パトリック・ウルフ @ アストリア、ロンドン (11th Apr. '07)
眠れぬ森の王子
漆黒に染めた髪、まばゆいばかりのスパンコールのヴェスト。中性的な美しさを讃える眼差しが強く前を見据える若き英国人シンガー・ソングライター、パトリック・ウルフ。クラシックの素養を背景に12才の時から曲作りを始め、16才で家を飛び出し、路上パフォーマーをしながらその日暮らしをしていたという、そのワイルドな経歴から十分納得できるほど、彼の音楽的感性はロマンティックで叙情性に溢れ、そして何よりもオリジナルである。今年2月にメジャー・レーベル移籍後のリリースとなった3枚目のアルバム、"マジック・ポジション"を携えてのUKツアー、売り切れとなった今夜のアストリア、会場内は彼の異色のファッション・センスに影響された若い人達の姿で溢れ返っている。 |
8名のバック・ミュージシャンの中にはオペラ歌手である実姉の姿も。ストリングス、ドラムス、プログラマーにトロンボーンと、彼のエレクトロニカと夢心地なポップ・サウンドを生み出す、マジカルな構成。踊り子の様にヒラヒラと舞台へ登場したパトリック、手のひらを天にかざし、くるくると飛び跳ねながら歌うその姿は実に無邪気なようで、けれども客席をじぃーっと見つめる表情からは彼のイマジネーションと情熱がありありと伝わってくる。ウクレレの平和な響きと、パトリックの陽気なダンスに心躍る"ゲット・ロスト"、オーケストラの美しい調べが涙を誘う"マグピィ"、オーディエンスと共に手拍子で、軽やかな歌声が弾んだ"ブラック・バード・セクシィ・バック"。「はっ、とわっ!」と雄叫び、しっかり足を踏みしめステージを往来してみたかと思うと、今度は女性ゲスト・ヴォーカリストとの甘美なデュエットでしっとりとしたムードをもたらし、一体どのようにしたらこんなに色とりどりの表現ができるのかと、不思議でならない。けれども、その不思議さにぐいぐいと引き込まれ、時間も忘れてパトリックの音楽を楽しむ自分がいるのだ。音の流れとそこに生まれる雰囲気、表情が変幻自在に変わり、誰にも真似できない、しようのない彼独特の世界が彩るステージの出来事は、もはや単なるライヴを通り越した一種の演劇だ。シンガー・ソングライターという枠を大きくはみ出したアーティスト、パトリックにとっては、コンサートの舞台は心のスケッチを公開し、それに共鳴する仲間達と触れ合う場所、創造の源ではないかとさえ思う。
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アンコールも含め、アイドルもびっくりのド派手で突飛な衣装替え計三回、セットリストの順を無視し、ファンに何が聴きたいかと自らリクエストを募って会場の大声援を最後まで浴び続けたパトリック。巷が彼のようなアーティストのコンサートばかりであったら世の中は至って退屈に違いない。というより、パトリックにしかこんな愉快・痛快なパフォーマンスは出来ようない。ちょっと変わった事をしてみたり、こだわりが強過ぎる芸術至上主義のミュージシャンは、とかく玄人向けだのマニアックだのと鼻白む表現で片付けられがちで、メイン・ストリームの軌道を外れる事が多い。だけどミュージシャンってそもそも芸術家じゃないか。近頃は同じ様なバンドばっかり、聴いた様な曲ばっかりだと嘆く前に、一度は観て欲しいパトリック・ウルフ。格好は奇抜でも、音楽そのものは究極のポップスだ。彼こそがこれからの音楽の未来を明るくする。
-- setlist --
Peacock Noises / Overture / Get Lost / To the Lighthouse / Black Bird.Sexy Back / Tristan / Pigeon Song / Teignmouth / Maggie / Don't Say No / The Stars / The Magic Position
-- encore --
Accident & Emergency / Feels Like I'm In Love |
report by kaori and photos by Darjeeling
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mag files : Patrick Wolf
眠れぬ森の王子 (07/04/11 @ Astoria, London) : review by kaori, photos by Darjeeling
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2007
裸の俺様 : レイザーライト (8th Apr. @ アールズ・コート、ロンドン)
耳を肥やせ、インディ・ファンよ : リトル・マン・テイト (5th Apr. @ アストリア、ロンドン)
あと、もう一歩 : マキシモ・パーク (4th Apr. @ HMV、ロンドン)
泣く子も黙るライヴ天国 : フォール・アウト・ボーイ (2nd Apr. @ ハマースミス・アポロ、ロンドン)
二枚目の分かれ道 : ザ・レイクス (31st Mar. @ ブリクストン・アカデミー、ロンドン)
ボヘミアン・ラプソディ : ゲット・ケイプ・ウェア・ケイプ・フライ (30th Mar. @ フォーラム、ロンドン)
失われぬ青春ポップス : ザ・シンズ (28th Mar. @ フォーラム、ロンドン)
ジャンル無法地帯警報 : エンター・シカリ (21st Mar. @ HMV、ロンドン)
加速するエモ・ポップ特急 : キッズ・イン・グラス・ハウジーズ (17th Mar. @ ココ、ロンドン)
天才とセンティメンタリズム : ブライト・アイズ (16th Mar. @ ココ、ロンドン)
音楽が音楽であるために : ジ・アワーズ (15th Mar. @ KCL、ロンドン)
踊るインベイダー : ザ・レイクス (12th Mar. @ HMV、ロンドン)
怒れるスコッツ : ビッフィ・クライロ (9th Mar. @ HMV、ロンドン)
フィヨルドの咆哮 : マンドゥ・ディアオ (7th Mar. @ KCL、ロンドン)
お茶の間バンドの平均美学 : カイザー・チーフス (2nd Mar. @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
妖女の夢は夜ひらく : ハウリング・ベルズ (25th Feb. @ ココ、ロンドン)
闘う女王様 : ゴシップ (24th Feb. @ アストリア、ロンドン)
密色の調べ : デューク・スペシャル (21st Feb. @ ULU、ロンドン)
天使の微笑み、悪魔の囁き : レジーナ・スペクター (16th Feb. @ アストリア、ロンドン)
CD買うより観においで : ザ・ホロウェイズ (14th Feb. @ ココ、ロンドン)
賢者の演奏 : クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー (13th Feb. @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
真冬のカーニヴァル : ラーリキン・ラヴ (12th Feb. @ ココ、ロンドン)
僕らの音がグラマラス : スウィッチーズ (9th Feb. @ ココ、ロンドン)
弾いて、歌って、踊っちゃう : オーケイ・ゴー (4th Feb. @ ココ、ロンドン)
暴れん坊少年、見参 : ジェイミーT (24th Jan. @ アストリア、ロンドン)
大人のメロディ : セブン・フォー・セブンス (23rd Jan. @ ザ・ボーダーライン、ロンドン)
音も人も青春まっただ中 : ザ・ヴュー (22nd Jan. @ HMV、ロンドン)
2006
皇帝、降臨すれども統治せず : カサビアン (19th Dec. @ アールズ・コート、ロンドン)
北の音、弾ける : アイドルワイルド (4th Dec. @ スカラ、ロンドン)
オらがバンド、ザ・ズートンズ! : ザ・ズートンズ (3rd Dec. @ ラウンドハウス、ロンドン)
節目も何も、余裕です : ザ・シャーラタンズ (16th Nov. @ HMV、ロンドン)
上空戦線異状なし : エアー・トラフィック (31st Oct @ 100クラブ、ロンドン)
聡明な音楽 : ザ・ディアーズ(26th Oct @ ココ、ロンドン)
トレ・ビヤン : フィーニックス(21st Oct @ アストリア、ロンドン)
次期王者、決定 : ザ・クークス(19th Oct @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン)
ラップン・ロール : ジェイミーT(19th Oct @ HMV、ロンドン)
打ち込んで、ぶちかませ : ザ・クーパー・テンプル・クロース(18th Oct @ ココ、ロンドン)
メルヘンなのにやかましや : エレクトリック・ソフト・パレード(12th Oct @ ウォーター・ラッツ、ロンドン)
このライヴを観てから死ね : マキシモ・パーク(6th Oct @ ブリクストン・アカデミー、ロンドン)
日曜の夜はライアンと : ライアン・アダケス&ザ・カーディナルズ(1st Oct @ シェパーズ・ブッシュ・エンパイヤ、ロンドン)
王子から体育会系へ : ディレイズ(21th Sep @ ザ・フェズ、レディング)
勢いあれど : アミューズメント・パークス・オン・ファイア(11th Sep @ ルミナール、ロンドン)
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