buttonセス・レイクマン
@ マーロウ・シアター、カンタベリー (25th Oct. '07)

カンタベリー・フェスティヴァルにて

  残念ながらこのスマッシング・マグでは撮影した写真家はいなかったようだが、今年のグラストンバリー・フェスティヴァル、ジャズ・ワールドのステージに出演していたセス・レイクマン。

  そのグラストでのライブ映像をBBCがウェブ上に載せていたので、どんなステージなのかという雰囲気はなんとなく掴めたような気もしたが、あんなに小さい画面だけで一体何が分かるというのだろう。ますます早くナマで見てみたいと思うアーティストになってしまった。

  つい先日、ニュー・シングル"Poor Man's Heaven"発売にともなう国内ツアーを終えたばかりの彼。私が仕事を辞めてイングランドへ行こうと決心した時期とそのツアーの日程は合わず、会場となるライヴ・ハウスのリストを眺めては見逃した事を悔しく思ったが、こればかりはどうにもならないこと。だが、偶然にもまだチャンスが一度だけ残されているということを発見した。

  それが、このマーロウ・シアターでの公演。10月13日から27日まで開催されているカンタベリー・フェスティヴァルの一環だ。クラシック、オペラ、ワールド・ミュージックやジャズなどの音楽や、演劇やダンス、コメディーや映画、展覧会など「アート」に関する多くのイヴェントが行われる。セス・レイクマンの翌日にはハンフリー・リトルトンがライヴを行うことに気が付いた時には既にチケットはソールド・アウトだった……。

  他のライブの場合と同じ感覚でのんびり会場に向かうと、すでにサポートのバンドが演奏を始めていた。どれくらいの人が集まっているのかと思いきや、キャパシティー1000人の会場は満席。年齢層はかなり高めだが、小さな子どももいたりする。年齢に関係なく、音楽がいつもごく身近にあって、生活の一部としてごく自然にそれを楽しむ人たち。昼間にのぞいた他のバンドの無料ライブの会場でもそういった空気を感じた。日本とは対照的な環境だと思うのは私だけだろうか。ノリが良いとか悪いとか、そういうことではない。それは地方の都市だけでなく、ロンドンでライブを見ていてでさえもそう感じる。しかも、いろいろなタイプの音楽のライブ会場で感じることだ。

  会場は、オーケストラ・ピットもあるホールなので、セスのようにアコースティックな音の場合、よく響いてとても気持ちがいい。はじめのうちは「これがシェフィールドのレドミルだったらどう聞こえたのだろう」などと思いながら大人しく見ていた。

  想像していたよりマッチョではなく、意外に小柄で、ヴァイオリンだけでなく、小さなギターやバンジョーも演奏する。アルバムで聞いた印象とは異なり、声に濁りはない。バックには、ドラム兼パーカッション、アコースティック・ギターとコントラ・バスといった3人。売れっ子プロデューサーとかいうような人たちがいじれば、相当強力な「売れる」作品が簡単に作れてしまうのではないかというくらいの曲たちが、さすがに多くのライブをこなしてきただけのことはあるなと思わせるような展開で披露されていく。時にはセスひとりだけがステージに残り、ヴァイオリンと声だけで迫力あるものを聞かせてくれる。そうかと思えば、メタル・バンドでも見ているかのように思わず座ったままでも首を縦に振ってしまうものもあったり、アイリッシュ・フォークを聞いて踊るってこんな感じかなと思ってしまったりと、様々な要素が盛り込まれていて楽しい。

  おそらくそれは他の観客も同じなのだろう。一方通行では良いライブは成立しない。後方から聞こえてくる手拍子は次第に大きくなり、遂には、じっとしていられなくて席を立ち、壁沿いの通路に立って踊り始める人も出てきていた。終演後、ほとんどの人がみな興奮気味で、笑顔に満ち、口々に賞賛の言葉を発していた。確かに「いいライヴ」だった。こんなに温かい気持ちになれたライヴはいつ以来だろうか。

  フォークだとか、ワールド・ミュージックだとかいったジャンル分けをされることで、とっつきにくいことになるのかもしれない。どんなものかと思えば、簡単に「お試し」くらいはオンラインで聞けるこのご時世。でも、そんなことさえ手間だし面倒くさくて、どっかのだれかが「イチオシ」と言って儲かるためにラベルを貼ったものばかりがどんどん売れる日本の市場で果たしてどの程度受け入れられるのかなんて分からない。

  日本にも来てくれればなあ、という淡い期待はそのままに、たとえどこでであろうとも、機会があればまた見たい、ぜひとも。

report by miyo

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