Smashing Mag / Banda Bassotti (バンダ・バソッティ) @ Kottbusser Tor, Berlin (1st May '08)

　すでにスマッシング・マグを定期的にチェックされている方だったら、おそらく、バンダ・バソッティのことはご存知だと思う。初めて彼らを取材したのは2001年の12月、スペインのバスクとカタロニアで、あのときの衝撃があまりにも大きかった。まるでバンドをカラオケにでもして、オーディエンスが最初から最後まで大声を張り上げて歌う、その光景が、あれ以来、彼らを取材し続けるに充分なインパクトを持っていた。

　そんな流れで、その翌年からストリート・ビート・フェスティヴァルの名の下に、毎年春に開催される彼らのツアー取材を続けていると言っていいだろう。このツアーには日本のミュージシャンが参加していることでも知られ、2002年はブラフマン、03年にはモンゴル800やルード・ボーンズにドーベルマンが参加。日本のバンドがヨーロッパへ進出するのを手助けしたり、すでにフジ・ロックへも2回出演するなど、日本との接点も実に大きいのが彼らだ。前作となる"Vecchi Cani Bastardi（ヴェッキ・カーニ・バスタルディ）"では真正面から「フジ・ロック」を歌った曲も録音され、いつかフジ・ロックでこの曲が演奏されるのを心待ちにしているファンも多いと思う。

　そのバンダ・バソッティが自らを「オリジナル・ワーキング・クラス」と呼ぶのは、彼らの音楽の視点が常に普通の労働者、一般市民に立っているからに他ならない。彼らの歌は虐げられた普通の民の声なのだ。だからこそ、必死になって共に歌うオーディエンスがいる。スペインからの独立を求めるバスクからカタロニア、ガリシアといった地域の人々の声を届け、パレスチナ問題を唄い、市民運動の集会などでの演奏も多い。今回のベルリンでのライヴも、労働者の祭典、メーデーのイヴェントの一環で、コットブッサー・トアと呼ばれる地下鉄の駅のそばの一角に大型トラックの荷台をステージとして彼らが演奏してた。日本ではなかなかこういった光景にはお目にかかれないかもしれないが、ヨーロッパではごく一般的で、そういった場所に登場するバンドにも数多い。おそらく、日本では「政治」が文化から切り離されているから奇異に映るんだろうが、それは世界ではマイノリティなのだ。好むと好まざるとに関わらず、誰もが政治と経済と文化のなかで生きている。だからこそそれを真正面から受け入れて、前向きに対峙していく必要がある。そんなところで活動を続ける無数の音楽家たちにヨーロッパでは幾度も出会っているし、そんな事実を伝えていかなければいけないと思うのだ。

　また、彼らの仲間も面白い。ベルリンで彼らをサポートし続けるのは、最も人気のあるイタリアン・レストランのオーナーで、彼の店で最も成功しているのがI due Forniと呼ばれるもの。そこで働く人々のほぼ全てがパンク系のTシャツを着て店のなかを走り回り、ベルリンに来た仲間のミュージシャンたちが必ずここを訪ねている。もうすぐ来日するザ・スラッカーズから、日本ではお馴染みのフロッギング・モリーなど、そんなミュージシャンのらくがきが店の壁にみつかるのだが、ミュージシャンたちがここをまるで自分の家のようにして食事している様が実にほほえましかった。

　例年であれば、日本からローマに飛んで、バンダ・バソッティに合流。恒例のザ・ストリート・ビート・フェスティヴァルのツアーに入っていたはずだ。が、今年はそのフェスティヴァルがローマでしか開かれなかったのが実に残念だ。なんでもイタリアの政権が右寄りになって、目の上のたんこぶとも思える政治的なミュージシャンに大きな圧力が加えられ始めているというのだ。スペインでは「バンダ・バソッティがバスク独立を目指す武装集団を支持している」という噂によって、演奏を禁止されたり...　それが理由でスペイン・ツアーが中止に追い込まれている。当然ながら、彼らの武器は音楽であり、彼らがテロリストを支持したことはない。それでも、彼らを支持するスペインの人たちが彼らを招聘して、ライヴが実現しているというのが嬉しい。

　コンバット・ロック？　と、そんな呼び名も付けられているのがヨーロッパのラディカルなバンドの数々。彼らの"Revolution Rock（革命ロック）"の火は、そう簡単に消せるものではない。今回のヨーロッパ取材でもそれを再確認できたように思う。

　ちなみに、バンダ・バソッティは"Vecchi Cani Bastardi（ヴェッキ・カーニ・バスタルディ）"に続く新作、"Viento Lucha y Sol"を発表。これまでは輸入盤でさえ入手が難しかったんだが、このアルバムはiTunesでの購入が可能となっているのが嬉しい。