デイト・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン @ 渋谷オーイースト (25th April '07)
いくつかの罠、或いはグルーヴのゼロ・アワー
「こんばんは!ボンボンブランコでーす!」
会場内に設置されたスクリーンに、弾ける笑顔の女の子五人組。その横では、デイト・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン(以下:DCPRG))のマエストロにしてオーガナイザー、菊地成孔がしたり顔でニヤニヤしているのが映っている。DCPRGはライヴのサポート・アクトに毎回意表を付くアーティストを迎える事が多いのだが、今夜のゲストはおヘソも露わにキラキラの衣装で歌い踊る、ラテン系アイドルのボンボンブランコが登場。ステージ上には溢れる笑顔のアイドル。観客は対照的に驚き気味で、口を半開きにして固まっている(笑)。シュールだ。いやいやボンボンブランコは可愛いかった。でも、きっと裏で菊地成孔がニヤニヤしているに違いない。もうすでに、彼の罠にまんまと引っ掛かってしまっているようだ。
DCPRGのライヴはまずフロアに下りてみて欲しい。何故そんな基本を書くかと言えば、菊地の仕掛ける罠がいたる所にひそんでおり、まず罠をクリアする必要があるからだ。クリア出来れば、その先には音の桃源郷が待っているからだ。
バンドのコンセプトから、かなりの罠。お付き合い頂きたい。キーワードは、「純粋に戦場であるような音楽」。
反戦、政治性、ゲーム性、カルト性といった戦争にまつわるどの概念にも偏る事無く、戦争そのものの極限状態と「アッチの世界」的なカタルシスをファンクとグルーヴの黒いうねりに置き換える、のがコンセプト...らしい。罠だ。フロアという名の戦場で、サヴァイブする為に観客も踊り続ける、という訳だ。
今年四月に新作『フランツ・カフカズ・アメリカ』を発表したDCPRGのツアーのファイナル。客電の落ちた暗めの会場に、チューバ担当の関島を除いた12名のメンバーが現れる。観客の拍手の中、最後に菊地が足早に登場。12名のオーケストラにキーボードで対峙し客席に背を向ける黒いスーツの後ろ姿は、暗めの会場では最高の迷彩服かも知れない。ただひとつ、アライグマがそのまま乗っているかのような、ふわふわの帽子を除けば。
"ジャングル・クルーズにうってつけの日"からライヴはスタート。今まで一曲目には、映画化もされ、身も蓋も無いブラックジョークなオチがつく戦争小説と同タイトル、"CATCH22"が演奏されて来たのだが、今回は新作からの曲を中心に演奏が展開される。サウンドの基本はジャズ、ファンク、そしてツイン・ドラムの複雑なリズム、ブリブリと唸るベース、不穏な鍵盤音とパーカッションにホーン隊の演奏は、プログレに近い感覚。じわじわとリズムがループし、やがて演奏が頂点を迎えるカタルシスは、キング・クリムゾンの『太陽と戦慄』を連想させる。
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フロアにはステージを見つめる人、演奏で揺れている人、お酒なのか何なのか、ばっちりキマってぶっ倒れる人とさまざま。戦場にふさわしいカオス状態。フロアに鳴り響くサックスの音色はひたすらツヤツヤ艶艶でエロい。
菊地は時おり指揮者のように指揮をしたり、挑発するようなポーズをキメる。それぞれのパートは押す所と引く所が絶妙。ホーン隊は出番以外の時は舞台袖で演奏を見守り、いざ演奏となると立ち位置に整然と戻りここ一番のタイミングを外さない。
ライヴ後半、菊地の弾き始めた印象的なフレーズのイントロ"ワシントンDC"の辺りから流れが「静」から「動」へ転じる。そのまま"フォックス・トロット"、"Play Mate At Hanoi"と続くと観客の揺れも激しくなり、演奏の飽和が頂点に達し照明が鮮やかに照らされるたびに、観客から大きな歓声と手が挙がった。
"Circle/Line〜Hard Core Peace"に続く辺りで、チューバ担当の関島が遅れて登場。演奏のクライマックスでは、キーボードの坪口がショルダー・キーボードに持ち替え、ギターのジェイソンの頭に鍵盤を当てて演奏してみせる。観客からは大歓声。
観客をチルアウトさせるかの様に、最後は深く、厳かな演奏で"花旗"。演奏の終盤、メンバーがひとりひとり持ち場を離れ、楽器を下ろして去って行き、パーカッションの大儀だけになり、やがて照明は消えて真っ暗になった。
アンコールには、最後にして最大の罠が用意されていた。再び登場した菊地は、同じくステージに戻って来たメンバーの紹介をしながら突然笑い始めた。良く見れば、本来の立ち位置と違うメンバーがちらほら。サックスの後関はチューバを持ち始める。あれ?
菊地は躁状態のマシンガン・トークでMCをまくしたてる。そして突然、「重大なお知らせがあります。我々DCPRGは、(フランツ・カフカズ)『アメリカ』をラストアルバム、この演奏をラストツアーに、解散します。」
これが最後、と宣言してからツアーを行うと「じゃあ久しぶりに聴きにでも行くか」という人が来てしまうので、そういった事実がなくても見に来るお客さんの前だけで演奏するために、今日まで極秘にしていたとの事。ところが、「メンバーに活動停止の意向を伝えると、誰からも異論が出なかった」とか「ファ○ク青木(トロンボーン)と、女の取り合いで喧嘩になったのが理由」等、菊地のMCで観客は大笑い。ひどい(笑)。
DCPRGが今置かれている状況はむしろ最高で、ワガママなのは分かっているけども流れを変えたくなったと語る菊地。「奥さんもキレイ、子供も居て、幸せで収入もあるけど、もうこの家庭が嫌になった、っていう事が誰だってあるでしょう?」だって。再び観客は大笑い。ひどい(笑)。
そしてMCの最後に、こう語った。
「あんまりウチらベタベタとしないから、演奏を褒め合ったりとか無かったんだけど...初めて言うけど。メンバーみんな、凄い。」
そして最後の最後に、戦場に下された痛快な最終指令。バンドのメンバーの方から、「ワガママをきいてやるから、俺達のワガママもきけ。最後に楽器を入れ替えて"Hey Joe"を演奏させろ」と要求があったという!観客は大歓声、そして大真面目かつ絶妙なへなちょこ加減の"Hey Joe"に大爆笑、「豆腐屋」さながらのホーン隊のサウンドに大歓声。会場にいる全員が最高にイカしてる。菊地は脱力しまくりながら大笑い、本来ならチューバ担当の関島は、見事な「歯ギター」を披露していたのだった。
演奏が終わっても鳴り止まないアンコール。再び菊地がステージに現われると、笑顔で最後に、こう言い残して去って行ったのだった。
「甘えくさった要求は、受け付けません(笑)。」
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report by jet-girl and photos by naoaki
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2006
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