Smashing Mag / Elbow（エルボー） @ Roundhouse, London (12th Oct. '08)

　先月にエルボーの今年発売のアルバム、『ザ・セルダム・シーン・キッド』がマーキュリー・プライズを受賞。このアワードは今年度1年間の間にUKとアイルランド内にて発売されたアルバムの中から最優秀のものを選ぶものなのだが、これが他のアワードと違ってアーティストの知名度や過去の成功歴には一切左右されない。純粋にアルバムを作品として評価するものであり、ノミネートされただけでも大きな意味のあるものである。

　今回のツアーでは、ロンドンではキャパが3000人のラウンドハウスに3日間連続で登場。その3日間とも売り切れることになったのだが、これはただ単にマーキュリーを受賞したから注目を集めているという感じでもなかった。今年3月にアルバムが発売になって以来から確実な人気急上昇があったので、今回のロンドン日程すべてが売り切れるというのはマーキュリーがなかったとしても予想はつくところ。それでもやはり見に来ていた人たちにとっては受賞後の特別なライブといった気持ちはあったとは思われるが。

　この日は比較的『ザ・セルダム・シーン・キッド』からの曲に重点が置かれていただろうか。ボーナストラックを除く11曲中、8曲が演奏された。『Mirrorball（ミラーボール）』では、ヴェニュー内いっぱいにミラーボールに反射する光が映し出され、それがまるで雪が降っているかのように見えたり、『The Loneliness Of A Tower Crane Driver（ザ・ロンリネス・オブ・ア・タワー・クレーン・ドライバー）』ではヴォーカリストのガイの歌声にうっとりしたりと美しい場面があり。そしてヴェニュー内一斉の大合唱となった『Grounds For Divorce（グラウンズ・フォー・ディヴォース）』や、『One Day Like This（ワン・ディ・ライク・ディス）』。特に後者では紙ふぶきや風船が観客の上に落とされて大歓声が上がる。ちょっと特別だった曲は『Weather To Fly（ウェザー・トゥ・フライ）』。曲の始めにメンバーが全員キーボードの横にあったパーカッションの位置に集まり、輪になって短いアコースティック演奏のイントロつきだったのだが、その前に観客一同にグラスを上げて乾杯の音頭をとったり。

　それでもこの日特にすばらしかったのは『Some Riot（サム・ライオット）』。この曲は友人が酒によって人格が変わってしまったことを悲しむ歌なのだが、曲の1部にこのアルバムを捧げた、同郷のミュージシャンのブライアン・グランシーを意味する部分がある。ブライアンはエルボーのメンバーの親友でもあるのだが、アルバムをレコーディングしている最中に急死してしまったのだ。重く切ない歌詞のこの曲。誰もおしゃべりしていない、し～んとした中での演奏。終わったときには激しい位の拍手と大歓声が上がった。

　今時iTunesなどでアルバムの曲がバラで買える時代だが、それがあまり好きではないというエルボー。アルバムは全曲そろってひとつの作品であるという意思を持っているからなのだが、この日はそれをほぼ立証したかのようだった。特に今回はアルバム全体にブライアンをあらわす部分がそこかしこと出てきたり、レコーディング中に今の彼女との交際が始まったガイの気持ちが表されている曲もある。彼らの情緒的で正直な歌詞もさながら、喜びや悲しみなどの感情の起伏によって、アルバムを通して人生を物語るかのよう。今まで出会ったエルボーのファンの多くが、『彼らの曲は自分の心の中では特別な存在なんだ』と言う。人生は山あり谷ありなもの。そしてアルバムを通して聴くことによって、歌い手の物語が自分のものと近いことを感じ、同調するという感じだろうか。