれはじめるきっかけがあった。それが「世界最速のジプシーブラス」というキャッチコピーだ。「世界最速」の響きにまず惹かれ、おまけにブラスの上にはジプシーの文字までついている。改めてCDを聴き直し、この音がライブではどう表現されるのかを猛烈に知りたくなった。
兵庫からはじまった日本ツアーは計8ヶ所をまわるもので、東京は6公演目にあたる。ツアーの様子は招聘元であるプランクトンのブログで随時紹介されていたのだが、これがまた面白いのだ。公演の様子だけでなく、メンバーの食事風景(全員がとんかつ好きだという)、「FOR SALE」と書かれた紙がはりつけられた楽器の写真など、自然体でツアーを楽しんでいる様子が伝わってくる。東京ではどんな姿を見られるのだろうと期待が高まった。だがクアトロのステージは、地方公演の会場に比べるとあまりにも小さい。会場に着いた当初は満足なステージが見られるのか少々の不安がよぎる。だがそんな小さな不安は、大きな体をしたチォカリーアの面々によってすぐに吹き飛ばされることになるのだった。
予定開始時刻を少しまわったところで、歓声に応えるようにメンバーが登場した。ステージ後方にセットされたマイクスタンド前にメンバーがずらりと並び、ソロや煽りのときには前方にセットされたマイクの前へとやって来る。全員がステージに上がると、ステージ上は少し窮屈そうに見えてくる。そう思ったのは、彼らが大所帯のバンドだからという理由だけではない。メンバーの大半がずんぐりむっくりなおっさん体型をしているのだ。だが世界最速という肩書きは伊達ではない。ひとたび楽器を持つと、その姿からは想像できないスピードでそれぞれの音を吹き出していく。その高速ブラスのリズムにのせられ、チォカリーアのダンサーであるオウレリアと、彼らのツアーに同行した女形のインド人ダンサー、クイーン・ハリシュがステージに踊り込んできた。カラフルなスカートを大きく広げながら舞うオウレリア、男性でありながら女性以上の妖艶さを放つクイーン・ハリシュ。高速ブラス以上に目を奪われたのが、このふたりによる踊りだった。
ファーストセットを終え、休憩をはさんでも場内の熱気が下がることはない。むしろ加熱していった。その熱狂ぶりに応えるようにチォカリーアのホーンセクションは汗だくになりながら吹き続け、クイーン・ハリシュはフロアに降りて高速回転の踊りを披露する。この頃になると「世界最速」という言葉に惹かれていた自分はすっかりいなくなっていた。完成された美しさを見せつけるふたりのダンサーと、少年のような表情で夢中に演奏する愛嬌たっぷりなチォカリーアのメンバー、そして満面の笑みを浮かべるオーディエンスの表情に魅了されていたのだ。もう、楽し過ぎて泣けてくる。充実した時間が過ぎるのは本当に早く、セカンドセットもあっという間に終了。アンコールを前に一旦ステージ下手の階段を降りていくのだが、メンバーの何人かはよっぽど疲れたのか上手のスペースに隠れて休憩していた。そんな横着ぶりもやけに愛らしく、アンコールを求める声はさらに増していく。最後はメンバー全員がフロアへ降り、マーチングバンドのように練り歩き、オーディエンスを物販コーナーへと導いていくのだった。
演奏終了後に楽屋をのぞいてみた。タバコを吸い、酒を飲み、ぺろんとお腹を出してぐったりしているメンバーがいる。その疲れ果てた姿は、とても世界中を旅してまわる楽団には見えない。だがこんな調子で音楽を続けているのかと思うと、なんだかやけに羨ましく思えた。最後に余談になるが、帰国前には土産物としてインスタント食品などをたんまりと買い込んだというエピソードもある。もうどこまで自然体なのだろうか。この愛すべき旅芸人たちの次の来日を今から心待ちにしている。
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report by funabashi and photos by hanasan
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