buttonフェルミン・ムグルサ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイド
@ 渋谷エッグマン (27th Jul. '07)

日本人になにが起こったんだ!?


Fermin Muguruza
 フェルミン・ムグルサの全編ジャマイカ録音の新譜『エウスカル・エリア・ジャマイカ・クラッシュ』の収録曲、"プラスチック・ターキー"に、SF作家フィリップ・K・ディックの金字塔『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に想起させられた一節がある。物語では、人々は絶滅に瀕した動物をペットとして飼うことがステイタスで、植民星開拓奴隷の逃亡アンドロイドを"始末する"賞金稼ぎ"の主人公デッカードには、生きた動物を飼うだけの生活の余裕がなく、本物そっくりのロボット羊を飼っている。

 リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の映画『ブレードランナー』の原作だ。小説には、火星の荒野で来る日も来る日もキリストの受難を体現するカリスマ宗教家の中継映像が、実はハリウッドのスタジオ・セットで三流俳優が演じさせられていたものだった、と暴かれるプロットもある。ディックが生涯にわたって執拗に描き出していたテーマの一つが、悪夢のような現実と虚構の入れ子構造だ。いったいなにがリアリティなのか?

Fermin Muguruza 「日本人になにが起こったんだ!? 8年前にもこの箱でギグをしたけど、そのときから比べたら…!!」

 ギグを終えたフェルミンが、なかば呆れたようにつぶやいた。大人しくてシャイ、な日本のオーディエンスのイメージからいえば、今夜の凄まじいまでの熱気と狂気は、まったく別の国、別の惑星に来てしまったかのような印象かもしれない。それもフジロック1日目と重なった日の出来事。でも。300人ほどのオーディエンスでスシ詰めになったヴェニューのいたる所で、まるで容赦ない真夏の日射しにすっかり奪われた水分を、ここぞとばかりに胃の腑に流しこむように、"コマンダンテ"フェルミン・ムグルサと"炎の旅団"の闘士たちの音楽を渇望し、飽くことなく次々に体内へと吸いこんでいく。そして、満ち足りた笑顔のすぐあとには、雄叫びをあげて、また渇望するのだ。

 新譜と前3作からまんべんなく選りすぐられたセットに、フロアからはいちいち反応が上がる。最初はゆったりとしていた裏打ちのぶっといリディムも、満ち足りた笑顔で狂喜乱舞するオーディエンスに促されて、気がつけば、情熱と強靭さとを飛沫のようにほとばしらせている。みんなが飽くことなく渇望するのは、したたり落ちる汗のせいだ。この日のトップを務めたリディメイツからタートル・アイランド、そしてザ・ズート16まで、レッドゾーン近辺でいい感じで揺れていた針が、いっきにオーヴァー・ピークまで振り切れた瞬間だ。

Turtle Island
 充実の対バンのなかでもとくに、前あてにパッチ、ねじり鉢巻姿のメンバーもいるタートル・アイランド。大中小の和太鼓にスルド、ドラムセット、パーカッションが混然となった、祭り囃子ともサンバともとれないプリミティヴな重低音に、飄々とした篠笛が涼しげな音色を響かせる。スタイルはハードコアだが、サックスも入るし、ときにシタールが妖しげなインド音階を奏でたりする。かなりユニークでクール。大半のメンバーが愛知県豊田市の山間部出身という。広大なブラジルでも、とりわけ濃密な北東部(ノルデスチ)の都市レシーフェのハードコア・ミクスチャー・バンドで、マンギビート(ノルデスチ伝統のマラカトゥやココに、ロックやレゲエ、ヒップホップをミックスしたリズム)の開拓者ナサォン・ズンビへの、日本からの解答といった趣きか。ヴォーカルの愛樹は「フェルミンとかこういう音楽、すごい好きなんです」と教えてくれた。なるほど。僕はだんじり祭のある岸和田出身だからか余計に親近感を覚えるし、ようやく日本にもこういうバンドが出てきたのか、と感慨深い。だが「こんな感じでもう8年くらいやってます」とはマネージャー氏。
Fermin Muguruza  一見、様々なジャンルのミクスチャーがたんなる"つぎはぎ"ではなく、ユニークな唯一無二の音楽になっているのは、そのすべてにリアリティがあるからだ。では、新譜でこれまで以上にジャマイカに接近したフェルミンにとってのレゲエとは?

「レゲエはおれにとって、薬みたいなものさ。ヘルシーにしてくれるんだ」

 フェルミンがバンドを志したのは、ローティーンの頃に地元で見たザ・クラッシュのギグがきっかけだったという。そして18歳で単身ロンドンへと渡った。それらパンク・ムーヴメントが吹き荒れた時代のイギリスは、"鉄の女"、サッチャー政権の構造改革のまっただなか。若者が就く職もなく失業保険で食いつなぎながら、叫び、鳴らした初期衝動に、抵抗の音楽としてのリアリティという骨格を与えたのが、ジャマイカ移民たちがもたらしたレゲエだった。フェルミンもその洗礼を受けた世代であり、抑圧と抵抗の歴史そのままの故国バスクへと持ち帰ったのだ。

 前作では故郷バスクの抑圧と抵抗の歴史、そして現在の景色を、ときに辛辣にときにロマンチックに、絶妙のストーリーテーリングで歌い上げたフェルミンだが、この『エウスカル・エリア・ジャマイカ・クラッシュ』では、その切っ先を、よりグローバルな現実と虚構(偽装というべきか)に向け、まるで触れると切れてしまいそうなほど、そのリリックはかなりきわどい。トゥーツ・ビハート、U-ロイ、アイ・スリーズ、ルチアーノなどの名だたるレジェンドを配し、かつ全編に、バスクの伝統的なダイアトニック・アコーディオンであるトリキティシャの陽気でキッチュな音色をフィーチャーした、フェルミン流のユニークなレゲエ・アルバムではあるが、その根っこはパンクでありソウルなのだと思う。
Fermin Muguruza  そして今の日本。やはり、政治が弱者に非情な時代だ。「新自由主義」という免罪符を掲げた改革のもと、経済成長と大企業の国際競争力に重きをおき、様々な社会的な担保を切り捨てていく。年金・社会保険庁問題なんて社会インフラの崩壊に他ならないのに、それをたんなる小金の問題としか捉えられない、致命的に感覚の欠如した政治家の2世3世たち。

「社会的・経済的不平等は、公正な機会の均等という条件のもとで、もっとも不遇な立場にある人の生活と権利を、最大限補償することでのみ許容される」ジョン・ロールズ だが「政治とは正当な暴力である。政治は政治であって倫理ではない」マックス・ヴェーバー

 昨年のフランスで起きた移民や若者たちを中心にした暴動や、サルコジ大統領当確を受けて即座に発生した反サルコジの若者たちによる暴動は、新しい世代によるアナーキズムの胎動にも感じられる。アナーキズムは「無政府主義」と訳されるが、正しくは「無権力主義・非権力主義」であり、意思決定機関としての会議は認めるが、絶対的な政治権力を認めないという主張だ。

「みんな!おれたちの民主主義は大企業や政治家たちにハイジャックされてしまった!」ザック・デ・ラ・ロチャ

 いまや資本民主主義の底辺にあるもの、底辺であげられる叫び、底辺で鳴らされる音楽が、真にリアリティをもつのだ。そう、"ベース・カルチャー"だ。80年代のイギリスを席巻したパンクのように。

 それがまさに今の日本なのかもしれないし、この夜の渇望の源なのかもしれない。哀しむべきか、喜ぶべきか。
Fermin Muguruza


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