フェルミン・ムグルサ アンド・アフロ・バスク・ファイアー・ブリゲード イン・ヴィーニャ・ロック・フェスティヴァル ベニカシム (29th Apr. '07)
旗印は反逆! ヴィーニャ・ロック・フェスティバル
飛行機を降りれば、灰色の雲がたれ込めるバルセロナ。オイオイオイと言いたくなるようなどしゃ降りで、スペイン=カッラカラのピーカンなぁ…… などという幻想は脆くも崩れ去る。長居は無用だとばかりに、地中海に沿って走る巨大な特急電車を捕まえ、南へ2時間ほど揺られるとカステジョン駅。地図で確認すると、バルセロナとバレンシアのちょうど中間あたりの駅だ。イタリアのバンダ・バソッティが車が手配してくれていたので、駅構内で尋常じゃない雨漏りを避けつつ待つことになるのだが、その間にも僕らがこれから行く予定の「ヴィーニャ・ロック・フェスティバル」会場へのシャトルバスがあることを知らせるアナウンスが流れ、未体験ゾーンの足音がより近くなってきた。来年、再来年と来ることがあればバスを利用したいと思うが、調べてみるとスペイン各地から何かしらの交通手段が用意されているようだ。いよいよ駅からベニカシムへと出発、街を抜ければ突如として赤土と岩肌が剥き出しとなった山々が広がる。北へ15分ほど走ると、道沿いにはやがてテントの花が咲き、左手には巨大なステージが現れ、雑多で怪しげな空気が流れ込んでくる。
受付でもらったパンフレットには、日本ではあまり知られていないものの、驚愕の名前がずらり。初日はマーラ・ロドリゲス、02年のフジで驚愕のステージングを披露した世界最強バンドと言っても過言ではないマヌ・チャオ・レディオ・ベンバ・サウンド・システム、2日目にはラ・トローバ・カンフーにソウルフライ、今回取材することとなった3日目にはオーガニックな雰囲気を纏うマカコ、アルゼンチンのレイジと呼ばれるトドス・トゥス・ムエルトス、ネオ・スカの流れを汲むスカラリアック、ダンサーの色気が眩しいオホス・デ・ブルッホ、そして7月の来日が決定している多国籍バンド、フェルミン・ムグルザといった、レコ屋の片隅にちんまり押し込められているようなバンド達が名を連ねている。トドスとフェルミンは、フジのクロージングとして演奏していたので覚えている人もいるだろう。スカラリアックは去年日本ツアーをしたし、オホスとマカコは愛知万博スペイン・パビリオンによるキャンペーンで来日を果たしているから、日本人にとっては3日目のメンツが一番馴染み深いかも知れない。
ラインナップの傾向をはしょって説明すると、パンクにハードコア、はたまたヒップホップをベースに、フラメンコ、サルサ、ルンバにスカ、レゲエ等など… ラテン圏で生まれた「世界田舎音楽」が絡みつくといったもの。攻め方の違いはあれど、載せられる歌詞は労働者の思いを代弁したものや、独立を主張したり貧困を叫ぶものなど、極めて激しいもの。民衆として声をあげ、ストリートの思いをステージへと持ち込むバンドばかりだ。
英語で歌うアーティストがほとんどおらず、同時にメインストリームであるはずの英米メディアの触手もまるで伸びてこない。音源に関しては、やはりというかイギリス経由で流通していることが多いのだが、資本をまき散らして土地の文化を食い潰している巨大企業(世界中どこへ行っても同じ店構えのマ○ドナルドとか)を「反グローバリズム」の名のもとにつるしあげたり、キューバ革命の功労者エルネスト・チェ・ゲバラを称えたりと、5万のオーディエンスがひとつとなって声をあげる現象が、英米のメディアにとってはとりあげにくいものなのかなぁ、とも思う。
さらに、タイムテーブルを見やれば、寝坊助には嬉しい朝の遅さだ。ライブは大体16時から始まって明け方5時半まで続く、ライジングサンの最終日って感じのスケジュールが毎日続くのだが、スペインでの行程とか諸々の事情により未体験。でも、地中海から昇る朝日なんて想像するだけで…… 美しいに決まってる!
奥へ進むと、小さなオフィシャル・グッズ・ショップがあるんだけれど、まず柵があってその奥にシャツが並んでいる。売り子を呼びつけ品物をとってきてもらうといった形で、おつりがあると露骨に嫌な顔をする。その近くには巨大なテントがあり、ブートのTシャツやアクセサリーが敷地内で堂々と売られ、日本ではまず主催者サイドでストップがかけられる光景を見ることができる。こちらのが商売する気満々で気さくな人たちが多いから、さっきの売り子とのギャップも手伝ってかなり可笑しい。かつてフランコ政権時代に言葉を奪われたバスクやカタルーニャ、さらにガリシアの旗なんかも売っていて、どこへ行っても「反体制」が垣間見えるのだ。
飲食もイギリスなんかに比べたら格段に美味い。飯はネオン輝く巨大な屋台がもうもうと煙をあげ、盛大につくりまくる。タパ(小皿料理)にはじまりパスタ、ステーキ、ジャークチキン、生ハム…… と実に豊富な品揃え。屋台の枠を越えた本格的な面構えにふさわしい強い火力で炙られているので、これがまた美味い。それらを、スペインではポピュラーな飲み物、カリモチョ(安ワインをコーラで割ったカクテル)で流し込む。こちら、たいして美味くはないがそれほどマズくもない。だけども少し、人工甘味料のような後味が残る感じだ。
スペインには日本の優れた文化も流れ込んでいて、その最たるものは漫画。「日本人だよ」と言えば北斗の拳に聖闘士星矢といったフレーズを投げかけてくるから、こちらとしてもコミュニケーションがしやすい。スペイン語は日本語と同じく母音をはっきり発音するから、聞き取り易いってこともある。交流は「hola!(オラ:やぁ!)」の言葉と握手、二言目に「Salud!(サルゥト:乾杯!)」と始まる。大概それで渡り歩いていけるのは、どこの国のフェスでも同じらしい。
目をひそめる光景もたぶんにあって、特にトイレ事情が酷い。一般のスペースとバックステージは網で仕切られていて、男性であればアーティストもオーディエンスもこぞって立ち小便をする(女性はさすがに未確認だけれど、グラストにはいた)。流れてくる液体は酒でも雨でもなく、すべてそれだと考えていい。日本のフェスの汚れかたとはレベルが段違いで辟易したのは確かだけれど、どうしてどうして、しばらくすると慣れてしまう。一方で、靴を脱ぐ文化に生まれてホント良かったなぁ、とも思うのだ。
場内はステージが導線で結ばれたフジとは違い、でっかいスペースがひとつありその中で縦横無尽に行き交うといったもの。ステージは4つ存在する。マタライルとリパブリッカがそれぞれグリーン級の規模でありながら隙間無く隣接し、ステージ前にしても区画はいっさい無く4万人が密集。どちらかのステージに寄っていたとしても、まるでひとつのステージのような錯覚をさせる。ライブが始まればもう一方でセットチェンジが行なわれ、絶え間なく爆音が降り注ぐから常に混雑しているのだ。
すこし離れたところにホワイト級の規模をもった比較的新しいニュー・ロック・ステージがあるけれど、ソウルフライがここに割り当てられていたりするから、知名度云々で選んでいる訳ではないようだ。もうひとつのステージはオーディオメーカーがスポンサーとなり、ステージの名前もそのままなゼンハイザー。各バンドのDJがトラックを流してバトンを渡していくから、セットチェンジがない。一日中ヒップホップのライブが行われているステージだ。社会批判をラップに乗せて、切れ目のない塊としてぶつけてくる。ロックだろうがなんだろうが、低所得の労働者の目線で叫ばれ、主張があれば分け隔てなく受け入れられる。とことんがさつで荒っぽい、民衆のためのフェスティバルなのだ。
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report by taiki and photos by hanasan
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mag files : Fermin Muguruza
旗印は反逆! ヴィーニャ・ロック・フェスティバル (07/04/29 @ Vina Rock Festival, Benicassim) : review by taiki, photos by hanasan
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ボブ・マーリーとジョー・ストラマーと (04/04/17 @ Leonkavallo, Milan) : review by ken, photos by hanasan
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bad dog outside! (04/04/16 @ Ku.Bo, Bolzano) : review by ken, photos by hanasan
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赤い街から煙る街へ (04/04/15 @ Estragon, Bologna) : review by ken, photos by hanasan
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日本にはない空気 (04/04/14 @ Auditorium Flog, Firenze) : review by ken, photos by hanasan
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2007
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赤いレンガの街・ボローニャで 〜 助けられた民衆のバンド : ストリート・ビート・フェスティヴァル 2007 feat. バンダ・バソッティ、ボイコット、DDR、和気優 & ソウル・フード・インターナショナルズ・ロックステディ・レヴューとドクター・リン・ディン (27th Apr. @ エストラゴン, ボローニャ)
古都、フィレンツェへ 〜 六角形の中心に出来た渦 : ストリート・ビート・フェスティヴァル 2007 feat. バンダ・バソッティ、ボイコット、DDR、和気優 & ソウル・フード・インターナショナルズ・ロックステディ・レヴューとドクター・リン・ディン (26th Apr. @ オーディトリアム・フロッグ, フィレンツェ)
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2006
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