ハンバート・ハンバート @ 渋谷クラブクアトロ (26th Nov. '07)
歌声はすべてを優しく包む
友人から「最近お薦めのアーティストいる?」なんて聞かれることがある。そんな時はその人の音楽の嗜好を手がかりに自分の引き出しの中を検索してみるのだけれど、このハンバート・ハンバートだけは個人の嗜好を問うことなく皆に薦めてきた。小難しい理由なんて必要ない。ただ純粋に「良い」音楽。人間が生来持つ音楽欲を満たすような音楽。そう思えるのがハンバート・ハンバートの音楽だから。
ハンバート・ハンバートの楽曲はアイリッシュ・トラッドやカントリー・ミュージックをベースにしたフォーク・ミュージック……などと表現されるが、私は彼らの音楽に世代を超えて歌い継がれる日本の童謡のような、揺ぎ無さと懐かしさを感じる。ハンバート・ハンバートの楽曲は田舎の田園風景、夕暮れ時の海辺、家族で過ごす生活の1コマなど、日本のあらゆる情景に驚くほど自然に溶け込む。そんなわけで、気がつけば自分でも「よくもまぁ飽きないものだなぁ」と思うほど、彼らの音楽を繰り返し繰り返し聴いている。こんなにも聴く場を選ばない音楽はそうない。さらに言うと、こんなにも聴く者の心理状態を選ばない音楽もない。嬉しい気分のときも、悲しい気分のときも、どんな気分であっても、ハンバート・ハンバートの楽曲は自然と心に染み入ってくる。いつも傍においておきたくなる。そんな音楽なのだ。
こんなにもハンバート・ハンバートの音楽が聴く人や場所や心理状態を選ばない理由はどこにあるのだろう? 今回のライブで、私はその答えを見つけたような気がした。
映画『包帯クラブ』のサウンド・トラックを手がけ、メディア露出が増えた効果もあるのだろうか。椅子が並べられた会場には立ち見の客が溢れ、満員御礼。年齢層もフォーク世代と言われる50代から20代の若者までと、幅広い。観客の中には、中川五郎や友部正人、今野英明など大御所アーティストの姿もちらほら見受けられた。
「夜明け丸」と題された今回のライブはそのタイトル通り、彼らの最新シングルである「夜明け」で幕を開けた。イベントでは佐野遊穂と佐藤良成だけのシンプルな編成のことが多いが、今回はスチールギター、ドラムス、ベース、キーボードのサポートメンバーを加えたバンド編成。また、セットリストの半分以上がCD未収録の新曲で構成されていた。新曲に目立ったのは、何と言っても歌詞の変化。かつて「たくさんの人が僕らの うたう歌を聴きに来る 子どもの頃からの夢は まさに始まったばかり」と歌っていた青年は、(ひょんなことから歌が売れて急にお金が入ったら突然皆が優しくなって)「むなしい むなしい 本当の僕が消えてゆく」と歌う。この歌詞が佐藤良成の現在の心境をそのまま表したものなのかは本人に確認してみないことには分からないが、やけにリアルに響いた。ハンバート・ハンバートを取り囲む環境が少しずつ、そして確実に変化していく中で、何ら感じているところはあるのだろう。他にも、俺が働いて得た金で飯食ってお礼もいえねぇのか!と怒りを吐露した歌や、病気持ちのあばずれ娘に恋をした太郎君の歌など、以前にも増してピリ辛でシュールな歌詞世界を展開していた。
ただ、そんな辛辣な歌詞を歌いながらも、デビュー当時のこっこを聴くときに感じるような心苦しさを聴く手に与えないところが、ハンバート・ハンバートの不思議な魅力だ。それは佐野遊穂と佐藤良成の歌声が持つ柔らかさや、二人が醸し出すほんわかとした雰囲気によるものなのだろう。そう、不思議な間合いで繰り広げられる二人のチグハグトークも、ハンバート・ハンバートのライブの魅力の1つだ。「そのマント、着たままでいるんですか?」「そうですね~」「弾きづらいですよね? てっきり脱ぐんだと思ってました」なんて他愛もない会話がピリ辛ソングの合間に不思議なテンポで繰り広げるものだから、気分がほっこりしてしまう。
そしてハンバート・ハンバートの最大の魅力といえば、やはり佐野遊穂と佐藤良成の歌声だろう。佐野遊穂がライブ後編1曲目に「ひなぎく」をアカペラで歌ったとき、一瞬にして全身に鳥肌が立つのを感じた。今湧きでたばかりの水のようにどこまでも澄んだ彼女の歌声は、私の身体にすっと染み込んできた。そして普段の生活の中で知らぬ間に作っていた傷をそっと治してくれる、そんな風に思えるほど、暖かすぎる歌声。人との別れという悲しい事実を歌っているのに、優しすぎる歌声。白いワンピースに身を包み、まっすぐと前を見て歌う姿は凛として、なんだかとても強く見えた。
そして「日が落ちるまで」から続いた「おかえりなさい」。この曲は佐藤良成の歌声の魅力が最も発揮されている楽曲だと、個人的に思っている。「おかえりなさい」という言葉にはふたつの意味がある。自分の元へ相手を迎え入れる「おかえりなさい」。そして相手を元の場所へと送り返す「おかえりなさい」。そんなふたつの「おかえりなさい」を歌う悲しくも強い女性の心を、敢えて男性である佐藤良成が憂いを含んだ湿り気のある歌声で歌う。ラストにははかなげな佐野遊穂の歌声が重なる。珠玉の音楽とはこういうものを言うのだろう、と思った。
本編ラストに歌われたのは「大宴会~Cherokee Shuffle」。大宴会だなんて、どこかののんべえ達のことを歌った曲なのかと思うかもしれないが、この曲の舞台になっているのは実は葬式。自分の葬式に懐かしい面々が集まるのを見て、「歌え 踊れ 今日は葬式」と陽気に歌う。それでいて最後は「朝になって皆眠れば 僕はそっといくのさ」とちょっぴり切ない。哀楽が入り混じった、複雑な心模様。あぁ、人生ってきっとそんなもの。あぁ、人間ってきっとそんな生き物。一義的な感情には定まらないものなんだろう。嬉しかったり、悲しかったり。つらかったり、楽しかったり。ハンバート・ハンバートの音楽は、そんなせわしないもの達をすべて優しく包み込んでくれる。この包容力こそ、彼らの音楽が聴く人や場所や感情を選ばない所以なのかもしれない。そう私は感じたのだ。「おなじ話」を聴きながら涙を流していた女性は、アンコールの「おいらの船」では吹っ切れたような笑顔で手を叩いていたのだから。
-- setlist --
夜明け / 透明人間 / 枯れ枝 / 怪物 / 出来心 / 荒神さま / ノアの方舟 / はつ恋
-- 休憩 --
ひなぎく / 街の灯 / おなじ話 / 最後の一葉 / 静かな家 / 日が落ちるまで / おかえりなさい / 国語 / 大宴会〜Cherokee Shuffle
-- encore --
おいらの船
-- encore --
メッセージ
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report by philine and photos by yusuke
ハンバート・ハンバート 佐野遊穂、佐藤良成ライブスケジュール
2007/12/13(thu)下北沢 ラ・カーニャ(佐藤良成ソロ)
2007/12/16(sun)金沢文庫 RAGBAG(佐藤良成ソロ)
2007/12/19(tue)お茶の水 Woodstock Cafe(佐藤良成ソロ)
2007/12/20(thu)下北沢 ラ・カーニャ(佐藤良成ソロ)
2007/12/22(sat)『100万人のキャンドルナイト』@福山 馬呆(佐藤良成ソロ)
2007/12/24(mon)京都 ガケ書房(佐藤良成ソロ)
2007/12/25(tue)神戸 BACK BEAT(佐藤良成ソロ)
2007/12/26(wed)難波 BEARS(佐藤良成ソロバンド)
2007/12/28(fri)梅田 ムジカジャポニカ(佐藤良成ソロ)
2007/12/29(sat)名古屋 Tribal Arts(佐藤良成ソロ)
2008/1/25(fri)渋谷 DUO -Music Exchange-
2008/1/26(sat)博多 百年蔵
2008/1/27(sun)大牟田 cafe nei(佐藤良成ソロ)
2008/2/3(sun)尾道 向島洋らんセンター
2008/2/24(sun)心斎橋 クラブクアトロ
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mag files : Humbert Humbert
歌声はすべてを優しく包む (07/11/26 @ Shibuya Club Qnattro ) : review by philine, photos by yusuke
photo report (07/11/26 @ Shibuya Club Qnattro ) : photos by yusuke
photo report (07/08/11 @ Summer Sonic 07 Makuhari River Side Garden ) : photos by naoaki
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The official site
Humbert Humbert
http://www.humberthumbert.net/
The latest work

"「包帯クラブ」オリジナル・サウンドトラック " (国内盤)
The latest album

"道はつづく" (国内盤)
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The latest single

"夜明け [Maxi] " (国内盤)
Previous works
"「砂利」オリジナルサウンドトラック "(国内盤)
"おかえりなさい [Maxi] "(国内盤)
"今晩はお月さん [Maxi] "(国内盤)
"11のみじかい話 "(国内盤)
"天井 [Single] [Maxi] "(国内盤)
"おなじ話 [Single] [Maxi] "(国内盤)
"焚日 "(国内盤)
"E.A.D [Maxi] "(国内盤)
"アメリカの友人 "(国内盤)
"Blowin in the wind [Maxi] "(国内盤)
"FOR HUNDREDS OF CHILDREN "(国内盤)
"Blowin in the wind [Maxi] "(国内盤)
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