ボイコット @ 渋谷ギガ・アンティック (26th Feb. '08)
全てを平等に
地球の自転に逆らう長旅のせいなんだろう、とんでもない時差ボケと風邪を患いながら3本のライブをこなし、いよいよ天王山ともいえる「フリー・パンク・パーティ」と題されたイベントのトリで登場するボイコット。「毎回来てるぜ!」とでもいいたげなパンクス達は、果たしてスペインからのスペシャル・ゲストを見てどう思うのか? もちろん、微塵も不安はなかったけれども、興味深いところだ。
今回はDJブースも特別に用意され、基本はロック・ラティーノを流すDJ陣も、トロージャンを生やす溌剌とした若いパンクスのためにと趣向を変えたんだろう、ペニー・ワイズの"スタンド・バイ・ミー"なんてキラー・チューンを用意していた。もちろんボイコットの登場前にはきっちりといつものスタイルに戻しているが、反則な90年代の西海岸パンクが投下されたことで、おそらく彼らにとっては初遭遇かもしれないカラフルな色彩を放つラテン圏のパンクになだれ込んでも、オーディエンスの勢いは天井知らずのままだ。もっとも、ウチらとしては踊るか騒ぐかして、チケ代に費やすお金をまるごと酒に換えれるのだから、これほど「おいしい」ことはない。
4人にのしかかっていた疲れは、オーディエンスの暴れっぷりを目の当たりにしたことによって、どこかへ消えたようだ。それぞれが位置につき、ドラムスのグラスはヘッドホンを装着してちょこちょことDATをいじる。飛行機のエンジン音と爆撃音、子供のハミングそのた諸々をミックスしたトラックが流れ、リード・ギターのコスタがガンズ・アンド・ローゼスの"スゥィート・チャイルド・オー・マイン"のリフで腕ならし。リズム・ギターのアルベルトはフロアの様子をうかがい、ベースのファン・カルロスは「ファッキン・ブッシュ!」と声を荒げる。いよいよだ。
フラメンコのような手拍子から始まり、一気にスカ調に流れ込むと、僕らの足はせわしなく動き始める。横に揺れるモンキー・ダンスなどやってられないくらいの縦ノリで、横に振ろうかと思った腕は上へと突きあげられて、ピョンピョンと飛び跳ねることとなる。言葉の代わりに表情と動きでフォローしパンクの神髄を見せつける。それでいてコスタの見せ所がハードロックやメタルの影響を受けた速弾き。メジャーなジャンルの掛け合わせで、厚みを増していく。それだけではなく、どこからネタを引っぱってくるのかわからないところもボイコットの醍醐味だ。
バルカンではポピュラーな歌謡曲である"カラシニコフ"(注1)のカバーで"スカラシニコフ"。単純にスカとカラシニコフの語呂合わせだ。東欧独特の音階を昇り降りしつつ、リズムの急な切り返しも力強い推進力で突破して、懐の深さを見せつける。ボイコットが言葉で繋がる南米ではなく、東欧などエキゾチックな地域へと独自の道を切り開いていけるのは、ロマ(ジプシー)の家庭に生まれたコスタの影響がある。例えば、南米の難民がスペインへと渡るために頼った思想家で、ラモン・チャオという人物がいる。勘のいい人なら、その風変わりな名前にピンときたはずだ。ラモンの息子がマヌ・チャオ。文化や政治の+×÷(注2)を見続けたマヌが作品を残せば、自然と中南米の要素が入りこんでくる。同様に、コスタが自信のルーツをひも解くだけで、様々なバルカンの文化がボイコットに流れ込むのは想像に難くない。
「ボスニア!」と叫んだあとに、とんがった調子でアレンジした"アスタ・シエンプレ"を、ラテン世界で絶大な影響力を持つ故チェ・ゲバラの烈しさをぶつけてくる。実はこれ、反逆の象徴として歌われる代表的な曲であり、バンドが歌わなくてもオーディエンスがフルコーラスを歌ってしまう名曲。カバーだけでもかなりの数にのぼり(注3)、大半のアルバムにゲバラのイラストがデザインされ、ストリートの代弁者でもあるボイコットにとっては、オリジナルではないけれども象徴と言える曲なのだ。学芸大学メイプル・ハウスとこの日と最前列を確保したスペインの女の子は目を見開き、今にも誰かれに襲いかからんばかりの形相で叫んでいたのが印象的だ。かたや日本人は、意味や曲そのものも知らない人が大半なのだろうが「チェ・ゲバラ!」のシャウトをとらえ、一緒になって歌ってしまうほどの凄まじさがある。この時点でゲバラとはいったい何なのか、誰なのかわからなくても良いと思うが、彼女の雰囲気から「何か」は感じたはずだろう。その先を知ろうとすれば、必ず世界やニュースの見えかたが変わってくるはずだ。
そういった小難しい政治の話を抜きにしても、ラテン世界は身近な存在だったりする。向こうのアーティストが得意とする「文化がわやくちゃになった音楽」は、全く新しいジャンル、またはきっかけがなく入り込みにくいものとしてとられがちだが、実は演歌もラテンの流れを汲んでいたりするし、必殺シリーズのBGMなんてもろ。日本人に合っている気がするのだ。壁を作っているのは、僕ら日本人なんだろうな、と気づいたところで、ふとフェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイド@ヴィーニャ・ロックの幕開けが、梶芽衣子の"怨み節"だったことを思い出した。向こうはやってくる文化に対して新旧問わず、扉を開け放すことで、また新たな「文化」を生み出しているのだ。
(注1)旧ソ連製の自動小銃の名前。世界で一番出回っていて、ゲリラが使うのは大概これ。
(注2)偶然にも、犬式 a.k.a. ドギースタイルが中心となってぶっかますイベント名と同じになった。マイナスはないと思っただけなのだが、ヴォーカル三宅洋平氏がトドス・トゥス・ムエルトスに影響されたと語っている以上、ひょっとしたら偶然ではないのかも……とか思ったり。
(注3)ここにアクセスすれば、ゲバラ関連の曲がリストにされていて試聴もできます。上のほうに「Grupo Boikot」とあり、もちろん今回とりあげた彼らのこと。「グルーポ」は「グループ」のスペイン語で、しばしばバンドを指す意味でも使われます。
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