Sign Sonic! '07 @ Hatsudai The Doors (7th Jul. '07)
feat. Free Birds, Bright Eyes, Freedom, B.M.D., 2-Time, Rimi, N-Style & Signmark
心で聞く音楽
音楽は耳で聞くものだ。何を今さら、と思われるかもしれないが、長年音楽を聞いてきた自分にとって、これは疑いようのない事実だった。耳から入ってくるメロディーやリズムを一心不乱に食い漁り消化し、それを血液のごとく身体全体に充満させる。それは聴力があるからこそ、感じることができるものだと思い込んでいた。だが、これがどれだけ浅はかで、単純な考えであったか。そんなことを気付かせてくれたのは、耳が聞こえない人たち、ろう者の人権や権利を訴え続けているサインマークというフィンランドのろう者ラッパーとの出会いがきっかけだった。
サインマークは今回、「Sign Sonic '07」という東京・初台にて行なわれたイベントのために初来日。このイベントは「耳が聞こえなくても音楽は楽しめる」というテーマのもとに聴覚障害を持つミュージシャンが集結し、思い思いの形で音楽の在り方を訴えるという、非常に興味深いものだった。
動員数が年々着実に増え、今年はチケット完売となったこのイベントのトリを務めたのがサインマーク。メンバー構成はヘイッキ (Vo.)、キム (DJ), そしてサインマークことマルコ(Sign:手話)。ヘイッキとキムは健聴者だが、マルコは聴力を失っている。ろう者だ。ステージ上では手話でラップをするらしい。
サインマークは、ステージ上に現れると、演奏する前にこの曲が一体どういう曲なのかということを手話で丁寧に説明する。曲の土台はキムが作っていく。ヒップホップを軸にジャズやファンクを巻きつけ、その力強い紐に絡むようにヘイッキのボーカル喰らいつく。マルコはキムのリズムの取り方、ヘイッキの口の動きを瞬時に目で読み取り、身体で一つ一つ着実にビートを刻んでいく。そして、自分の感情を全身で表すように、手話でラップを語る。手のひらから声が聞こえる。時々やはりマルコはリズムが狂うが、それはヘイッキがしっかり支えて、彼を立て直す。目に見えない愛と優しさに溢れたこのグループの底知れぬ力を見た。
後半では、会場との一体感を切実に求めるサインマークの想いが剥き出しになった。客席とのコール&レスポンス、1.2.3.4のカウントに合わせて前後左右のお客さんとハグしてねという、少し照れくさいような演出も。しかし誰一人として、この空間に健聴者、聴覚障害者といった壁を感じた者はいなかった。アンコールは鳴り止まず、彼らは自分たちの持ち歌がなくなってしまっても、同じ曲を何度でも演奏してくれた。
遠い昔、人間は自ら国を作り、言語を生み出し、はたまた手話でさえ各国によって違うものを作り、お互いをわざと拒絶するかのような文化を作り上げてしまった。かたやその一方で、それに抵抗できる唯一の手段として音楽が存在しているように思えてならない。お互いに言葉が通じず、耳が聞こえない人も多数いたあの空間で、すべてがひとつに繋がった瞬間は、圧倒的な説得力があった。
音楽は耳で聞くものではなく、心で、全身で受け止めるものだ。それを音楽で証明してくれたサインマークの存在は、どれだけのろう者を勇気づけるものになっただろうか。彼らの音楽を、一人でも多くの人に体感してもらえる機会がまた訪れることを、切に願う。
|
report by nico and photos by hanasan
|
mag files : Signmark
心で聞く音楽 (07/07/07 @ Hatsudai The Doors) : review by nico, photos by hanasan
photo report (07/07/07 @ Hatsudai The Doors) : photos by hanasan
|
|
2007
心で聞く音楽 : サインマーク in サイン・ソニック! '07 (7th Jul. @ 初台ドアーズ)
|
|