ア・ハンドレッド・バーズ・オーケストラ @ 渋谷オーイースト (29th Feb. '08)
あなたを楽しませるためだけの120分
昨年10周年を迎えたア・ハンドレッド・バーズ・オーケストラ(以下AHB)、彼らの恒例となりつつある2月末の大阪・東京公演。メンバー数は計32人、その数字だけでもう圧巻だ。開演前のO-EASTのフロアに立ち、片隅でDJプレイが行われているステージ上に目を向けると、ずらりと並んだマイクスタンドや譜面台がすでに迫力がある。この大所帯で何をしてくれるのかというと、単に我々を踊らせるという、たったそれだけのことをやるのだ。
19時半の開場からおよそ1時間、ハウスクラシックを中心に繋いで場を暖め、そのDJが繋いできたキックをそのまま生演奏で繋ぐという離れ技でもって、めくるめくオーケストラの幕が開く。
黒一色で包まれた演奏メンバーのグルーヴが、今宵のパーティの開催をそのビートでもって告げる。まずは"Love & Happiness"でボーカル・TeNの伸びやかな声を高いO-EASTの高い天井やフロア一帯にまで響かせていく。そこへまたストリングスが波のように押し寄せ、TeNはさらにその上に声を重ねていく。そのやり取りをしっかりとリズム隊が構えて、目を回さぬようにしてくれている……これこそまさに、大人数の成せる音である。
声の伸び、パーカッションの心地よさ……時間が経てば経つほど注目のポイントが浮き上がるが、それにいちいち反応していてはビートに置き去りにされてしまう。何しろ、彼らの演奏に曲間など無いからだ。
巧みにメインパートをバトンタッチしながらも、アウトプットしているのはあくまで数珠繋ぎのビートであり、ダンス・ミュージックである。"Dance With Me"では、前列のホーンセクションが中央を開け、その間隙から後列のコーラス隊が振り付けを交えて声を織り成していく。視覚と、何より聴覚とを存分に刺激し、その結果生まれるオーディエンスの歓喜の声ですら今宵の"オカズ"。鳴り止むことを知らないハンドレッドバーズ楽団とたくさんのオーディエンスが1 つのかたまりとなっている。その音が続く限り、会場のすべてがひとつのライブ・アクトだ。
ミラーボール映えするきらびやかさで楽しませるStellaと、月夜の宴の風情を思わせるTeNという2人のボーカルが入れ替わりに場を盛り上げたかと思えば、その技巧だけで会場の波を掌握するバイオリンが響き渡る個性を経て、ピークを迎えたのはショウの中盤〜後半。ステージ上の大人数が、まさに一丸となって盛り上げに徹してきたと思わんばかりに、彼らの定番曲"Rej"や"Jaguar"をしかけてきた。だが、それは曲自体の盛り上がりというよりも、むしろ一連の流れに身を任せた我々が、しびれを切らしたところをたまたま高揚に適したグルーヴに乗っかっただけ、とも言える。
終盤に向かうにつれ、いつしか夜明けのような、明るい照明の似合う歌モノが展開されていく。時計を見れば「もうこんなに」と思うほどで、夢中であった自分自身と、「終わりのないものなんてない」というかなり残酷な事実とを受け止めながら、僕らオーディエンスはフィナーレに向かって体を歓びにひたしていく。
アンコールは”In The Sky”、そして”Love is the Message”。1日の片隅を享楽で埋め尽くされてもまだもう一声ほしくなるくらいの余韻を適度に残し、ハンドレッドバーズの至福は幕を閉じた。
ニールヤング御大いわく、「音楽で世界を変えられた時代は終わった」のだそうだ。反戦コンサートツアーを通じてそういう考えに至ったらしい(出典:AFP)。
僕は思わずニヤリとなった。いよいよ音楽というやつが、思想活動や社会情勢にコミットする必要がなくなり、純粋に楽しむためのものという役割に専念できそうだ。音楽本来のはたらきは、人びとの笑顔を創ることにだけ活躍すればいいと思う。そう、例えばこの夜のように。
-- set list - -
Love & Happiness / Orientafro / JINGO / DANCE / Dance With Me / Davai Raskrasim Noch / The Sun That Shine / San Salvador / Rej / I wanna... / Jaguar / Perpetuum Mobile / Fade / Batonga / Love & Happiness
-- encore --
In The Sky / Love is the Message
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report by ryoji and photos by sam
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