ザ・シンズ @ 渋谷クラブクアトロ (12th Nov. '07)
アメリカの土の香りがした…幸福な音楽
フジロック'07に引き続き今年2度目の日本上陸になるザ・シンズ。フジでは雨の中でのライヴだったようですが、今回は渋谷クアトロにて、メンバー達も僕らもゆったりした雰囲気の中見事に盛り上がったライヴでした。お客は7割程度の込み具合だったでしょうか(わりとスペースに余裕もありつつ)。また、やけに目につくのは外国人の観客の多さ。日本人とほぼ半々ぐらいだったようにも思えましたが、どこから集まってきたのかってぐらい各々のグループでやたら盛り上がっています(笑)。ビール飲んで、煙草吸って(喫煙OKは良くも悪くもクアトロの特徴でもある)、なんだか本国アメリカの"クラブ"に"ギグ"を観に来てやったぜ、という気分にならないでもない……(笑)。ただ言える事は、アメリカでの人気に比べ日本ではどうもうまくバンドがアピールできていないんじゃないかなぁ、という現象が、こんなところにも現れているのかもしれない……とか思いつつも、いざ東京初日開演です!
今年1月にリリースされた3枚目のニュー・アルバム、『ウィンシング・ザ・ナイト・アウェイ』(ビルボードアルバムチャートでは最高位2位)の1曲目「スリーピング・レッスンズ」の、ほんわかピコピコとしたイントロが会場に木霊するとメンバーが登場。その後はMCもほとんど挟む事なく、過去3枚のアルバムから満遍なく演奏されていく彼らだけの音楽……どこかしらアットホームな雰囲気が漂う。
ボーカリストのジェイムス・マーサー、彼の持つギブソン・レスポール・ダブルカッタウェイ(TVイエロー)は、頑なに枯れた音を掻き鳴らし、声の張りもアルバムで聴くよりもずっと伸びやかでタイト、まったくのっけから気持ち良くさせてくれる(調子も良さそうです)。バンドも全体的に力強いビートに支えられた"ロック感"満載のステージで思わず体も自然とノッて来ます。CDを聴いてる限りでは、どちらかというと繊細な印象が強いけど、彼らの音楽も歴代のロックバンド達と同じように"ロック"なんだとあらためて思った。しかもがっつりアメリカン・スタイル。インディーズ・バンドにありがちな"なよなよ感"は皆無である事はここに記しておこう(一応)。
しかも曲ごとのアレンジも実に豊かじゃないかっっ。主にベース&キーボード(サンプリング)担当のマーティンは常に楽器間を行ったり来たり、鍵盤をいじりに行った時は、主にリードギター担当のデイヴがベースを弾いたりもして(器用にこなすなぁ)。また、舞台上手(向かって右側)のメインキーボードを演奏する第5のメンバー、エリック・ジョンソン(ex.フルーツ・バッツ)は、時にラップスティールギターを膝上に乗せ、時にテレキャスターギターを抱え、と曲を生まれ変わらせんばかりに色彩を加える作業に余念が無かった。さらには美声コーラスにも彼がほとんど貢献し、他曲のコーラスではマーティンやデイヴも加わり、三声ハーモニーになったりもして、才能豊かな音楽家達である一面も見れ、非常に好感が持ててしまう。("Saint Simon" -2ndアルバム「Chutes Too Narrow」収録- の美しいこと!)。
ところで、彼らはポップな要素も多く持つバンドとは思うけど、メロディメイカーという意味でのわかりやすいポップ・バンドでは無い(と思う)。個人的に思うところでは、例えば……もっとわかりやすいキャッチーなメロディーが多かったらトラヴィスのように受け入れられそうでもあるし、エレクトロの割合が多かったらフレーミング・リップスのように日本のファンには気づいてもらえるかもしれない。ただ彼らはアメリカの、本当のアメリカのど真ん中から生まれてきたような音を奏でるバンドなのだと僕は今日感じてしまった。カントリーやブルースやトラディッショナルな雰囲気も曲により垣間見えたりと、何やらとても土の臭い(香り)を強く感じた。それは砂漠のような土ではなくて(デスペラード的な流れ者ではなく)、もう少し湿った感じ。大げさに言えばアメリカ先住民から受け継ぐ歴史みたいなものまで、僕は何とは無しに感じてしまったのだ。(彼らはニューメキシコ州出身とのことですが……どんなバックボーンがあるのだろう)。そういう意味では、ブライト・アイズなどと非常に近いのかもしれない……なんて思いつつ、僕は妙にしみじみする。
アンコール1曲目ではピンク・フロイドのカバー「生命の息吹(Breathe)」を披露してくれた。(カバーバージョンはEP「Turn on Me」のBサイドとしてリリースされているようです)。この時、前方にいた音楽評論家っぽいしたり顔のオジサンはここぞとばかり手を叩いて喜んでいましたねー(笑)。若い人は良くしらないかもしれませんが、そんな70年代のソングです。(シンズって時に70年代、もしくはポリスみたいな80年代、または60年代……と色んな瞬間がありませんか?そこがまた魅力なのですが)。
※この曲が収録されているピンク・フロイドのアルバム、『狂気』は全世界での売上枚数は3500万枚以上とされているようで、米ビルボードチャートでも15年以上(連続591週、トータル741週)に渡ってランクインするというギネス記録を持つモンスター・アルバム。そんな曲をカバーするなんてある意味大胆ではありますが、バンドのカラーは一層奥深いもの(日本の若者が一層ついて行けない…)になっている気がしないでもないところがやはり不安なのですが(笑)。アメリカ受けは十分でしょうけれどね。
シメは彼らの曲の中でも最もノレる曲といっても良いかもしれない「ソー・セイズ・アイ」でタテノリで気持ち良く、それから幸福感満載のまま(ココロはほっかほかであります)、帰路につく事が出来ました。明日ももう1日東京、その後は名古屋、大阪と、彼らは1日もオフを挟む事なく日本を駆け巡ります。チケットを持っている人は心待ちに、いまだ迷っている人はぜひ迷わずに駆けつけるべし。一度観たら離れられない、そんな愛着が持てるバンド野郎こそがザ・シンズと言えるでしょう。ライヴを観なければ、彼らの良さはわかりえない!そう断言……したい。
そういえば今回のツアーでは、ロゴ入り風船が主催者様より配られますが、これにはホント注意。前半で膨らまして投げると邪魔です。我慢できない気持ち、わかりますけど……静かな曲中で割れた音が炸裂したりするとヒンシュクですから!集中できないよ〜。なので、後半、もしくはアンコールの盛り上がった時に思いっきり投げましょう(笑)
-- setlist --
Sleeping Lessons / Kissing The Lipless / High Horse / When I Goose-Step / Turn A Square / Girl Sailor / A Comet Appears / Sea Legs / Girl Inform Me / Saint Simon / Gone For Good / New Slang / Australia / Turn On Me / Know Your Onion! / Pam Berry/Phantom Limb
-- encore --
Breathe (Pink Floyd cover) / The Past and Pending / Caring Is Creepy / So Says I
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