マルコム・ミドルトン @ 京都アバンギルド (20th May '08)
静から動へ

アラブ・ストラップのメンバーとしてのマルコム・ミドルトンに対する印象は「静」。アラブ・ストラップが解散を発表し、バンドとして最後のツアーを行ったのは本国ではなく日本だった。京都でのライヴを観た私は、この人たち、本当に解散する気あるの? と思うほど、いつも通り、エイダン・モファットはご機嫌にアルコールも入った酔いどれのおっさんと化し、隣では表情ひとつ変えずにギターの弦に
目を落とすマルコム・ミドルトンの光景があった。解散後、早々にマルコム・ミドルトンはソロとしての活動を再開していた。リリースされるアルバムは、シニカルで時として辛らつな単語が並ぶ歌詞を最大限に打ち消すようなポップさというアンバランスが入り混じるものだった。マルコム・ミドルトンというひとりのアーティストはこんな引き出しを持っていたのかぁ。バンドとして活動している人がソロでも表現するとき、その人の裸を見てしまうようなドキドキ感がもれなくついてくる。
照れ隠しなのか、飄々としているだけなのか、ササッとステージに上がるマルコムはギターの弦の感触を確かめると、そのままギターを弾き始め、マイクに向かい始めた。おもしろいほど巧みに操られる6本の弦に、釘づけにされるまでにはコンマ数秒……。目の前では、アコースティック・ギターの6本の弦が最大限に踊っていて、太い弦は低音でベースラインを作り、細い弦では、マルコムの歌声に呼応するように、複数の楽器の要素が重なりあっていく。
1曲終わると、「ちょっとだけ日本語しゃべれるんだよ、コンバンハ……」と照れくさそうに話し出したマルコムの表情は柔らかい。英語で、さらにボソボソとしゃべるものだから、何のことをしゃべってるのか半分くらいしかわからなかったけれど、静かなマルコム、モノ言わぬマルコム像はどこへやら。1曲終わると、お客さんの反応を確かめる前に、次の曲へと移り、自分のタイミングでもう一度ワンフレーズを弾き直してみたり……セットリストなんて決まっていないんじゃないかな? と思えてくるほどだ。会話をする延長のように歌う曲もあれば、英語ではなく、アルファベット同士がぎゅっと詰まったように聞こえるフランス語みたいに思えたり。弦の上を行き来するマルコム
の指の動きと、緩急のある歌声の両方が、いつの間にか腰を下ろして観ているのがもったいないという衝動に駆られ、立ちあがってリズムに合わせてゆらゆらと身体を動かれてしまっていた。アコースティック・セットでのライヴと知って、マルコムが登場するまでは、ちょっとだけバンド・セットで観られたらよかったのに……どんなマルコムが垣間見られたのだろう? と思う節もあった。でも、見終ってみると、バンド・セットよりも静なライヴだったはずなのに、その日のライヴから得たマルコム・ミドルトンは動。マルコム自身がステージを所狭しと動いていたわけではない。特別な照明もないし、目に飛び込んでくる映像に動きはない。なのに、受けた印象は動。
最近アバンギルドでライヴを観ることが多いのだけれど、あのハコの醸し出す空気がたまらなく好きだ。私にとって、今、一番、何の余分な力も入れずに音楽を受け入れられる場所といったらいいだろうか。複数のアーティストを観られるイベントでの公演が多くて、知らないアーティストを観るチャンスにもなるし、3〜4時間、ゆっくりと音楽に浸ることができるからだ。ステージ袖とか裏という場所がないこのハコならではの登場シーンが、演奏する側、観る側の垣根をなくしてくれる。アバンギルドに来るたびに、ロンドンにあるスピッツというハコと、そこで開催されるスピッツ・フェスティヴァル・オブ・フォークというフェスティヴァルを思い浮かべる。このフェスティヴァルは1ヵ月間ほどを通してフォーク、カントリー、ブルースなんかのアーティストが日替わりで登場して、名前も知らない人たちから、あんな小さなハコでバート・ヤンシュなんていうなかなかお目にかかることのできないアーティストまでが出演したりしている。そういうものが、ここ、アバンギルドでも観られる日が来るといいのになぁ、と切に思う。
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The featured photos were taken by izumikuma @ Shibuya O-Nest on the 18th of May.
reviewd by kuniko and photos by izumikuma
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mag files : Malcolm Middleton
静から動へ : (08/05/20 @ Kyoto UrBANGUILD) : review by kuniko
photo report : (08/05/18 @ Shibuya O-Nest) : photos by izumikuma
photo report : (07/08/19 @ The Green Man Festival, Wales, UK) : photos by izumikuma
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