buttonスフィアン・スティーヴンス @ 心斎橋クラブクアトロ (21st Jan '08)

狼少年が描く世界


Sufjan Stevens
 戦隊系コスチュームを身にまとった6人がステージに現れると、厳かなムードでどっぷりとした演奏が始まった。曲の終盤、すべての楽器の音がやむと、しばらくしてマイクからかすかに、ふぅ、というスフィアンの息づかいだけが聞こえてきた。オーディエンスが固唾を飲んで次の一手を見守っていると、グランドピアノの鍵盤から少し視線を外し、ニコッと微笑んだ。この瞬間、ステージの6人と、オーディエンスの初対面による緊張の糸がぷっつりと途切れ、ただただ笑顔に包まれる空間となった。その後、UFO、専属通訳ヒデアキ、NASA、フラフープの達人、サマーキャンプの罰ゲーム、といったキーワードによって、爆笑の渦を巻き起こすまで時間はかからなかった。さて、スフィアン・スティーヴンス劇場のはじまり、はじまり。ライヴでこんなに笑うことってあるのか? と思うほど、笑った、笑った。

Sufjan Stevens スフィアン・スティーヴンスを天才とか孤高なんて言葉で形容したのはだあれ? スフィアン・スティーヴンスがこんなに楽しいやんちゃ坊主だということを教えてくれなかったのは一体誰、誰? 確かに彼の頭に描かれるファンタジーにも近い世界観をそのまま音にしている凄さはあるけれど、そんな眉間にしわを寄せたり、腕組みをしたり、ちょっと賢ぶって聴いてしまうような音楽では一切ない。彼らのアルバムのタイトル、『グリーティングス・フロム・ミシガン』そのままに、今宵、スフィアン・スティーヴンスご一行様は、デトロイトに産まれ、北部ミシガンの小さな小さな町での、どこまでが本当なのかアヤシい物語と、とっておきのハーモニーで、スフィアン・スティーヴンスができたんだよという歴史を織り交ぜて、初めて降りたつ日本にあいさつしに来てくれたのだった。

Sufjan Stevens 同じ弦楽器であれ、バンジョーは格別の音を奏でてくれる。ギターのような素直な音ではなく、クセのある折れ曲がったような音を出すこの楽器は、目には見えない音が出る構造をも見たいと思わされるほどの魅力がある。そこに、ベース、やオルガン、ピアノに硬い音を出すサックスやクラリネット、逆に丸い曲線を描くホルンまでもが加わってくるのだから、もう純粋に楽しいったら! 曲の合間には、狼少年はこうやって人を信じさせていくのだと確信させてくれるような、スフィアン少年伝記をつらつらと語ってくれる。その物語のひとつひとつが次の曲のテーマや背景であるのだから、曲が演奏されるとともに、しんしんと積もる雪の町や、お祭り好きな小さな田舎街という情景をステージとは別に描かせていくのだった。そう、彼らが描く世界とは、私たちの脳みそからかけ離れた次元のものではなく、ごくごく同じ目線の高さで経験してきた何でもないことなのだ。もうライヴ中盤あたりになると、他のメンバーにやれやれまた?……なんて表情をさらながらも、スフィアン少年は饒舌になる一方で、オーディエンスも、話の真偽なんてどうでもよくて、ストーリーの結末はさてどうする? なんて調子でくすくす笑っているほどだった。

Sufjan Stevens 1人のスタッフがステージのメンバーに届けモノをしに来た。そう、スフィアン・スティーヴンスの大切な身体の一部、羽根だ。羽根を得た彼らはまさに、求愛するために群がってきた色鮮やかな蝶々のようで、自分の魅力を最大限に誇示するように、折り重なっていった。そんな彼らには、私には見えない触覚も手にしたのだろうか? 触覚で音のニオイを嗅ぎ取っては、じゃあこの手はどうだね? とご自慢の楽器で、ご自慢のフレーズを最後まで惜しむことなく披露してくれた。

 今回は6人だけのステージとなっていたが、本国なんかでは、大掛かりなオーケストラをバックに、もっとたくさんのフラフープの達人もゲスト出演したり、もっとたくさんの羽根がはばたくこともある。今回のライヴには大満足で不満のかけらもないけれど、そんなスペシャルなスフィアン・スティーヴンスも観てみたい。
Sufjan Stevens



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