デューク・スペシャル @ ULU、ロンドン (21st Feb. '07)
密色の調べ
北アイルランド、ベルファスト生まれのデュークスペシャルこと、ピーター・ウィルソンの音楽性とそのルックスは全くもって釣り合っていない。わさわさのドレッド・ヘアにパイレーツ・オヴ・カリビアンのジャック・スパロウにも劣らぬ濃ゆいアイライン。てっきりニュー・メタル筋の人かと思ったのだが、ピアノの旋律に乗った甘く柔らかな声と、豊穣なバンド・アンサンブルが作り出す世界は、美しくて激しく、そしてそこはかとなく哀しい。
ステージに登場した彼は何とピアノの椅子の上に立ち、そのまま"アイ・スィンク・アイム・ルージング・ユー"をアカペラで歌う。強面に似合わぬ伸びやかなその声が空間いっぱいに広がり、聴衆の眼差しを一心に浴びた軍服姿のデュークからは何か妖気さえ漂っている。女性シンガーとのデュエット曲"スカーレット"は子守唄のように心地良く、エリオット・スミスや、ベン・フォールズらが持つ、まるで物語を紡いでるかの様に奏でられる音楽の世界がここにもある。と同時に、"ポートレイト"や、"サルヴェイション・タンバリン"では立ったままピアノを弾き演奏する独特なプレイ・スタイル、チーズのすり下ろし器でピアノを叩いてはピアノ丸ごと持ち上げたり、一心不乱に不協和音を弾く姿からはライヴでしか伝えられない激情が迸っていた。
腕の確かなバック・バンドと共に作り出される、ピアノを主体としたロックでもあり、ソウルでもあり、はたまたクラシックの要素をも感じさせるジャンル分けに収まらないこのサウンドと彼のヴィジュアル・イメージはその独創性所以であり、また一人間としての個性でもあるのだろう。アンコールでは、シューマンの調べを思い起こさせる"クロウサー・トゥ・ザ・スタート"、客席にメンバー全員降り立ち、アコーディオンで森の器楽隊の様に心温まる音を響かせたラストの"ジョン・レノン"まで、表現者としての芸術至上的な素晴らしさと、ファンを思いやる優しさがこの夜を包み込んだ。
-- setlist --
I Think I am Losing You / Brixton Leaves / Everybody Wants A Little Something / Slip Of A Girl / Last Night I Nearly Died / Scarlett / Don't Breathe / No Cover Up / Quiet Revolutionaries / Baby Britain / Portrait / This Could Be My Last Day / Freewheel
-- encore --
Salvation Tambourine / Closer To The Start / I Let You Down / Stumble And Fall / John Lennon |
report and photos by kaori
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