buttonフェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイド
@ トーテム, パンプローナ (30th Apr. '07)

言葉を取り戻したバスクの民


Fermin Muguruza
 ヴィーニャ・ロック・フェスティバルにて。フェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイドのライブが終わり、バックステージへ戻ってみると、ストリート・ビート・フェスティバルで知り合ったボイコットのアルベルト(G.)が待っていた。どうやら、「フェルミン」の言葉をしきりに発していた僕らの動きを予想し、わざわざ会いに来てくれたようだ。本来ならばフェルミン直前にマタライル・ステージでボイコットを見る…… という流れになっていたのだが、カステジョン駅をぐずぐずにしてしまった豪雨によりタイムスケジュールが大幅に変わり、夜中の3時に組み直されていたのだ。地元スペインでのライブはイタリアよりもさらに凄いのだろうなぁ、と楽しみにしていた僕にとっては残念だったけれども、それでもこうして会いにきてくれたことは嬉しかった。

Fermin Muguruza ささやかな再会のあと、フェルミンにくっついて宿をとり、翌日はバン3台に機材を乗せて北へ。適当に休憩を挟みながら、赤茶けた岩肌をすり抜け、風車が回る草原を抜けて、車は快調に飛ばしていく。目的地は「パンプローナ」と呼ばれるバスクと隣接したナヴァラ州の土地なんだけれど、フェルミンはもちろんバスク名の「イルーニャ」と呼ぶ。同じ土地でもスペイン語とバスク語で別の読み方があり混乱してしまうのだけれど、この原稿に関してはイルーニャで統一したい。現地の人からすれば、それが本来あるべき呼び方だからだ。

 さすがにほぼ地元というだけあって、開場と同時にすし詰め状態。老若男女入り乱れた客層を見るだけで、フェルミンがいかにバスク周辺の人たちに力を与えているか知ることができる。オーディエンスにとって、この日はライブ以上の意味を持った重要な一日。バスクそのものが叫ばれ、自分のルーツを確認する日だ。メンバーが登場すると、オーディエンスは唸りをあげて出迎える。窮屈なステージとこれまた窮屈なフロアが溶け合い、叫びを伴う熱気が渦を巻いていく。

 ヴィーニャ・ロックに続いて、この日もカバーされたトゥーツ&ザ・メイタルズの"54-46"には、思わずニカァーっとしてしまう。中盤にこの曲のヤマ場となる「one time(叫び)、two times(叫び叫び)……」と続くコール&レスポンスがあるのだけれど、ここでちょっとしたやりとりが起こる。バスク語の1は「bat」で問題ないんだが、2は「bi」で、耳の肥えてない僕なんかには「three」を早口で言ったように感じてしまうのだ。百戦錬磨のフェルミンは世界各国でオーディエンスの勘違いを目の当たりにしていて、こちらがそう感じることを予期していた。一端音を止め、微笑みまじりに皮肉ってカウントの説明を挟み込むのだ。ヴィーニャ・ロックでは納得しながら、笑いながら見れていたけれど、ここはバスク語の圏内。それでもこういったことが起こるのは、バスク語が失われた時代があって、わからない人もいるということ……そう思うと、楽しさの中にも少しだけ複雑な思いが混じった。

(*注 : この歌がたびたび取り上げられるのはバスク独立運動の政治犯としてとらわれの身となっている「良心の囚人」へのシンパシーを表明するのが理由。)

Fermin Muguruza 多国籍バンドが奏でるリディムにトリキティシャ(バスク地方のアコーディオン)とフェルミンの言葉が加われば、バスクの主張は堰を切ったように力を増していく。バンド自体も力強いのだけれど、地元の力というのはやはり段違いに揺さぶるものがある。魂の叫びにオーディエンスが呼応し振れていけば、バスクの団結が音楽というものを超越していく。意志を発するフェルミンの眼がオーディエンスを刺し、ふと振り返れば、オーディエンスも同じ眼をしている。それぞれが鑑となって、互いを映しあっている。オーディエンスにまぎれて拳と叫びをあげれば、言語など軽々と飛び越えて(あくまで感覚として)おおまかな意味が伝わってくる。飲み込まれてしまうのだ。これらはバンダ・バソッティで感じたこととまるで同じだった。発奮するフェルミンの体をよくよく見れば「教」「考」というタトゥーが刻まれている。教わる、考える。物事を教わるだけでは終わらず、自分の考えと照らし合わせて、ひとつの答えを導きだす。そうして揺るぎない主張を組み上げていくのがフェルミン・ムグルザという人なのだ。

 終演後、ほのかに赤みを帯びた頬を持つキッズと仲良くなり、ライターを貰った。それには「NAVARRA」の文字と土地の紋章がデザインされていた。中身のガスはほとんどなくて、紋章がところどころはげているのを見ると、手に入れてから今まで大切に扱われてきたのだろう。何気ないやりとりの中にもバスクやナヴァラの民としての誇りを強烈に感じたのだ。
Fermin Muguruza


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ジャマイカで録音され、トゥーツ&ザ・メイタルズ、U-Roy、アイ・スリーズなどをゲストに完成したこのアルバムは7月に国内盤が発表される運びとなりました。楽しみにしていてください。


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