ビョーク@ 日本武道館 (19th Feb '08)
完璧とは何か?

このレポートを書く機会を与えられて幸せだということを強く感じたライヴだった。古い楽器と新しい楽器、デジタルとアナログ、実験性と大衆性、優しさと凶暴さ、いろんなものがこのライヴの中に包まれていたのだ。
地下鉄の九段下の駅を降りて、エスカレーターで地上に出る。牛ヶ淵を眺めながら人込みと共に、江戸時代から残る田安門へ。この重厚な門をくぐるとテンションが上がってくる。武道館の中に入ると、沖縄音楽が場内に流れている。なんかほのぼのした空気だ。アリーナはすでに埋まっていて、1階席、2階席も北東・北西のところまでお客さんが入っている。ステージを300度くらいぐるっと囲む形だ。ステージには魚やカエル、ワニ、鳥が描かれた大きなペナント風の布が下がっている。
場内が暗転してカラフルな衣装のブラス・ガールズがそれぞれの金管楽器を演奏しながら現れる。他の演奏者たちもポジションにつき、そして、ビョークが登場した。レインボーカラーのドレスを身に纏っている。"Earth Intruders"を歌いだしたビョークは、電子音と生の楽器の中を泳ぎ回るように自由に歌う。そのヴォーカリストとしての素晴らしさは、いまさら言うまでもない。それ以上に、目の前にある巨大な才能に圧倒される思いだ。照明がセットが演出が楽器が演奏者たち全てはビョークの表現の中にあり、ひとつも無駄なくステージにある。観ている側は、ただビョークの動きをじっと凝視し、ひれ伏し感情が決壊して目に涙を浮かべるのだ。
ビョークは、曲が終わるたびにキュートな声で「アリガト」と挨拶し、マイクスタンドの下に置いてある容器から何物かをスプーンですくって舐めるという仕草のひとつひとつが可愛い。だけど、歌いだすと凶暴なノイズまみれてシャウトしたり、ハープシコードだけをバックに優しく歌ったりと、可愛さ、不気味さ、激しさ、優しさという音楽の持つすべての面をひとつのステージでみせてくれるのだ。簡単に人が勝手に作った枠にはおさまりきれないスケールの大きさを感じた。
いきなり炎がボワっとステージ脇から吹き出し、レーザー光線が宙を舞い、最後には大量の紙ふぶきが撒かれるという演出もすさまじくて見事だけど、この日、注目を浴びたのは、新しい電子楽器だろう。カオスパッドの進化形という感じのYMAHA Tenori-Onや、テーブルの上でブロックを動かすことによって音を出すReactableは物珍しくて新鮮だ。ステージにある3台の液晶モニターはそれらの楽器の手元を映し出し、どのような操作で音が出ているのかを伝えてくれた。新しいライヴのあり方をみせてくれるようだ。
この日演奏された曲は、すべてが素晴らしいのだけど、やっぱりハイライトになったのは、"Hyper-Ballad"から"Pluto"への流れだろう。"Hyper-Ballad"の後半は、今まで体験したエレクトロニカのライヴの中で最高の瞬間だった。電子音の洪水の中、ビョークが舞い踊り、総立ちのアリーナは大盛り上がりでそれに応える。続く"Pluto"では、ブラス・ガールズたちがステージ中央のビョークを取り囲み楽器を吹き鳴らし、踊る。その様子は部族の儀式のようでもあった。これで本編が終了。当然アンコールを求める声と手拍子が大きい。
そして、アンコール。最後の最後は"Declare Independence"。激しい電子音が襲い掛かり、熱狂の中「ハイヤー、ハイヤー」と、ステージと客席のコール&レスポンスが起きた。強烈な印象を残してライヴを締めくくったのである。ライヴが終わり、田安門を出ると、九段下の交差点の一角にあるビル屋上に設置されたアウディの広告に「完璧とは何か?」と書いてあるのが目に入った。完璧とは何か。その答えを先ほどまで体験していたのだ。
-- setlist --
Brennið þið Vitar / Earth Intruders / Hunter / Aurora / All Is Full of Love / Pagan Poetry / Unravel / Vertebrae By Vertebrae / Joga / Desired Constellation / Army of Me / I Miss You / 5 Years / Vokuro / Wanderlust / Hyper-Ballad / Pluto encore Oceania / Declare Independence
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report by nob and photos by izumikuma
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mag files : Björk
photo report : (08/02/25 @ Osaka Jo Hall) : photos by ikesan
Estrogenic : (08/02/22 @ Nippon Budokan) : review by jeff, photos by naoaki
photo report : (08/02/22 @ Nippon Budokan) : photos by naoaki
Traduction francaise suivra : (08/02/19 @ Nippon Budokan) : review by seb, photos by izumikuma
Diva in Town : (08/02/19 @ Nippon Budokan) : review by seb, photos by izumikuma
完璧とは何か? : (08/02/19 @ Nippon Budokan) : review by nob, photos by izumikuma
photo report : (08/02/19 @ Nippon Budokan) : photos by izumikuma
Out Of This World : (08/02/16 @ Olympic Hall, Seoul) : review by shawn,photos by hanasan
ビョークがビョークである所以 : (07/06/22 @ Glastonbury Festival, Pilton) : review by kaori, photos by yusuke
photo report : (07/06/22 @ Glastonbury Festival, Pilton) : photos by ryota
photo report : (07/06/22 @ Glastonbury Festival, Pilton) : photos by yusuke
21世紀の発明家か : (01/12/02 @ meiwajyoshi university) : report by nishioka , photos by hanasan
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