DJクラッシュ @ ココ、ロンドン (27th May '07)
指先の革命
通常、バンドやシンガー・ソングライターが催すギグをレポートしているが、DJによるクラブ・イヴェントというものを体験するのは今夜が初めて。私自身、クラブで踊り狂うなどという趣味が無い故、その会場の雰囲気、観客の様子など、日頃体験しているコンサートとはどのように趣を異にするのか、計りかねるところが大きかった。楽曲のアプローチや歌が入ることを踏まえればイコールにはならないけれども、関連して思い浮かべることができるのがDJシャドウやファットボーイ・スリム、ケミカル・ブラザーズ、派生したらマッシヴ・アタックやベイスメント・ジャックスあたり。でも、そうするとどんどんバンド的なサウンドへ移行してしまう。身一つで表現するからこそ、DJとしての佇まいに意味があると思うのだ。日本でターンテーブリストとしての先駆けとなったDJクラッシュ。深夜を回った満員のココに、その未知なる世界の幕が上がった。
粋なMCの紹介で彼がステージに姿を現すと歓声を上げた観客だが、クラッシュはターンテーブルとミキサーをじっと見つめてヘッドフォンに手を合わせたままオーディエンスを煽るどころか、ほとんど彼らをちら見もしない。だがそれは、俺様の音を聴くべし、というようなぞんざいな態度なのではなく、単にレコードをきゅきゅっと操るのに忙しいだけなのであって、受け手は受け手の自由にクラッシュが構築、拡散してゆくサウンドに身を任せ笑顔で踊っている。フロアにおしくら饅頭的な殺気立った気配なぞ皆無であり、何だか雰囲気そのものが穏やかというか、思い思いの高揚感で楽しむ人の姿が普段目にするライブ・コンサートのそれとは違い、印象深い。
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さて、全編通じた今夜のセットは、ヴォーカルをフィーチャーしたものはほぼ無いインストゥルメンタル・ナンバー。素のままの音符を、自らの心象、音像に絡め、その指先でスクラッチし生み出してゆくDJ、クラッシュの動きに新鮮な驚きを覚えた。体で表現するようなエモーショナルなプレイ・スタイルではないし、明確な曲の繋ぎ目が無い展開では観客と言葉を交わすMCの場面も特に無い。一見淡々と進んでいくだけのショウなのだが、ずーっと彼の動きを追い続けていると、時折深く目を瞑り陶酔したような表情が闇に浮かび、その次の瞬間には、彼の指と手の平が鋭くレコードを鳴かせてゆくのだ。そしてそれに反応する客達が気持ち良さそうに体を動かしている。多くの人にとって音への情熱を乗せるのがギターだとしたら、クラッシュにはそれがターンテーブルだった、というだけのこと。トリップホップ、ジャズの即興プレイを彷彿とさせるチューン、和洋折衷のアプローチもこれ見よがしな狙いに終わらず、あくまでスタイリッシュに、異なるテイストの響きを融け合わせたサウンドとして都会の夜のクラブにしっくり馴染んだ。ゲストDJヴァディムを讃える際に、終始シャープだった表情を少し和らげたクールなクラッシュ。英国のライヴ・ヴェニューで、日本のDJクラッシュが英国のオーディエンスを酔わせたこの光景そのものが、実は何より気持ち良かった。
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report and photos by kaori
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mag files : DJ Krush
指先の革命 (07/05/27 @ Koko, London) : review & photos by kaori
review with no title (04/05/15 @ Osaka Dome Sky Hall) : review Yuriko Yamashita, photos by ikesan
photo report (04/05/15 @ Osaka Dome Sky Hall) : photos by ikesan
戦場に残された子供たちへ (03/01/17 @ Shinjuku Liquid Room) : review & photos by hanasan
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2007
じゃじゃ馬歌姫、KO勝ち : ザ・ノイゼッツ (24th May @ ココ、ロンドン)
かくも熱き音魂 : コールド・ウォー・キッズ (21st May @ ココ、ロンドン)
グロウスティックの震撼 : クラクソンズ (18th May @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
大波に乗れ! : ザ・マッカビーズ (17th May @ アストリア、ロンドン)
嵐を呼ぶ男 : ザ・レモンヘッズ (16th May @ ココ、ロンドン)
虎穴に光る虎児の牙 : プル・タイガー・テイル (11th May @ プラウド・ギャラリィ、ロンドン)
娯楽なロックは裏切らない : マキシモ・パーク (10th May @ アストリア、ロンドン)
壊れたおもちゃ箱 : ディアフーフ (2nd May @ ココ、ロンドン)
命短し、踊れよ乙女 : キャンセイ・デ・セイ・セクシィ - シーエスエス (23rd Apr. @ アストリア、ロンドン)
汗くさメタルよ、さようなら : ロストプロフェッツ (23rd Apr. @ HMV、ロンドン)
腹に響くぜ、ロックン・ロール : ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ (18th Apr. @ アストリア、ロンドン)
大人しいのは見せかけさ : ピーター・ビョーン・アンド・ジョン (15th Apr. @ ココ、ロンドン)
金の卵探しはオール・ナイトで : ザ・ナインティーン・ハンドレッズ、ジャック・ペネイト、グッド・シューズ、ビッフィ・クライロ (13th Apr. @ フォーラム、ロンドン)
行儀良く聴きたい夜には : ジョアン・アズ・ポリス・ウーマン (12th Apr. @ スカラ、ロンドン)
眠れぬ森の王子 : パトリック・ウルフ (11th Apr. @ アストリア、ロンドン)
裸の俺様 : レイザーライト (8th Apr. @ アールズ・コート、ロンドン)
耳を肥やせ、インディ・ファンよ : リトル・マン・テイト (5th Apr. @ アストリア、ロンドン)
あと、もう一歩 : マキシモ・パーク (4th Apr. @ HMV、ロンドン)
泣く子も黙るライヴ天国 : フォール・アウト・ボーイ (2nd Apr. @ ハマースミス・アポロ、ロンドン)
二枚目の分かれ道 : ザ・レイクス (31st Mar. @ ブリクストン・アカデミー、ロンドン)
ボヘミアン・ラプソディ : ゲット・ケイプ・ウェア・ケイプ・フライ (30th Mar. @ フォーラム、ロンドン)
失われぬ青春ポップス : ザ・シンズ (28th Mar. @ フォーラム、ロンドン)
ジャンル無法地帯警報 : エンター・シカリ (21st Mar. @ HMV、ロンドン)
加速するエモ・ポップ特急 : キッズ・イン・グラス・ハウジーズ (17th Mar. @ ココ、ロンドン)
天才とセンティメンタリズム : ブライト・アイズ (16th Mar. @ ココ、ロンドン)
音楽が音楽であるために : ジ・アワーズ (15th Mar. @ KCL、ロンドン)
踊るインベイダー : ザ・レイクス (12th Mar. @ HMV、ロンドン)
怒れるスコッツ : ビッフィ・クライロ (9th Mar. @ HMV、ロンドン)
フィヨルドの咆哮 : マンドゥ・ディアオ (7th Mar. @ KCL、ロンドン)
お茶の間バンドの平均美学 : カイザー・チーフス (2nd Mar. @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
妖女の夢は夜ひらく : ハウリング・ベルズ (25th Feb. @ ココ、ロンドン)
闘う女王様 : ゴシップ (24th Feb. @ アストリア、ロンドン)
密色の調べ : デューク・スペシャル (21st Feb. @ ULU、ロンドン)
天使の微笑み、悪魔の囁き : レジーナ・スペクター (16th Feb. @ アストリア、ロンドン)
CD買うより観においで : ザ・ホロウェイズ (14th Feb. @ ココ、ロンドン)
賢者の演奏 : クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー (13th Feb. @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
真冬のカーニヴァル : ラーリキン・ラヴ (12th Feb. @ ココ、ロンドン)
僕らの音がグラマラス : スウィッチーズ (9th Feb. @ ココ、ロンドン)
弾いて、歌って、踊っちゃう : オーケイ・ゴー (4th Feb. @ ココ、ロンドン)
暴れん坊少年、見参 : ジェイミーT (24th Jan. @ アストリア、ロンドン)
大人のメロディ : セブン・フォー・セブンス (23rd Jan. @ ザ・ボーダーライン、ロンドン)
音も人も青春まっただ中 : ザ・ヴュー (22nd Jan. @ HMV、ロンドン)
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