buttonチェックポイント303
@ 我無双 (29th Aug. '08)

分離壁と検問所に囲まれた雑踏の音


checkpoint303
  キッカケは一通のメールだった。それは、今年の5月頃、スマッシング・マグに届いたものを編集長hanasanがスタッフ全員に転送したものだった。こうして転送されてくるもののほとんどが、国内外のアーティストから「今度ライブやるのでよろしく」といった内容のものであり、しかも「東京のみ」ということが多いためか、ほとんど気に留めることはない。

  ところが、このチェックポイント303(スリー・オー・スリー)の場合、「8月末に東京と札幌でライブをするかもしれない」とあった。「なにゆえ札幌?」と思いつつ、彼らのマイスペースのページを開くと、直感的に興味深い存在のように思えたため、ブックマークに残しておくことにした。

  その後、詳しい日程が明らかにされることはなく、フジ・ロックが終わり、8月になってしまった。ようやく決まった日程は葉山と東京の合計3公演。なんとかして休みを取ったものの、正直なところ、果たして、わざわざ大阪から出てくるだけのことはあるのだろうかという思いがなかったわけではない。

  今年はイスラエル建国から60年ということで、独立記念日の祝賀ムード漂う写真が海外のウェブ・ニュースをにぎわしていた。日本でもレポートされていることもあった。だが、それらをちらりと眺めるくらいはしたものの、それで終わり。「中東情勢は極めて複雑でとうてい素人には理解できないもの」と思い込んでいるため、「何がどうなってあの周辺地域がああなってしまっているのか」をわざわざ知ろうとする努力を怠ってきた。知ったところで、日々の生活の何かが変わるわけでもないだろうし。だが、あまりにも何も知らないままでライブに足を運んだとしても、それはそれであまりにも無責任だろうと思い、見聞記などを読んでみた。

checkpoint303   結果的に、どの程度知ることができたのかは分からない。まだ「理解」という段階まで達していない。むしろ頭の中が混乱してる状態だ。だが、音楽とはこうして何かを知るキッカケになるものであるが故に、どんどんいろんな方向に興味が向いてしまうのだろうと思う。チェックポイント303が世界のあちらこちらでライブを行うのも、「関心を持ってもらうキッカケであれば」という想いがあるからだということは、ライブを見ていて強く感じた。ただし、その「関心」の対象は、単にパレスチナ問題だけということでなく、ヒトが人でありえること、人権、人間の存在価値というものであり、好きな言葉をひとつ選んでほしいと尋ねたときに答えてくれた「Justice(正義)」、そして「平和」であったのではないだろうか。

  今回はチュニジア人であるSC MoChaだけの来日であったが、相方であるパレスチナ人のSC Yoshや数名のアーティストと共にバンド編成で活動することもあるという。SCはsound-catcherの略ということで、2006年にヨルダン川西岸地区を訪れた際に拾ってきた街の音、人々の声や、ウードという11弦の民族楽器の音を、エレクトロニックなビートと融合させてサウンドを作り上げている。雑踏の中の会話はアラビア語なので分からないが、同じくその場所で撮影してきた街の映像や、おそらく映画だろうと思われる映像がバックに流され、イメージが掴みやすくなっている。

  ちなみに、このSC MoChaという人物、現在はフランスのリヨン在住で、18歳までチュニジアの首都チュニスで育ち、その後はドイツ(祖父がドイツ出身)やアメリカにもいたことがあるのだそうだ。アラビア語やフランス語はもちろんのこと、ドイツ語と英語も話せる上に、スペイン語とイタリア語も少しなら分かるのだという。未知の文化や言語に対しての興味を強く持っている人にとって、日本とはさぞかし面白いものに溢れているところなのだろう。良い面も悪い面も含め、さまざまなものを貪欲に吸収していこうとするその姿勢は見習いたいものだ。

checkpoint303   彼らは自らのサウンドを「Free tunes from occupied territories」と表現している。「占領地域からの自由な楽曲」という日本語訳がつけられていたが、自由なサウンドであると同時に、彼らにはレーベルの契約があるわけでもなく、オンラインで音源を販売しているわけでもない。それらは無料で彼らのウェブサイトから落とせるようになっている。「生活」のために音楽活動を行っているのではないので、仕事をしながらの活動ということになる。洋の東西を問わず、これはなかなか大変なことのはずだ。

  この日は前座で秋福音(アキフクイン)というバンドが、これまたなかなか面白いパフォーマンスを披露していた。コーヒーを入れるという行為に付随して、さまざまな楽器やら、時には、おもちゃ、豆を炒るミルの音、お湯を注ぐ音などなど、あらゆる音を巻き込んでのライブだ。できあがったコーヒーは観客に振舞われ、それすらもパフォーマンスの一部なのである。

  そんな秋福音とチェックポイント303によるジャム・セッションでこの日のライブは幕を閉じた。だが、これはただ単に一緒に演奏するだけというものではない。先日、8月9日に亡くなった詩人、マフムード・ダルウィッシュ(Mahmoud Darwish)に追悼の意を表するためのものだ。リハーサルなしの即興演奏に、日本語に訳された彼の詩の朗読が乗せられ、SC MoChaはアラビア語で朗読を乗せる。

  1時間強のライブ。わずかな時間だったが彼から聞けたさまざまなこと。阿佐ヶ谷の駅の近くというかわいい街並みの一角にある我無双(ガムソウ)という素敵な会場の醸し出す雰囲気。やはり何事も自らの目と耳で確かめて見なければ分からないこともある。だが、こうして昨日のレポートを書いている現時点では、それらを咀嚼しただけの状態であって、まだ吸収しきれていないような気がする。それに、まだもっといろいろと聞いてみたいこともある。次回はバンド編成でそのパフォーマンスを見せてもらいたいものだ。そんな機会がやってきることを、切に願う。

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