buttonハンバート・ハンバート
@ 渋谷デュオ・ミュージック・エクスチェンジ (25th Jan. '08)

育まれた、ふたりの音

Humbert Humbert
 古き良きフォークの音色を21世紀の日本に届けてくれるデュオ、ハンバート・ハンバート。今回のライブは、ワンマンでは初となる渋谷デュオが会場である。天井が高い関係もあって、前公演のクアトロよりひとつキャパを広げたという印象だが、椅子は全て人で埋まり、その後方を人が囲むという十分な入りという様子だ。

 が、そんな会場の様子とは異なり、ステージ上は実にシンプル。イス、小さなテーブル、立てかけられたギターやフィドル(ヴァイオリン)と、主だったものはそれくらいで、装飾なども特に… という素朴さである。ほかのメンバーが出てくる気配も無さそうだ。

Humbert Humbert 開演時間、拍手、そして一寸の静寂からの始まり。フィドルの弦が震え、そこへビブラートのかかった声が寄り添ってひとつの音となり、さらにそこへもうひとつ声がかぶさる。佐藤良成と、佐野遊穂。そのふたりでしか味わわせてくれない音は、"喪に服すとき"から始まった。もともと他の音に頼ることの少ないその曲からのスタートが、今夜のメニューをステージ・セット以上に観客へ伝える。続く"アメリカの恋人"も、本来の明るい曲調を最小限の音数で織り成したことで、やさしさが備わっていた。

 このようにバンド・セットとは違った味わいを見せる夜だが、そこに浸る傍らで、ファンはある特別な想いをステージに馳せていたに違いない。昨年末のオフィシャルサイトで「しばらく産休に入りまーす! サンキュー!」という一文による、あっけらかんとした大ニュースがファンを驚かせ、その日もMCで7ヶ月半であることを佐野は発表していた。おお、歌う妊婦…! などという見方は下世話であるのだけれど、新しい生命を宿した身体で歌う姿に、いつもとは違う感動があった。

 そういった目線も交えてステージを見ると、次第にハンバート・ハンバートの魅力に気付かされてくる。ギターの弦がかき鳴らされるのを見つめる佐野の姿、瞳を合わせずとも重なる音の自然… そうして生まれ、醸し出される雰囲気やたたずまいこそがハンバート・ハンバートそのものであり、音はその要素のひとつでしかないのかもしれないと感じてしまうのだ。

 事実、彼らによって演奏される既発曲はコーラスなどがさらにハーモナイズされるなどして、彼らの中で「育って」いることを肌で感じ、新曲たちにいたっては、未発売であることも忘れてやたらと自然に馴染んで聴こえた。チャート常連のポップスを否定する気持ちはさらさらないけれど、マーケティングに基づいて敷かれた赤じゅうたんをノシノシと練り歩くような曲と、彼らによって発せられる歌は、音楽という同じ括りでありながらもまるで別物だ。こうして生まれるものもあるのかと、改めて彼らの音に親しみを覚え、気付けば少し目も潤む。

Humbert Humbert この日演奏された彼らの「新曲」について。8月頃を予定しているというアルバムにも多く収録されるであろう彼らの楽曲は、社会の中の「暮らし」がテーマとなっているようだ。「このごくつぶし」と相手をたしなめる"荒神さま"、以前の公演で「せちがらいシリーズ」のうちの1曲などと言っていた、売れてしまったミュージシャンの空虚を歌う"透明人間"などを聴いてそう感じた。ほかにも"街の灯"で純朴な太郎君とあばずれ病気持ちの女性との恋を、"大宴会"で去り行く人の視点で葬式をそれぞれ明るく歌い、中にはアットマークとかマニフェストという言葉に異を唱える"国語"という「正統派」フォークもあったりするなど、新曲は従来の楽曲よりも生活者の目線で書かれている。また、2人ボーカルだからこその交互で歌う、本編ラストの"メッセージ"は楽器がエレキギターともあって、ひときわ声量も出ていた。

 アンコールはまず本公演のタイトル"おいらの船"から。それまで黒い幕に覆われていたステージ背面から布が取れると、そこには大きなクジラのパネルが出てきた。漂うように揺れるくじらの前で、浪々と手拍子と相性のいいリズムがかき鳴らされる。曲はそのままピーター・ポール&マリーの"If I had a hammer(イフ・アイ・ハド・ア・ハンマー)"へと繋がり、アンコールにふさわしいアップテンポの連続となった。最後に演奏された"旅の終わり"は、佐野の笛が少々危なげな箇所もあったが、まあご愛嬌といったところだろう。

 最小限の編成によって21曲を歌った本公演は、彼ら自身の自然体が多いに活躍し、全21曲をただ「いい曲を聴いた」に留まらない最良の形で聴かせてくれた。残すは野弧禅との東京公演、そして京都・大阪の単独公演と、残すところ3つ。それを逃せば産休明けの夏までお預けということで非常に残念ではあるが、その間はこの日の思い出に浸ることで我慢もできよう。


-- set list - -(原文ママ)

喪に服すとき / アメリカの恋人 / 荒神さま / 怪物 / 日が落ちるまで / 白夜 / おなじ話 / どこまでも一緒よ / 透明人間

-- break --

長いこと待っていたんだ / 街の灯 / 大宴会 / 願い / 天井 / (新曲:タイトル未定) / 国語 / バビロン / メッセージ

-- encore --

おいらの船〜If I had a hammer(Peter Paul and Mary) / 旅の終わり
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