ザ・ナショナル @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン (8th Nov. '07)
結束したバンド力
今から約9年前に結成された米国はブルックリンに拠点を置く男性5人組バンド、ザ・ナショナル。以前はアメリカン・メアリィとも名乗っていたらしく、公式サイトのアドレスもその名で出てくるのでちょっとわかりずらい。2005年にレコード・レーベルのベガーズ・バンケットへ移籍しリリースした『エイリゲイター』が各媒体で話題になり、地味ながら質の高いソング・ライティングを評価されているインディ・バンドだ。5月にフル・アルバム『ボクサー』を発表し、ここ英国にて秋の二日間公演をシェファーズ・ブッシュにて開催。表立ったプロモーション活動やメディア露出の少ないバンドなので、果たしてお客さんは集まるのかと思っていたのが、チケットは二日間とも完売。今夜のライヴが初体験であるので、さてどういった音を聴かせてくれるのか、楽しみであった。
ヴォーカルのマットだが、その気難しげで寡黙そうな佇まい、伏せた瞳を床にふっと投げるその仕草などが、以前目にしたザ・ジーザス・アンド・メリー・チェインのジム・リードに重なる。サポートも含めた総勢6人のメンバーがゆっくりとステージに上がり、30代前半、或いは半ばの男性が目立つ観客の温かな声援が沸き上がる。そう、周りを見渡しても7割方が男性オーディエンスだ。事前に聴いた音源からも感じたが、U2の『ジョシュア・トゥリィ』や『ウォー』時代を思わせる、郷愁と研ぎすまされた緊張感が結集した濃いバンド・サウンドを聴かせてくる。マットの独特なバリトン・ヴォイスはアラブ・ストラップのエイダンを思わせ、それを下敷きにしたタイトなドラミング、メロディとリズムが軽やかに絡み合うツイン・ギターの丁度良い主張が、シンプルなギター・ロックと押しつけがましくない爽快な旋律を届け、心地良い。ステージ中心に寄り添うようにしてプレイするメンバー達の姿から、まるで彼らのスタジオ・セッションを直に目にしているかの様な集中力に驚く。
各パートが全員コーラスを奏でる曲や、一つのパートだけが極端に目立つのではなく、あくまでバンドとして、楽曲を響かせようという一体感はとてもダイナミックで見応えがあった。ただ、キーボードとヴァイオリンを担当していた彼の名前こそ知らないが、とりわけこの人が奏でる弦の調べは狂気にみちたもの凄く、バンドの音が全体的に静を貫いていたからこそ、このストリングスがエッセンスをゆうに越えて、バンドの音に華やぎをもたらしたのだ。フォーキィに雰囲気だけを牧歌的に伝えようとするヴァイオリンでは決して無く、まるでクラシカルのリサイタルで超絶技巧のヴァイオリンを聴いているような凄みだった。なのに、それがバンドの音を殺さずにして深い味付けとして印象を残したのだから不思議だ。決して派手さの無い彼らの音楽だけれども、バンドが渾然一体となって奏でる音には後味良い爽快感が残った。
-- setlist --
Slow Show / Brainy / Secret Meeting / Baby / Squalor Victoria / Mistaken for Strangers / All the Wine / Racing Like A Pro / Abel / Astronauts / Ada / City Middle / Apartment Story / Daughters / Fake Empire / Gospel / Mr. November
-- encore --
Virginia / About Today / Start a War
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report and photos by kaori
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結束したバンド力 (07/11/08 @ Shepherd's Bush Empire, London) : review and photos by kaori
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