Smashing Mag / You Waki (和気優) @ Shinjuku Club Doctor (8th Aug. '08)

　和気優という人物の存在を知ったのは昨年春のイタリアだった。ローマをホームタウンに活動する労働者階級ロックとして、すでに日本でもよく知られているバンダ・バソッティが主催するフェスティヴァル・ツアー、ストリート・ビートを取材したときにさかのぼる。

　地元イタリアのパンク・バンド、DDRにドイツのスカ・アクト、ドクター・リン・ディンとソウル・フード・インターナショナルズ・ロックステディ・レヴューに混じって一緒にツアーしたのがドレッドロックにサングラスの日本人。もちろん、これが和気優なのだが、この時点で彼が誰なのか全く正体不明だった。同行したライターからわずかばかりに得た説明によると、彼がかつてジャックナイフというバンドを率いていたとか。ライヴはアコースティック・ギター1本でステージに立つんだが、フォークなタッチは一切感じさせず、実にロック。しかも、クラッシュのカバーが飛び出すなど、なかなかパンクな人だなぁという印象だった。

　その彼が下北沢で経営しているのがチベット・チベットというバーで、あの出会いからしばらくの後、ここを訪ねている。そのときに「実は農業をやっていて、ここで出している料理の素材は自分たちで育てているんですよ」なんて話も耳にした。無農薬で米や野菜を育て、それを提供しているというのだ。食品詐欺が当たり前のようにはびこるご時世にそんなことをしながら、バーを経営して、音楽活動を続けているというのが実にユニーク。この頃から彼に対する興味がわき起こったという感じだろうか。

　その後、彼から「実は、毎年、少年院でライヴをやっているんですよ。バイクにまたがって旅しながら」という話は伺っていたのだが、その時期が最も忙しいフジロックに重なるというので、それを取材するチャンスにはいまだ巡り会えてはいない。

　そんな彼から「イタリアで撮影されたライヴ写真を気に入って...　できれば今度発表するアルバムのジャケット写真を撮影して欲しいんですけど」という流れで形になったのが、彼が44歳で発表することになったというデビュー・アルバム『ある晴れた空の下』の写真。本人曰く、「アコギでやっているんですけど、ロックですから...」というよにうに、確かにアコギのイメージにあるフォーキィーなタッチは皆無で、ギタギタに赤裸々で荒々しいロックな肌触りが伝わってくる作品だった。

　そのアルバム発表に合わせるように始まったのが、「狂い咲きの詩2008」と名付けられた今年の少年院ツアー。なんと今年は16000kmを走破したというんだが、これを始めたのは彼の同級生が殺人事件を起こしたことに起因しているという。本人によると「俺の親父はやくざで刑務所に入っていたし、俺は不良だった。そんな俺じゃなくて、なんで彼が...」という疑問があったという。が、「俺には音楽があったから」人を殺すようなことをしなかったんじゃないだろうかと思い至ったということだ。だから、音楽でなにかを伝えたかったんだろう。

　全国津々浦々、昼間は少年院や児童自立支援施設で、夜はクラブやバーで歌い続けたという、今年の行程は全16000km。銀治郎と名付けたバイクにまたがって、ギターケースを背中に乗せて走った旅の記録は、この10月11日にテレビ東京で放送されるらしいのだが、その最終地点となったのがこの日のライヴだった。

「ほんとは...　音楽の素晴らしさを教えるとか...　そんなことじゃなくて、このツアーで教えられたのは自分だったように思う」

　と、そんな言葉をつぶやきながら歌う和気優からほとばしるのは、むき出しのロック。しかも、その歌に込められているのは赤裸々な言葉の数々だ。不良や落ちこぼれ、あるいは、はみ出しものといったレッテルを貼られた人にしかわからないだろう。そんな気持ちがストレートに伝わってくる。とはいっても、その一方で、誰もがどこかで抱えているのがそんな気持ちじゃないんだろうか。だからこそ、「なんで俺じゃなくて、同級生が殺人事件を...」という疑問にもつながるのではないかと思う。

おそらく、こうやって続けているツアーによる経験が彼の歌にどんどんヴィヴィッドな生命を与えているのではないだろうかと察するが、そのインパクトはアルバムを聴くよりもライヴの方が、文字通り、生々しい。まるでデビューした頃の三上寛あたりを彷彿させるむき出しのアコギ・ロック。聴くものを否応なしに引きずり込んでしまう和気優の世界をできるだけ多くの方に体験していただきたいと思う。