button日野皓正クインテット
@ 名古屋ジャズ・イン、ラブリー (13th Oct '07)

偶然の引力


Terumasa Hino
 世界のヒノテル。ジャズ・トランペッター、日野皓正がそう呼ばれるようになってどの位経つだろう。今年のフジロック・フェスティバル、オレンジ・コートで飄々としたパフォーマンスを魅せつけ、日野ワールドに捕らわれてしまった人は数知れず。今回ジャズ・イン、ラブリー(以下、ラブリー)で3日間連続行われた名古屋公演。最終日はチケット完売、長年ラブリーを愛してきた人たちが大勢集まっている。置かれた椅子と人の数に比例して、情熱と期待は躍動した。メンバーは、入口からお客さんの合間を縫うように、拍手を浴びてステージに上がる。大きく息を吸い込み、ひとつトランペットの音を会場へ送り込むと店内に緊張感が充満する。一触即発、先のまったく読めない前衛的ジャズ・ワールドへ一気にさらわれた。

Terumasa Hino 今回の見どころのひとつは、新しくバンド加わった沖縄出身、若干16歳のドラマー、和丸。稲妻王子と称された彼の左頭部にはくっきり剃り込みが。演奏の序盤から既に発火寸前。喰ってかかりそうなほど鋭い眼差しは日野皓正に向けられた。淡々と表情ひとつ変えず、客席に媚を売ることもなくドラムと向き合う。物怖じせず、右から左から、手足が軽々と動く。スピードやグルーヴ感、変拍子のドラミングなど、完全にずば抜けたセンスを持っている。リズム隊にとんでもない爆弾を仕掛けてきたことに動揺を隠しきれないまま、音の対話に気持ちを預けることにした。

Terumasa Hino ファースト・ステージは、かなり実験的要素の多いセッションが占める。アルト、ソプラノ・サックスは多田誠司。隣に寄り添う姿を見ると、なんだか女房のような存在感だ。個人のソロから呼応へ、どんどん膨らみを増し緊張がピークに達したところで、金澤英明の豊かなベースの音色と共に全員で深い音を鳴らす。完全即興の世界。二度と同じ演奏は聴けない。脳味噌も目も耳もフル回転状態。その瞬間ごとに心臓が破ける。緩急の差が心に突き刺さり、これがジャズの面白さなのかと噛みしめた時間だった。

 休憩を挟み、セカンド・ステージへ。一転、趣を変え、遊び心満載。とにかく表情豊かな石井彰のグランド・ピアノの弦の上に、マウスピース、ミュート、カウベルのスティック等を乗せる。この状態で鍵盤を弾くと音がくるくると変わるのだ。まさにピアノの音色の新発見。その後、メンバーが前日夜に偶然出会ったというモンゴル出身、25歳の馬頭琴奏者の青年をステージに上げて、飛び入りセッション開始。純粋でかつ深みのある音に乗せて日野陣もゆっくり音を重ねていく。贅沢すぎる時間。文化が違ってもそこで反発し合うのではなく、お互いの良さを受け入れ共存して、新しい可能性を生み出していく。それが平和への道だと、音で教えてくれた。

Terumasa Hino 美空ひばりの"川の流れのように"の演奏、一番前に座っていたお客さんのグラスを拝借し、トランペットのミュート代わりにして演奏する茶目っ気も披露。そしてライヴの終盤マイクを取り、彼は挨拶をした。物静かな人なのだろうと思っていたが、口を開けば会場は笑いの渦へ。三波春夫を引き合いに出し、「お客様は本当に、神様だと思っています」と語ったその姿勢には誇張も嘘偽りもなかった。あれだけのキャリアを積みながら、驚くほど気さくで謙虚な人柄。会場に来た人、ラブリーの従業員、マスターに対して丁寧に感謝の言葉を紡ぐ。目を閉じて、腕組みをしながら演奏を聴いていたジャズ通のオーディエンス勢も、いつしか笑顔と涙で顔が緩んでいた。

 ライヴ終了後間もなく、店の外で日野勢5名と共に、お客さんとマスターが歓談している姿が見えた。ゆったりとした、幸せな時間の共存。手を繋ぎながら、仲良く帰っていく老夫婦の姿も。あまりに鮮やかなこの光景が現実だと理解できず、映画でも観ているような気分にさせられた。自分にとっては、新しいジャンルを切り開くきっかけになったのだが、この場所に立ち会えて本当に幸運だったと思う。ラブリーに関わっている人、そこに足を運んだすべての人、そして日野皓正クインテット。たくさんの溢れた想いに心を鷲掴みにされながら、背筋をしゃんと伸ばし前を向いた。
Terumasa Hino
-- setlist --
1st : Crimson / Edges / I Fall In Love To Easily / Shouting / How Insensitive
2nd : AM PM / Dream of Asia / Session (チン・ギス・ハン) / 川の流れのように / Ember

-- encore --
Candy



-- live schedule --
<日野皓正 Quintet Live>
10/15(月) 静岡県藤枝市 ristorante genova(054-636-7277)
10/16(火) 静岡県浜松市 四つ池ミュゼ(053-472-4851)
10/18(木) 京都市 Live Spot RAG(075-241-0446)
10/19(金) 兵庫県芦屋市 Left Alone(0797-22-0171)
10/22(月)- 23(火) 新宿 PIT INN (03-3354-2024)
11/10(土) 山形県米沢市 置賜文化ホール(0238-26-2666)

国民文化祭オープニングフェスティバル
10/27(土) 徳島県 アスティとくしま(088-621-2114)

<第31回愛のコンサート 〜現代一流プロと天才少年ドラマーの夕べ>
10/30(火) メルパルクホール(東京郵便貯金ホール)(03-3404-3422)
*純益の一部は障害を持つ人々への正しい理解を求める運動の活動資金として活用します。

Motomachi East Jazz Picnic 2007 〜神戸の未来を担う子供たちの音楽イベント〜 >
11/4(日) 兵庫県公館(078-393-2622)
出演/兵庫県内(関西地区) の中高生バンド ゲスト出演/日野皓正クインテット

<日野皓正の音楽クリニック>
11/11(火) 山形県米沢市 置賜文化ホール(078-393-2622)


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