パノラマ・スティール・オーケストラ @ リキッドルーム恵比寿 (9th Sept. '07) - 世界一美しい打楽器オーケストラが魅せた音楽の妙 -
この夏、音楽が起こすマジックを体中で感じた瞬間があった。それはフジロック、フィールド・オブ・ヘヴンでの出来事。苗場の山奥からとてつもないエネルギーが沸き起こったとき、ステージ上にいたのがこのパノラマ・スティール・オーケストラだ。ステージから解き放たれるエネルギーに全身が総毛立ち、身震いした。周囲を見渡すとこれ以上ないくらいの笑顔が溢れているのに、なぜか涙がこみ上げてくる。言葉では言い尽くせない感情に体中が支配されたのだった。こんな瞬間に立ち会ってしまった以上、このワンマンライブを期待しないというのは無理な話だろう。
早く音を聴きたい、全身で爆発的なグルーヴを感じたい。開演前のフロアはありとあらゆる期待で満ちていた。皆が何かを求めるような視線でステージを見上げている。視線の先にあるのはドラム、パーカッション、そして大小様々なスティールパン。隙間無く楽器で埋められたステージに、お揃いのTシャツを着たメンバーが次々と現れ、それぞれの配置へとつく。ざわめきが歓声に変わり、ひと呼吸ついたところで演奏が始まった。オープニングを飾ったのは"BUMP & WINE(バンプ・アンド・ワイン)"。高音と低音が入り交じり、早いテンポで打ち鳴らされるスティールパンの音色は、目の前で突如巨大なカーニバルでも始まったのかと錯覚させてくれる。こうして宴の幕は開かれた。
スティール・オーケストラの名が示すように、この日の主役はもちろんスティールパンだ。この楽器が発する音は、音色のきらめきが見えそうなほどに美しい。加えて、打楽器特有の躍動感も備えている。才色兼備と言ってしまっても決して大袈裟でない楽器なのだが、主役だけではまとまらないのが舞台というもの。この主役たちを後方から支えていたのがドラムやパーカションの存在だ。ときには安定したビートで、ときには荒々しさを含んだリズムでバンドを煽り続ける。野生味を帯びた男たちによる打楽器アンサンブルは、スピーカーから汗が吹き出してきそうな程に暑い。熱を帯びたリズムの嵐が照明の落ちた薄暗いホールに吹き荒れていった。
とはいえ、爆発的なグルーヴだけがこのバンドの魅力ではない。ジャクソン・ファイヴやビートルズ、"Over The Rainbow(オーバー・ザ・レインボー)"といった歌心溢れるカヴァーで見せる一面。リーダーの原田の独奏に象徴されるような、どこか神秘的で厳かな一面。そして、ここぞというときに心の底から震え上がらせてくれるメロディーを聴かせてくれるのも、このバンドが持つ魅力のひとつだ。
心地良く、多彩な表情を見せる演奏に身を委ねていると、いつの間にか結構な時間が経過していたようだ。常にライブの核に据えられる"ZULU CHANT(ズール・チャント)"は、フジロック同様に終演への序曲となった。この曲に関して、以前インタビューの際に聞いた面白いエピソードがある。今でこそ30人を超えるこのオーケストラも、メンバーが3人にまで減るといった時期があったそうだ。そんな時代からこの"ズール・チャント"は演奏され続けているのだという。幾年もの歳月を経た今、当時の10倍以上のメンバーによって演奏され、100倍以上の人を踊らせている。そして、フジロックでは1000倍以上の人たちを笑顔にさせたのだった。そんなことを頭に思い浮かべながら演奏を見ていると、少しグッとくる。
「空気を変える力」。パノラマ・スティール・オーケストラのライブに足を運ぶたびに、常々そんな力を感じさせられる。自分という存在の”個”が消え失せ、場の空気に溶け込んでいくような感覚をおぼえるのだ。個人レベルでは感じられない心地良さは、ライブに足を運んだ人だけが味わえる特権だろう。プロアマ混合の異種打楽器オーケストラの織りなすマジックを、ぜひ一度体感してみてほしい。
-- setlist --
BUMP & WINE / FRUITS BASKET / MY WAY / I WANT YOU BACK / Ob-La-Di Ob-La-Da / URAME / LOVE / REACH OUT (I'LL BE THERE) / LOOK UP / TABBY / ZULU CHANT / BARBARA
-- encore --
MARY ANN / OVER THE RAINBOW / BUMP & WINE
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photos by naoaki
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