フォール・アウト・ボーイ @ 渋谷AX (27th Feb. '07)
フォール・アウト・ボーイは変わらない
2004年に初めてフォール・アウト・ボーイのライヴを見た。それは彼らにとっても初来日だったはずであり、まだメジャーどころか、インディー・レーベルFueled By Ramen(www.fueledbyramen.com)に所属していて、アルバム『テイク・ディス・トゥ・ユア・グレイヴ』しか出していない頃だった。誰にも渡したくない(教えたくない、知られたくない)バンドというのは誰にでもあるはずで、それは決して意地の悪い思いからではなく、自分ひとりだけでも、そのバンドの存在と出会えたことの幸せを感じる時であり、そっとそのアルバムを胸に大切に閉まっておきたいという思い。私にとってのそのバンドが、フォール・アウト・ボーイなのだ。初々しいメンバーの顔が載せられたデジパックの簡単な仕様のCD。勢いのある、そして強く耳に残るメロディと小説のような歌詞。凄いバンドだと軽くノックアウトされたものだった。
彼らは『フロム・アンダー・ザ・コーク・ツリー』でメジャー・デビューを飾り、成功へと走り出した。昨年の夏フェスの参加では、メインのステージで驚くほどの人数のオーディエンスを炎天下の下、躍らせ続けた。そこにいたすべての人が彼らのファンでなくても、あのステージ・パフォーマンスに飲み込まれたに違いない。照りつける太陽よりも熱く、キラキラとした汗と水を飛び散らしたあのステージに。
今回の単独ライヴは規模を少し拡大した会場で渋谷AX。会場が近づくにつれて、私の鼓動は早鐘を打つ。大切な人たちのライヴを見ることができる、まるで恋心に似た甘い思い。会場は開演のずいぶん前からギッシリと埋め尽くされて、すでに熱気でムッとした暑さになっていた。近くでなくてもいい、彼らがちゃんと見られる場所であればどこでもいい。ステージすべてが見渡せる場所を見つけてその時を待った。
オープニング・アクトは、ハッシュ・サウンド。フォール・アウト・ボーイのベーシストのピートが仕切るレーベルDecaydanceのバンドでシカゴ出身の4人組。ポップなサウンドにクラシック、ブルース、スウィング、ジャズのテイストが少しずつ散りばめられた、正統派バンド。クランベリーズの曲をカヴァーしていたのもあってか、ちょっとクランベリーズに近いものもあるかもしれない。歌声からはグリーンシトラスの香りが、汗からはマイナスイオンが放出されているような、そんな爽やかさがあった。紅一点のグレタが歌う声が上ずっていたような感じもあったけれど、爽快さにセピアっぽい懐かしさを合わせたポップ・サウンドは気持ちのいい押しすぎないポップ感で良かった。
さてお待ちかねのフォール・アウト・ボーイの登場だ。客電が落ちるとどこでも味わう鳥肌ものの大歓声が沸き起こってオーディエンスが前へ押し寄せていった。そんな中"Be Quiet..."の囁きがどこからか流れ、ラップ調のSEがそこに被さる。今までにない登場の仕方だ。これはきっとニュー・アルバムの雰囲気を用いた効果だろう。
メンバーが登場すると、ドラマーのアンディの位置にジョー、パトリック、ピートが集まり、4人で掲げた手を合わせて意思統一。そして"ファッション・センス"(『フロム・アンダー・ザ・コーク・ツリー』の1曲目)で、最初から、天井を突き抜けるほどのテンションの高さと勢いまで引っ張っていく。"ジン・ジョイント"、"シュガー"と立て続けに放たれるトビ曲にオーディエンスの休む隙もない。
相変わらずヴォーカルのパトリックは定位置で、その周りをギターリストのジョーとベーシストのピートが縦横無尽に飛び、走り、勢いよく回転し、ステージ前方ギリギリまで迫って煽りまくる。広いステージでも、一人ひとりがしっかりと、とても大きく見えた。3年前から見ている彼らは、確実に男前になっている。4人とも、大好きな歌と曲作りとは別の予想外の渦に巻き込まれて苦しんだ時期を経てきた。でもステージに立てば、自分たちの曲をプレイできるのが嬉しくてたまらなく、その曲で大満足のレスポンスをするオーディエンスを見るのが楽しくて仕方がないように見える。自信と満喫感の分厚いオーラがメンバーひとり一人を包んでいた。オーディエンスのパワーと競うようにハイ・テンションでプレイする。ステージ上の彼らのパフォーマンスの力強さと元気の良さが、オーディエンスの元気に拍車をかける。そこにFOBの魅力的なメロディが大音量で全身に降りかかってくる。その相乗効果、こんな至福の時ったらない!驚いたのは、彼らの音が、以前にも増して厚くダイナミックになっていることだ。ニュー・アルバムの"スリラー"や"アーム・レース"は、すでにオーディエンスのアンセム的な曲になり、会場中に気持ちよく大合唱が響いていた。
ニュー・アルバムの曲をメインにするのかと思ったら、セットリストのほとんどは、前作2枚からのものだった。ニュー・アルバムからは4曲ほど。別に不満があったわけじゃない。好きな曲、彼らのライヴでは欠かせない曲はもちろん詰め込まれているし、オーディエンスのレスポンスやシンガロンもゾクゾクするほど大きく響き渡っていた。ドキドキするし、なんたって嬉しい。締めは定番の"ダンス・ダンス"、そしてラストにお約束、ピートのダイヴがある"サタデー"。みんなで全速力で走り続けた1時間ちょっとのライヴ。次は夏に戻ってくるからというピートの言葉を信じて待っていよう。
彼らの音楽への貪欲までの挑戦は止むことなく、才能を大きく広げ、あらゆることに挑戦していっている。メジャーになるのが悪いワケじゃない。それはリリースされたばかりの新作『インフィニティ・オン・ハイ』での音の進化でわかる。スタンスを崩さず、曲を作ることしかできない、それ以外に何もないというメンバーの強い思いがぎっしり込められている。無限に広げていける才能を持ち、聴くたびに新鮮な高揚感を与えてくれるこのバンドを私は寵愛している。メジャーになったって変わらない。いいものは認められてどんどんと世界の人に届けられるんだ。それがいいんだ。
相変わらず最高に全力疾走したパワフル・ライヴで楽しませてくれた。家に着くまで彼らの音楽が耳の中で鳴り続け笑顔も消えなかった。これって最高に幸せだ。空を見上げると、ボンヤリ靄のかかった月が見えた。"スリラー"のイントロ部分のジェイ・Zの語りが聞こえた気がした。「ウェルカム、シィーヤッ!」って。
*フォール・アウト・ボーイの曲のタイトルはどれもあまりに長いので、文中では省略させていただきました。
-- setlist -- (原文まま)
Fashion Sense / Gin Joints / Sugar / Patron Saints / Opener / Nobody Puts / 16 Candles / Thriller / Where Is Your Boy / XO / Golden / Arms Race / Slept With Someone / Satisfaction / Dance Dance / Saturday / |
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